30分で販売価格から11倍へ! コインチェックで何が起きた?
暗号資産(仮想通貨)バブルはまだ終わっていないのかも――そう感じさせたのが、7月29日(木)にコインチェック(Coincheck)へ上場したパレットトークン(Palette Token、PLT)の値動きだ。
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この日、12時に上場したパレットトークンの”初値”と思われる価格は6.075円。販売価格4.05円から50%の上昇だ。当初の値幅制限上限価格は販売価格+50%と定められていたから、株でいうストップ高状態のようなものだった。
”初値”と思われる価格がついたあとの値幅制限上限価格は最終取引価格+50%と定められており、約定のないまま5分続くと、コインチェック自身が最小の売り注文を執行することがあるとのルールになっていた。そのようなことを含めて、最終取引価格が上昇すれば、さらに値幅制限上限価格は50%引き上げられる。
そんなふうにして5分で50%、値幅制限上限価格を切り上げる動きが数回続き、12時半前には46.129円の高値をつけた。
わずか30分で当初の販売価格から11倍以上の上昇となったパレットトークンの暴騰劇、コインチェックで何が起きていたのだろうか。
※筆者作成
(出所:TradingView)
IEO=取引所を介した新たな暗号資産の上場。ICO、IPOとの違いは?
今回、コインチェックが行ったのは「IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング、取引所によるトークン(※)の売り出し)」。「エクスチェンジ」、すなわち取引所による新たなトークンの売り出しだ。
(※「トークン」とは、既存のブロックチェーン技術を使って発行された独自の暗号資産のこと)
新たな暗号資産の売り出しというと、2017年バブルで流行した「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」を思い出す人もいるだろう。
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IEOとICOの違いはどこにあるのか――それは信頼性の有無だ。ICOは発行者が自ら売り出していたため、夢物語のような事業計画(ホワイトペーパー)をもとにして投資家自身が将来性を判断する必要があった。そのため、詐欺的なICOが横行したことは記憶に新しい。そうした暗号資産のほとんどは現在、無価値となっている。
当時、GACKT氏が参画して話題となった「SPINDLE(SPD)」なんていうプロジェクトもあった。ICOで売り出された価格は30円程度だったが、2021年7月時点の価格は0.007908円 。ケタが小さすぎてわかりにくいが0.79銭だから、ニュージーランドドル/円1万通貨のスプレッドにもならない金額だ。
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SPINDLEは運営者が参加していたテレグラムも閉鎖され、ホームページも2019年3月を最後に更新されておらず、プロジェクトの進捗状況は確認できない。
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こういった詐欺的なプロジェクトが横行したICOへの問題意識があって、新たに生まれたのがIEOだ。金融当局への登録がある暗号資産取引所がプロジェクトの信頼性や将来性を審査し、「売り出す価値がある」と判断されたプロジェクトのトークンだけを販売する。
企業が新たに株式上場をめざすIPOで東京証券取引所(東証)などの取引所や主幹事証券会社が審査を行なうのと、しくみ的にはよく似ている。
また、ICOでは新たな暗号資産を発行しても、取引所へ上場して売買できるかどうかは別問題だった。上場にこぎ着けられず、「ICOで買ったが売却できない」といったケースもあり得た。だが、IEOは取引所への上場を前提としているため、事前に上場が保証されている点も大きな違いだ。
IEO、ICO、IPOの違いを比較してみると、以下のとおりとなる。
※筆者作成
投資すべきか、2つの材料で判断
では今回、コインチェックがIEOを行ったパレットトークンとは、どんなトークンなのだろうか?
