■米ドルの反騰は、千里の道の一歩になる?
米ドル高が続いている。一方、米ドル高という言い方が、必ずしも適切とは言えない側面がある。
何しろ、2017年年初来、米ドル安が一貫して続き、9月初頭に2015年2月以来の安値を更新したばかりだから、米ドル安派からみれば、足元までの米ドルの反騰は、まだまだスピード調整程度にすぎず、2017年年初来の下落幅に比べ、米ドル高と言えるものかと疑問視されるだろう。

(出所:Bloomberg)
確かにそのとおりだ。
足元までの米ドル高は、仮に今週(10月2日~)も陽線で引けると週足で「四連陽」を達成する。しかし、そうであっても、「これまで行き過ぎた米ドル安に対する修正、またスピード調整」という見方はできても、米ドル高トレンドに転換したと言う状況にはほど遠い。

(出所:Bloomberg)
今晩(10月6日)、米雇用統計の発表があるから、変動率の大きさから考えると、今週(10月2日~)、陽線で引けるかどうかも流動的だ。
一方、トレンドの転換は、最初は例外なくスピード調整にすぎないだろうと思われる段階を通ってから図られるもの。
ゆえに、9月安値を起点とした米ドルの反騰が、結果的に新たな米ドル高トレンドの起点になる、という可能性も完全には否定できない。千里の道も一歩から。足元の米ドルの反騰は、確実な一歩を踏み出したと言える。
■米サイドからの良い材料も、米ドル高トレンドを証左
米ドル高の可能性については、前回のコラムでも根拠を説明していたので、ここでは重複して説明しないが、昨日(10月5日)発表された新規失業保険申請件数、貿易収支、製造業受注指数などが軒並み良好であったことから、米景気サイクルにおける成長期間はなお続いている可能性が大きいことを強調しておきたい。
【参考記事】
●トランプ氏への過小評価が撤回され米ドル上昇へ! 米ドル高を徹底的にフォローせよ(2017年9月29日、陳満咲杜)
相場の歴史を検証すればわかるように、トレンドが始まれば、不思議なことにファンダメンタルズの材料がトレンドの方向を証左する内容になってくる傾向が強い。したがって、米ドル高がホンモノなら、また、米ドル高のトレンドが続いていくなら、米サイドから良い材料が続出するのも当然の成り行きである。
この意味合いでは、誰も予測できないと言われる米雇用統計だが、今回は悲観しなくてもよいのではないだろうか。
その上、米予算決議案が下院を通過したことで、米税制改革法案成立の可能性がだいぶ高まっていること、FRB(米連邦準備制度理事会)幹部たちの利上げ予想、また支持の声が相次いでいること、さらに、米8月貿易赤字の縮小がトランプ政権の政績と見なされることなど、このところ、米ドル高を押し上げる材料や市場の解釈が続いており、これがこれからも続く可能性は大きいかと思う。
■北朝鮮の挑発は基本的に「押し目買いの好機」に
もっとも、S&P500指数が2013年以来最も長い上昇期間を達成していることが象徴事例であるように、リスクオンの環境は変わらない。
北朝鮮の挑発は、これからも続く恐れがあり、また確率が高いと思うが(※)、米朝開戦がない限り、一時のリスクオフに留まり、また、場合によっては、米国株にしても、米ドル/円にしても、押し目買いの好機を再度提供してくるかと推測される。
これは要するに、9月からのいつもの反応パターンなので、マーケットはすっかり慣れているからだ。
(※執筆者注:ちょっと脱線してしまうが、北朝鮮の挑発は、中国共産党第19回全国代表大会開幕の今月(10月)18日前後が一番リスクが高いと思う。なぜなら、北の将軍様は最大応援者の国連決議同意を相当恨んでおり、最近の挑発は決まって中国のメンツ潰しのタイミングを選んでいるからだ)
■頭打ちのユーロサイドからは今後悪材料が続出か
一方、スペイン・カタルーニャ州の独立騒動が発生しているように、ユーロの頭打ちが確認されたあと、ファンダメンタルズ上の材料もユーロ安の方向に傾き、また、より重視されるようになってきた。

