■波紋を呼んだマネーパートナーズの発表
東証1部上場のマネーパートナーズグループといえば、FXトレーダーにもおなじみの名前。このマネーパートナーズが7月16日(木)に発表したのが、アメリカの大手ビットコイン取引所Kraken(クラーケン)との「業務提携に係る基本合意に関するお知らせ」だ。
よく読めば、業務提携が決まったわけではなく、「これから業務提携についての話し合いをしていきますよ」ということなのだが、このリリースが歴史的な一歩になるかもしれない。
これはFXトレーダーも絶対に見逃せないニュースなのだが、ビットコインの世界って日ごろは縁遠い人が多いことだろう。そこで、本記事ではビットコインの基礎について解説しながら、マネーパートナーズが出したリリースの意義を確認していきたい。
■「ビットコイン? あの逮捕されたやつでしょ」の誤解
今回、マネーパートナーズが出したリリース、「提携します!」という発表ではないけれど、取材を進めていくと具体的な提携内容などが少しずつ煮詰まってきている様子がうかがえた。
端的に言えば、「マネーパートナーズでビットコインが買える」という方向での提携となりそうだ。
「ビットコインって、こないだ逮捕されたやつでしょ?」という人、あるいは、「ビットコインがなぜ、FXに関係するのか? ここはザイFX!だろ」と憤る人だっているだろう。でも、ちょっと待ってほしい。FXとビットコインは非常に近い位置にある。
まずはこのスクリーンショットを見てほしい。
(出所:ブルガリアのビットコイン取引所BTC-e)
チャートソフトとして、あるいは自動売買ソフトとして広く利用されているメタトレーダー(MT4)の画面だが、表示されているのは「BTC/USD」(※)なる通貨ペア。つまり、ビットコイン/米ドルだ。
世界ではすでにビットコインをFXのようにトレードしている人が多く存在している。そのツールの1つとして、メタトレーダー(MT4)を採用する会社も世界にはあるわけだ。
(※編集部注:「BTC」はビットコインの通貨記号。この他に「XBT」という通貨記号が使われることもある)
■なぜ、わざわざビットコインを取引するのか
「FXで取引できる通貨ペアは十分にあるのに、なぜ、わざわざビットコインまで手を出す必要があるのか?」
そう思う人も多いのではないだろうか。
米ドルや円、ユーロのような既存の通貨(ビットコイン愛好者は「フィアット・マネー」と呼ぶことも多い)だけで、なぜ満足できないのか。そこにはビットコインならではの理由がある。ビットコインの特徴と絡めて、それを見ていこう。
既存の通貨は政府や中央銀行が発行しているのに対して、ビットコインのような「ノーフィアット・マネー」に発行者はいない。
ビットコインに発行者はいないが、原案を生んだ人物はいる。一切が謎に包まれた「サトシ・ナカモト」だ。これまでに幾度となく「この人がサトシだ!」と報道されてきたが、いずれも的はずれだったようで、いまだにその正体は謎のままだ。
■利用者相互で管理していくビットコイン
正体不明のサトシ・ナカモトが発表した論文は革新的な発明を含んでいた。銀行やクレジットカードの発行会社のような管理者がいなくとも、「P2P」(ピアツーピア)、つまり、ビットコインネットワークの参加者だけで取引の管理を可能にするアイデアだ。
少し細かな話になるが、ビットコインには取引台帳のようなものがある。「ブロックチェーン」だ。ブロックチェーンにはビットコインによるすべての取引が記録されている。2009年1月からのすべての取引だ。このブロックチェーンはビットコインネットワークに参加する人が保有し、また、インターネット上で公開もされている。
たとえば、誰かが「おれがサトシに100万ビットコインを送金」(ホントは10ビットコインしか持ってないけど)と不正を犯そうとしても、ブロックチェーンを見れば「こいつは10ビットコインしか持っていないな」とわかるから、この取引申請は拒絶される。
■計算作業の報酬として、ビットコインが与えられる
ビットコインによる取引の承認作業は、無償で行なわれるわけではない。いち早く新たなブロックチェーンを結びつけた人には、報酬としてビットコインが与えられる。いわゆる「マイニング」(採掘)と呼ばれる作業であり、その実態は膨大な単純計算の反復だ。
サトシ・ナカモトはビットコインについて、「1つの電子コインは、連続するデジタル署名のチェーン」と定義している。ブロックチェーンそのものがビットコインだということになる。
■ビットコインには「採算分岐レート」がある