購入に値するトークンなのかどうかを判断するための材料として、コインチェックは15ページにわたるPDF「Palette Tokenの販売及び取扱に関する開示情報」を公開した。ここにはプロジェクトの目的や調達資金の使途、発行済みトークンの保有比率などが記載されている。
PDF15ページというと多いと思うかもしれない。だが、IPOの目論見書が200ページを超えることも珍しくないことを思えば、「概要程度」といったところだろうか。1ページ目に書かれた「Palette Token 販売概要(Initial Exchange Offering)」だけに目を通す人が大半だろう。
あとで詳しく説明するが、そもそも「パレット」は、デジタルアイテムを発行・管理・流通するためのブロックチェーンネットワーク。
そして、それを安定的に運用するために発行されたトークンが今回、IEOが実施されたパレットトークンということになるが、その大元である「パレット」がめざす未来をより詳しく描いているのは、発行主体である「Hashpallete」が発行したホワイトペーパー。
こちらは44ページとボリュームが多く、将来のロードマップなども描かれており、従来のICOにおけるホワイトペーパーに近い印象だ。
IEOでは、今後もこのように取引所が公開する開示情報と、発行主体の公開するホワイトペーパーの2つが基本的な判断材料となっていくだろう。
IEOはどうやって申し込めばいい?
では、パレットトークンはどうすれば買えたのか。すでにパレットトークンのIEOは終了しているものの、今後のIEOでも大枠は変わらないと思われるため、確認しておこう。
IEOに申し込むには、何はなくとも売り出しの主体となる取引所への口座開設が欠かせない。パレットトークンの場合、それはコインチェックであり、口座開設だけでなく、以下の2つが条件となっていた。
●余剰資金(資産残高)が100万円以上であること
●暗号資産の取引歴があること
〇Coincheckのみではなく、他の販売所や取引所での経験も含む
口座を用意したら、IEOに必要な資金を入金し、所定の申込み期間に手続きを行う、といった流れになる。
IEOの一般的な流れ
1. 取引所への口座開設
2. 必要資金を入金
3. 申込み期間内に手続きを行う
4. 抽選の場合は結果を待つ
5. トークンが付与される
6. 上場日以降、売却可能に
IEOの申し込みに必要な資金は?
パレットトークンの申込みに必要な資金はどのくらいだったのだろうか。
パレットトークンのIEOは1口=1000PLT、1PLT=4.05円で行われた。1口の申込みには4050円+手数料(8%)が最低限必要な資金となる。
1口申し込んだとすると4050円+手数料8%分の資金がロックされ、他の暗号資産の購入や出金はできなくなる。IEOへ参加できればロックされていた資産がコインチェックへ支払われ、その代わりにパレットトークンが付与される。
今回のパレットトークンでは申込み開始後、わずか6分で調達目標の9億3000万円へ到達し、最終的に227億円の申込みがあったという。買えたのは抽選の結果、当選した人だけだった。抽選倍率24.4倍の狭き門だ。
※筆者作成
IEOの当選確率を上げるために
ただ、パレットトークンでは1人最大2400口まで申し込めた。4050円×2400口=972万円(+手数料)の資金があれば、2400口÷抽選倍率24.4倍で100口弱ぐらいは当選していておかしくなかった、ともいえる。株のIPOなら、ポイントによって当選確率が上がったりするサービスを行う証券会社もあるが、コインチェックは「申込み多数の場合は、抽選にて当選者を決定」と発表しており、パレットトークンについては純粋な抽選だったようだ。
ちなみに、もし目標金額に達しなかった場合はどうなっていたのか。
パレットトークンでは「ミニマムキャップ」が6億900万円と設定されていた。「最低限、これだけ集まればIEOが成立したこととします」という金額だ。ミニマムキャップに達すればIEOが成立しパレットトークンが配布され、達しなかった場合はIEO自体が無効となる。
パレットトークンのIEOが成功に終わったことで第2、第3のIEOが実施されるだろうから、興味がある人は、あらかじめ、コインチェックへ口座を開設しておこう。
海外でのIEOはどうなっているのか
パレットトークンは「日本初」のIEOだったが、海外ではすでに一般的な存在だ。
IEOが注目されるきっかけとなったのは2019年、海外の大手取引所であるバイナンスが行なったPolygon(MATIC)の売り出しだ。6億円の調達に成功したMATICの現在の時価総額は約7300億円。時価総額ランキングで17位となるまでに成長している(2021年7月30日現在)。
昨年(2020年)後半からは、やはり海外の大手取引所であるFTXでのIEOも盛り上がっている。FTXがどのくらい大手か。大谷翔平選手の映像があったら審判にも注目してほしい。胸や肩に「FTX」のロゴが貼られているかもしれない。FTXはMLBのオフィシャルパートナーとなっているためだ。
そんなFTXが行なうIEO銘柄はいずれも上場直後に高騰。FTXでIEOする銘柄は争奪戦となっている。
※筆者作成
「パレット」とはどんなものなのか?