(出所:Bloomberg)
カタルーニャ州がすぐ独立できるとは思わないが、これからも軋轢が続き、また、EU(欧州連合)圏の他の国家や地域へ波及していく恐れがあるから、ユーロを押し下げる政治リスクとしてくすぶるだろう。

スペイン・カタルーニャ州の独立騒動の影響は、EU圏の他の国家や地域へ波及していく恐れがあり、ユーロを押し下げる政治リスクとしてくすぶり続けるだろう (C)David Ramos/Getty Images
また、ユーロ高トレンドが一服し、トレンドが転換されていくなら、これからユーロサイドの悪材料続出を覚悟しなければならないだろう。米ドル高の可能性は、最大の相手であるユーロの事情からも検証できるかと思う。
■今晩の米雇用統計、市場の関心は5つ
だからこそ、今晩(10月6日)の米雇用統計は、より重要視されるだろう。米ドル高を一段と押し上げるか、それともせっかくできた米ドル高の芽がまた摘まれるか。市場の関心は、以下の5つに絞られるとみる。
1.ハリケーンの影響はどうなるか…新規雇用者が10万人を超えれば、ハリケーンの影響は希薄ということになり、米経済環境の強さが証明されるだろう。
2.失業率…最近の米失業率は過去16年間の最低水準にあり、さらなる低下は難しい情勢であることに注意。
3.平均時給の伸び…最近この数字は長期平均を下回っているから、より重視されるかもしれない。
4.労働参加率…近年、米経済成長が続く中、25才~54才の就労者の比率が低下する傾向にあるから、労働参加率増加の有無がひとつ検証の材料になってこよう。
5.業界の動向…米製造業はトランプ氏当選前から雇用を増やしてきた。最近、一段と生産拡張の兆しを見せているから、製造業の雇用者数は増えるはずだと思われる。
■米ドル/円と米雇用統計の数字は相関関係が高い
前述のように、昨日(10月5日)までの米経済指標の多くは米景気の好調さを示しているから、懸念されてきたハリケーンの悪影響は、想定されるほどではないといった思惑が高まっている。この思惑が正しければ、今晩(10月6日)の米雇用統計も悪くない、といった推測につながるわけだ。
仮にこのような思惑、あるいは推測が正しければ、一番注意すべき通貨ペアは、やはり米ドル/円であろう。
なぜなら、米ドル/円は米雇用統計の数字と75%もの正の相関関係を示してきたから、今晩(10月6日)の数字が良ければ、米ドル/円上昇の確率も75%と高い。対照的に、ユーロ/米ドルと米雇用統計の関係は、想定されるほど逆相関ではないとの統計上の研究結果があり、英ポンド/米ドルも55%の相関性しかないという。
したがって、今晩(10月6日)の数字が良ければ、米ドル/円の上昇、またクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の上昇が想定されやすいから、要注意だ。
米ドル/円に限って言えば、113.30~114.50円は目先のターゲットと言えるだろう。
すぐに115円の節目以上のターゲットを狙えるかどうかは難しいところだ。これは雇用統計次第というよりも、市場のセンチメント次第だと思うが、少なくとも一気に打診したり、ブレイクしたりすることはないだろう。
反面、米雇用統計の中身が悪ければ、111円の節目~111.95円といった下値打診を覚悟。が、底割れして米ドル安のトレンドへ再復帰、といった市況にはならないと思う。

(出所:Bloomberg)
いずれにせよ、今晩(10月6日)の焦点は米ドル/円であり、また、クロス円である。筆者としては引き続き円安トレンドの継続を重視する視点でフォローしていきたい。市況は如何に。
(13:00執筆)
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