日々のトレードは楽しいけれど、疲労や徒労も半端ない。ほったらかしで利益が出たらどんなにいいか、と感じるトレーダーは多いだろう。
そんな夢のようなトレードを実践し、セミリタイアまで果たした若き投資家がいる。「不労所得でセミリタイアを目指す30代のブログ」の管理人である鈴(suzu)(@semiritaia_suzu)氏だ。
会社を辞めたい一心で、FXをスタート
鈴氏がFXを始めたのは、2015年。
「システムエンジニアの仕事が忙し過ぎて毎日がつらく、資産運用で稼げるようになって会社を辞めたい、と藁をもつかむ思いで始めたんです」
忙しいのがキツイのだから、帰宅してまでチャートとにらめっこするトレードスタイルでは意味がない。そこで鈴氏が選んだのが、トラリピ(トラップリピートイフダン)とスワップ投資という「不労所得狙い」だった。
トラリピは、マネースクエアが関連する特許を持っているリピート系発注機能。新規と決済の注文を同時に発注し、ひとつの取引が終了(新規→決済)した後も設定したレンジ内であれば何度でも同じ取引をリピートさせることが可能だ。一度注文を設定すれば、ほったらかしでも売買を繰り返してくれる。
【参考コンテンツ】
●FXの自動売買(システムトレード)ができる「おすすめFX口座」を比較!:(1)リピート系発注機能【ループイフダン・トラリピなど】
しかし、トラリピは小さな利益を積み重ねるので、短期で大儲けできるものではない。夢の不労所得を狙って30万円を投じた鈴氏だったが、「たいして増えないのでつまらない」とすぐに興味を失ってしまった。
トルコリラの全力買いで失敗。400万円の損切りに…
次に鈴氏が狙いを定めたのが、スワップ投資だ。最低限の生活費を得ようと、月20万円のスワップ収入を得られるだけのトルコリラを一括で全力買いするという暴挙に出てしまったのである。
周知のとおり、当時からトルコリラは、絶賛、右肩下がりで、高金利に目がくらんだ数多くのスワップ投資家を容赦なく退場に追い込んできた。鈴氏も例にもれず、わずか数カ月で400万円もの損失を出す損切りを余儀なくされてしまった。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 月足)
「相場を予想しなくても勝てる投資」を選択
失意の中、トラリピの存在を思い出して久しぶりにログインした鈴氏は、トルコリラに翻弄された数カ月の間にトラリピが順調に利益を上げていることに気がついた。
「トルコリラが急落している間にも、コツコツと小さな利益を積み重ねていました。不労所得を狙うなら、こっちの方がよほど向いているんじゃないかと見直したんです」
幸い鈴氏はもともと節約志向で、お金のかかる趣味はなかったので、追加できる資金が貯まっていた。そこで、トラリピに500万円を投じて再スタートすることにしたという。
「トラリピに限らず、リピート系発注機能の戦略は、短期的な方向を予測して利益を狙う方法と、長期でほったらかしにする方法の2種類に分かれると考えました。私は『不労所得』にこだわりがあったし、素人が相場を予想しても勝てるワケがないと思ったので、長期でほったらかす後者の戦略を選びました」
レンジは過去15年の値幅で設定し、完全放置
鈴氏のトラリピ設定は、実にシンプルだ。リーマンショック時を含めた過去15年のチャートを見て、その最高値と最安値の間でレンジを設定する。そのちょうど半値に当たるラインから上は売りトラリピを、下は買いトラリピを仕掛けるのだ。
レンジの上半分を売り、下半分を買いとするこの手法は「ハーフ&ハーフ」といわれる戦略の1つで、必要な証拠金が少なく、含み損も小さくできるメリットがある。
トラップを仕掛ける間隔は0.1円(クロス円の場合)、利益確定幅はその銘柄の1日の平均的な値幅を示すATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)というテクニカル指標を参考に設定した。豪ドル売りなどマイナススワップが発生する方向では少し利益確定幅を縮めて、決済されやすくしている。
通貨ペアは、米ドル/円やユーロ/円など8通貨ペアに分散して運用する。当然ながら収益には波があるが、平均すると月20万円の確定利益を得ているという。
※「不労所得でセミリタイアを目指す30代のブログ」の掲載内容を元にザイFX!が作成
ユーロ/米ドルと英ポンド/円にはなぜ、手を出さないのか?