話はそれるが、このマイニングはチャート上の節目を読み解くヒントともなる。
家庭のコンピューターでもビットコインが採掘できたのははるか昔。計算量があまりに膨大なため、現在では「マイニング工場」とも呼ぶべき専門施設での採掘が主流だ。それには膨大な電力を消費するため、電気料金の安い中国などがマイニングの一大拠点となっている。
ビットコインが注目されると、マイニングしようとする人も増える。マイニング競争が激しくなると、それだけ消費電力も多くなり、マイニングコストが高まるから、「これ以上、ビットコイン価格が下がったら、マイニングしても割に合わないな」という採算分岐レートが存在する。原油でも、あるところまで価格が下がると、「この油価じゃいくら掘ってもコストのほうが高くつく」と生産を休止する油田があるのと同じだ。
マイニングの採算分岐レートは国や採掘環境によっても大きく異なるが、大雑把に200ドルと言われている。つまりビットコイン価格が200ドルを下回れば、有力なマイナー(採掘者)は価格を引き上げようとするだろうし、マイニングを休む人も出てくるかもしれない。価格が乱高下しやすいポイントだということになる。
(出所:Kraken)
■ビットコインの利点に着目した人々
ビットコインが世に誕生したのは2009年1月3日(土)。この日、最初のビットコインが生まれた。当然、まだ誰も注目する人などおらず、市場もなく、それゆえ価格もなかったのだが、これ以降、ビットコインにさまざまな人が注目し、急速に発展していくことになる。そうした人物の1人がカードゲームマニアだ。
巨額のビットコイン紛失事件で世間を騒がせた大手ビットコイン取引所・マウントゴックスもまた、元々はトレーディングカードの交換サイトだった。遠方の人とカードの交換をするには現金のやりとりが必要だ。しかし、アメリカは日本ほど銀行ネットワークが発達していない。ましてカードの単価は数ドル程度。そのために送金手数料を払うのは馬鹿らしい。
そこで注目されたのがビットコインだった。ビットコインならば距離や国境を問わず、ごくごく少額の手数料で送金できる。それもせいぜい10分もあれば入金確認が可能だから、トレーディングカードを売買するときの決済手段として使われるようになった。
■ビットコインも爆買いされ1000ドル突破へ
また、自国の金融システムに不信感を持っている人もビットコインに注目した。自分の資産を安全に、かつ手軽に海外へと逃避させるための手段としてだ。その代表格が資本規制の厳しい中国人だ。
かつて、ロシア貴族は革命で自己の立場が危うくなるとダイヤモンドを身につけて海外へ亡命したという。世界のどこであれ価値があり、ごく小さなサイズで持ち運べて、換金も容易なためだ。現代ではビットコインがダイヤモンドに置き換わったとも考えられるだろう。
2013年、誕生から5年でビットコインの価格は1000ドルを突破した。その背景となったのは中国人の爆買いだった。
カードゲームのマニアにしても、中国人にしても、あるいは表立っては送金できないような闇の取引を行ないたい人にとっても、ビットコインはとても便利な存在だった。こうした人々の実需に支えられてビットコインの価格は高騰してきたわけだ。
ところが、2014年2月に表面化したマウントゴックスの経営破綻によりビットコイン価格は急落する。
(出所:ブルガリアのビットコイン取引所BTC-e)
■ビットコインの将来性に期待しての先行投資
このとき、麻生財務大臣は「破綻すると思っていた」とコメントしたが、その言葉とは裏腹に、ビットコインに対して各国政府は規制をかける=ビットコインの存在を認める方向で動き始めている。日本でも金融庁が規制づくりに着手したとの報道が7月に流れた。
でも、まだまだビットコインの利用者は充分に広まっていないし、価格もゴックス・ショックによる急落から立ち直っていない。
「これからもっと広く利用されるはず!」、そう思う人が将来的に値上がりを期待して買うこともある。将来性有望な新興企業の株を買うのと同じ発想だ。あるいは「トルコ経済は有望だから、通貨高に期待してトルコリラ/円を買っておこう」なんていうのとも近いかも。
そして、ビットコインの値動きをもう少し視野を狭くして見ると、もう1つの魅力も見えてくる。それが値動きの大きさ、ボラティリティの高さだ。
(「ビットコインの衝撃(2) マウントゴックスの真の罪とは? 高値1242ドルは自作自演?」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)