パレットトークンのIEO直後の暴騰は、こうした海外での状況が直輸入された格好だ。
ここまでパレットトークンというトークンが発行される大元となった「パレット」というブロックチェーンネットワークの内容について、詳しく解説してこなかったのは、その内容云々よりも「IEOバブル」が本質ではないかと考えているからなのだが、いちおう「パレット」の内容についても触れておこう。
パレットトークンの発行主体は「Hashpalette」という会社であり、東証1部上場のLink-UとブロックチェーンベンチャーのHashPortにより設立された会社だ。
「パレット」がめざすのは「NFT(ノン・ファンジブル・トークン)」のプラットフォーム。
なかなか本質がわかりにくいNFTだが、日本経済新聞などは「鑑定書付のデジタルデータ」と表現している。
音楽やマンガ、トレーディングカードなどでは製作者や著作権者の許諾を得ない海賊版が問題となるし、持ち主からすると盗難なども心配だ。それが正当な権利者が認めた作品であることや所有者をブロックチェーンに記録することで、そうした課題を解決し、また、売買を簡単にするのがNFTである。
NFTは世界的に流行しており、NBAを題材にしたNFTトレカ「NBA Top Shot」は発売されるたびに即完売となるほどの人気を集めているし、SNSでは日本のAV女優が発行したNFTに100万円を超える値段がついて話題を集めた。NFT化されたアイテムを売買できるゲームも流行中だ。
※筆者作成
NFTは所有者のデータなどをブロックチェーンに記録するが、現在はイーサリアムのブロックチェーンを利用したNFTが主流となっている。今後、さまざまな用途で発展が期待されるNFTだが、そこで課題となっているのがイーサリアムの手数料高騰だ。
「パレット」では独自のブロックチェーンを利用することで低廉な手数料を実現しつつ、「クロスチェーン」と呼ばれる技術により、イーサリアムのブロックチェーンとの互換性を確保することをめざしているようだ。
イーサリアムも8月に予定される大型ハードフォーク「ロンドン」により、手数料問題などの解消をめざしており、実際にパレットがNFTのプラットフォームとして利用されるかどうかは今後の取り組み次第となってくる。
NFTに注力するコインチェック
ちなみに、コインチェックはIEOだけでなく、NFTでも先駆的な取り組みを行ってきた。
NFTが売買される場である「Coincheck NFT」のベータ版を6月にリリースし、SKE48とのコラボレーションによるNFTやゲーム内アイテムなどを発売してもいる。
(出所:Coincheck)
次なるIEOで日本にもバブルが起きるのか
今後、コインチェックでも新たなIEOがあるだろうし、他にもIEOを行う取引所が出てくるだろう。
パレットトークンの成功を受けて、IEO銘柄がこぞって高騰する「IEOバブル」のような現象が起きないとは限らない。2017年の暗号資産バブルでは、ビットコイン価格が急落したあとも、ICOの活況が続いてプチバブルを起こした。
「暗号資産バブルはいったん天井をつけたかと思っています」と西原宏一さんが指摘するように、今回のバブルはすでに終了したと見る向きも多い。
【参考記事】
●米ドル/円やクロス円は買っていい。「米金利上昇=リスクオン」の反応が顕著に(7月26日、西原宏一&大橋ひろこ)
ビットコインなど主要な暗号資産は目先の天井をつけたのだとしても、IEOをキーワードとしたプチバブルが起きる可能性はありそうだ。
IEOの参加には取引所への口座開設が必須。まだ口座を作っていない人は作っておいて損はなさそうだ。
>>>コインチェックの口座開設方法やメリット・デメリットをわかりやすく解説した記事はコチラ
(文/ミドルマン・高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・藤本康文)
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