リピート系発注機能は小さな確定利益が積み上がる半面、逆行すると含み損が積み上がる。ここまで大きなレンジを設定していると、短期的には逆行を続けて含み損が膨らみそうな点が心配だ。しかし、鈴氏は「投資の鉄則」のひとつを活用してリスクを抑えている。
「8つもの通貨ペアを運用しているのは、リスクを分散するためです。為替相場はバランスで決まるので、何かが上昇すれば別の何かが下落している。通貨ペアを分散して運用すれば、利益が膨らむペアと損失を出すペアが相殺し合って利益が安定するんです」
(出所:Bloomberg)
ただし、通貨ペアは、やみくもに増やせば良いワケではない。リピート系発注機能は設定レンジからはみ出さなければ利益を産み続けられる投資法なので、長期チャートを見てレンジ相場を形成しているものを選ぶのが重要だという。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
「ユーロ/米ドルや英ポンド/円はメジャーな通貨ペアではありますが、過去15年間のチャートを見るとレンジ相場を形成しているとの判断ができなかったので、長期のトラリピには向かないと思って手掛けていません」
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
リーマンショックが起きてもロスカットされない資金で運用
この「分散投資」のおかげで、特定の通貨に大きな変動があったときでも含み損が極端に増えることがなく、分散の効果を実感しているという。
勤務先を辞めてセミリタイアしてからは、よりリスクを抑えるために証拠金を追加して約2000万円とした。これはリーマンショックが起こった場合でも、ロスカットされずに耐えられる金額なのだという。
「リーマンショックを超える変動が起きない限りは大丈夫なので、安心して放置できます。細かい調整をしたことはありますが、2016年にスタートしてから基本は、ずっとこの設定です」
鈴氏のトラリピ設定の確定利益合計は780万円、含み損は176万円だ(2019年4月現在)。
(出所:「不労所得でセミリタイアを目指す30代のブログ」)
マイナススワップは気にしなくていい?
ほったらかしはラクではあるが、ここまで大局的な目線で運用していると、マイナスのスワップポイントが発生するポジションが長く放置されてしまうことが考えられる。
実際、鈴氏が運用する8通貨ペアの中には、米ドル/円やNZドル/円のように、2016年にスタートしてから2019年4月現在まで、ずっとスワップポイントがマイナスとなる売りレンジを推移している通貨ペアもある。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
マイナスのスワップポイントが積み上がって利益を圧迫するような事態にならないのだろうか。
「確かにそういうポジションはあって、やっと決済されたと思ったら、利益が1000円に達しないのにマイナススワップポイントが3000円引かれたようなケースはあります。私もちょっと心配になったので、先日、改めてスタート時からのマイナススワップポイントを計算してみました」
たとえば、米ドル/円の場合、これまで(2019年2月現在)のマイナススワップポイントの累計が約26万円であるのに対し、決済益が約133万円。NZドル/円では、マイナススワップポイントが約32万円のところ、決済益が約101万円と、いずれも決済益が上回って収支は大きくプラスだ。
(出所:「不労所得でセミリタイアを目指す30代のブログ」 2019年2月現在)
(出所:「不労所得でセミリタイアを目指す30代のブログ」 2019年2月現在)
スタート以来、ずっとマイナススワップポイントのポジションしか取っていない通貨ペアでこの状態なので、プラスのスワップポイントで運用できている通貨ペアは何の問題もない。
ちなみに、すべての通貨ペアを合計すると、決済益が862万円、マイナススワップポイントが64万円と、マイナススワップポイントが打ち消した利益は全体の1割にも達していない(2019年2月現在)。
(出所:「不労所得でセミリタイアを目指す30代のブログ」 2019年2月現在)
「この検証の結果、マイナススワップポイントの影響は小さいという結論に達したので、一切気にしないことにしました。マイナススワップポイントについては以前からブログ読者から質問を受けることが多く、実際以上に心理的な負担になっているんだなと感じています」
ちなみに、スワップポイントが大きい南アフリカランド/円だけは、当初からハーフ&ハーフの戦略は採らず、買いトラリピだけで運用している。
トルコリラのスワップ狙いはギャンブル?
スワップポイントと言えば、鈴氏は積立てを基本としたスワップ投資も行っていることをブログで公表しているので、この点についても少し聞いてみた。
高金利通貨を持ち続けるだけでスワップポイントが貯まっていくこの手法も、まさにリスクを抑えて得られる不労所得という気がするが、鈴氏いわく、「トルコリラなど新興国通貨のスワップを狙った投資はギャンブルや宝くじの感覚。投資金額も少なめ」とのこと。
たしかに、改めてトルコリラのチャートを見ると見事なまでの右肩下がり。高スワップだが、それ以上に為替差損でヤラれる可能性もある。
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しかし、米ドルなど価格推移が安定している主要通貨については、購入のタイミングを狙っているそうで「米ドルは大きく下がったときに買いたい」という。スワップポイントについては、新興国通貨ほど高くはないが、米ドル/円チャートが延々と右肩下がりを形成するとは思えないからだ。
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一般的にスワップ投資は、比較的、低いレバレッジでゆったり長期投資というイメージ。為替差益を狙ったハイレバレッジの短期トレードよりも穏やかな手法という感じがするが、言われてみればたしかに、トルコリラのように高スワップだけど為替差損を被る可能性もある新興国通貨への投資は、リスクを抑えて得られる不労所得とは言えないのかもしれない。
(「あのイケハヤのトラリピ設定にダメ出し!リーマン級の金融危機が大歓迎な理由とは?」つづく)
(取材・文/森田悦子 編集担当/ザイFX!編集部・向井友代)
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