■香港問題緩和などは、ドル/円の切り返しの後付けの理由
前回のコラムでは、円高の限界を指摘した。また、米ドル/円の内部構造に基づき、8月安値トライ自体が「ダマシ」であった可能性を示した。執筆中の現時点で、米ドル/円は107円の節目を回復しているから、目先その可能性は一段と高まっている。
【参考記事】
●米ドル/円に2つのシナリオ。いずれにせよ大幅な円高はなく103円台後半が円高の限界(2019年8月30日、陳満咲杜)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
もっとも、2015年高値を起点とした大型保ち合いが仮に延長されても、トライアングルというフォーメーションに留まると考え、巷の「常識」となりつつある本格的円高トレンドへ復帰する、といったシナリオに距離を置いてきたから、8月安値104.45円からの切り返しは当然の成り行きとみる。
香港問題の緩和や米中協議の継続といった、いわゆる外部要素の好転云々はあくまで「後付け」であり、決定的な要素ではないことを改めて認識しておきたい。
■やはり「相場が正しい」
たびたび指摘してきたように、米中対立の激化や、一時収束不可能と思われたほどの香港デモ問題など、かなり険悪だった状況にもかかわらず、米ドル/円は104円台に留まり、言われるほど円の上昇モメンタムは見られなかった。
英EU離脱問題も、2016年6月の国民投票時より一段と危機的な段階に来ているにもかかわらず、米ドル/円はあの時の安値99.12円を割りこむどころか、105円の節目以下の終値さえなかった。
これはほかならぬ、市場心理の極端な悪化とは対象的に、市場内部構造は違うシナリオを示唆していることを意味するものである。
危機的な状況とマスコミがあおり、米長短金利逆転や欧州各国国債利回りの軒並み低下で、景気見通しが一段と不透明であり、また世界規模のリッセション必至と解釈されるなか、本来ならば米ドル/円は100円の心理的大台をとっくに割り込んでいるはずだ。しかし、105円以下の終値さえなかったことから考えると、やはり「相場が正しい」と再認識してもらいたいところだ。
前述の大型保ち合いのシナリオをもって相場を説明できなくもないが、トライアングル型保ち合いの延長よりも、そもそも安値トライ自体が「ダマシ」となり、2019年1月3日(木)安値104.97円をもって同トライアングルをすでに完成したのでは、という見方も高まりつつある。
(出所:TradingView)
なにしろ、2019年が明けてからの米ドル/円の急落、いわゆる「フラッシュ・クラッシュ」が発生した原因に、未だに納得できる説明などない。いろんな解釈があったが、どれも説得力がなく、真相はよくわからない。
「フラッシュ・クラッシュ」とは、相場が理由もなく突然崩れてきたものだと思われがちで、またこのような曖昧な考え方が広く受け入れられている。よくわからないから、受け入れるしかないからだ。
しかし、時間がかかるにしても、往々にして徐々に真相が浮上し、値動きの必然性や可能性を認識できるのが、相場の常である。時には数十年の時間がかかるケースもあるが、幸い今回米ドル/円はそこまで時間がかからなかったから、今こそもう1回、「フラッシュ・クラッシュ」の意味を再確認したい。
■「フラッシュ・クラッシュ」は規律正しい相場のリズムの一環!?
前回のコラムで提示した米ドル/円の週足を、もう1回見てみよう。
【参考記事】
●米ドル/円に2つのシナリオ。いずれにせよ大幅な円高はなく103円台後半が円高の限界(2019年8月30日、陳満咲杜)
(出所:TradingView)
2019年年明けの「フラッシュ・クラッシュ」の目的は言うまでもなく、重要な安値を付けることだが、同安値をつける可能性はどこにあったのかというと、前回のコラムにてすでに指摘しように、2015年高値から187週のスパンが区切りとなることが注目される。
換言すれば、「フラッシュ・クラッシュ」は一見わけのわからない相場の崩壊であったが、実は「規律正しく」相場のリズムに沿った値動きだったのである。
「フラッシュ・クラッシュ」は、2011年ドルの戦後最安値から2015年高値まで要する期間と同様、2015年高値から同じ期間が過ぎた「アニバーサリー」でもあったから、相場のリズムの究極の表れのほかあるまい。
したがって、1月安値に対する一時の安値更新は、このまま下値余地を拡大するというよりも、大きな「ダマシ」のサインと化し、これから米ドルの基調回復に大きなヒントを示唆してくれるだろう。
換言すれば、2015年高値を起点とした保ち合いが、「規則正しく」完成されたからこそ、その後の値動きをあくまでブル(上昇)相場に展開する前における準備段階と見なせる上、大きな「ダマシ」のサインを点灯したからこそ、その後の米ドルのブルトレンドを暗示していると読み取れる。
つまるところ、相場の値動きのすべては意味を有するもので、その真意を丹念にフォローしていけば、どこかで必ず真相に迫れる。前述の見方が正しければ、米ドル/円は大きな底打ちを図りつつ、これから基調回復に努める公算が大きいだろう。
■近々リスクオンの再来を意識すべき
2018年後半から、マーケットにおけるキーワードは「リスクオフ」だと思う。一方、リスクオフ、リスクオフと言われるほど相場は崩れていないのも事実だ。確かに米国株も大きく調整したが、夏場にて高値を再更新していた。
(出所:TradingView)
債券相場の高騰(利回り低下)や金の高騰をもってリスクオフ云々と解釈される一方、上海株や香港株といった「リスク本家」の株価は実に堅調で、「打たれ弱い」日本株さえ、実は長期ブルトレンドのサポートラインを死守している。
リスクオフ云々は相場の片側のみを捉えた偏見であることは明らかで、市場心理もかなり極端に行きすぎていた。
ゆえに、米中協議再開という「つまらない」ニュースでも相場は積極的反応し、株は買われ、円は売られている。行きすぎた相場に対する修正はそろそろ本格化されていくだりう。
円のみではなく、「問題児」の英ポンドさえ底打ちのサインを点灯しているから、近々リスクオンの再来を意識しないといけない。リスクオンの場合は株を買い、円を売り、そして米ドル全体(ドルインデックス)は反落、金は売られるだろう。
このあたりの話はまた次回、市況はいかに。
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