本記事公開の前日、2019年10月15日(火)、日本のFX業界に衝撃が走った。米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定へ縮小するFX会社が続出したのだ。
その動きは10月15日(火)の朝からあったのだが、夕方からの動きの方が激しかったので、まずはそちらからレポートしよう。
主要FX会社が次々とドル/円スプレッドを0.2銭原則固定へ
筆者の手元にプレスリリース配信サービスの「PR TIMES」から、GMOクリック証券「FXネオ」が米ドル/円スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ17時から縮小するという情報が送られてきたのは10月15日(火)16時22分のことだった。GMOクリック証券はFXファンにはもうおなじみ、FX取引高7年連続世界一という業界大手の会社だ。
これはキャンペーンによるスプレッド縮小ではなく、通常スプレッドの縮小だった。
その2分前の16時20分には「はっちゅう君(GMOクリック証券)」というGMOクリック証券のPR用ツイッターアカウントが「米ドル/円のスプレッドを本日17時から0.2銭に縮小!」とツイートしていた。
【GMOクリック証券】
— はっちゅう君(GMOクリック証券) (@GMO_ClickSec_PR) October 15, 2019
【FXネオ】通常スプレッド縮小のお知らせ
~米ドル/円のスプレッドを本日17時から0.2銭に縮小!~https://t.co/7nvyMTaVMk
そして、10月15日(火)17時というまったく同じタイミングで、米ドル/円スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ縮小した口座がなんともう1つあった。業界大手の老舗FX会社、外為どっとコム「外貨ネクストネオ」である。
ただし、こちらは11月23日(土)の朝、6時55分までのキャンペーンという扱いだった。
続いて動いたのはDMM.com証券だ。GMOクリック証券が動けば、ライバルのDMM.com証券も動くということは、日本のFX業界では定番の動きである。
GMOクリック証券に遅れること30分、17時30分からDMM.com証券「DMM FX」は米ドル/円の通常スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ縮小したのだった。
このスプレッド縮小は急遽実施されたものだったのか、前述した「PR TIMES」から筆者の元にこの情報が送られてきたのは、スプレッドが縮小された17時30分よりもあとの17時50分のことだった。
また、DMM.com証券には「外為ジャパンFX」という別ブランドのFX口座もあるのだが、こちらは「DMM FX」の30分後、18時より米ドル/円の通常スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ縮小したのだった。
そして、この動きはまだ終わらなかったのである。
ついにヤフーグループのYJFX!も動いたのだった。「外為ジャパンFX」の30分後、19時よりYJFX!は米ドル/円の通常スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ縮小したのだった。
以上の実にあわただしい動きを表にまとめると、以下のようになる。
10月15日の「連鎖的スプレッド縮小騒動」
FX会社名 「口座名」 |
開始時刻 | 米ドル/円スプレッド縮小 | 通常/キャンペーン |
楽天証券 「楽天FX」 |
9時~ | 0.3銭原則固定 ↓ 0.2銭原則固定 |
11月23日(土)6時55分までのキャンペーン |
GMOクリック証券 「FXネオ」 |
17時~ | 0.3銭原則固定 ↓ 0.2銭原則固定 |
通常スプレッド |
外為どっとコム 「外貨ネクストネオ」 |
17時~ | 0.3銭原則固定 ↓ 0.2銭原則固定 |
11月23日(土)6時55分までのキャンペーン |
DMM.com証券 「DMM FX」 |
17時30分~ | 0.3銭原則固定 ↓ 0.2銭原則固定 |
通常スプレッド |
外為ジャパンFX | 18時~ | 0.3銭原則固定 ↓ 0.2銭原則固定 |
通常スプレッド |
YJFX! 「外貨ex」 |
19時~ | 0.3銭原則固定 ↓ 0.2銭原則固定 |
通常スプレッド |
※スプレッドが原則固定制の店頭FXは、24時間、上表のスプレッドが適用されるFX会社と、日本時間の8時~28時など主要な時間帯のみ上表のスプレッドが適用されるFX会社がある。スプレッドはすべて例外あり
10月15日の連鎖的スプレッド縮小騒動は過去最大級
当サイト「ザイFX!」がオープンしてから11年半、筆者はずっと日本のFX業界のスプレッド競争をウオッチしてきたが、この2019年10月15日(火)の連鎖的スプレッド縮小騒動は過去最大級ではないかと思えるほど衝撃的なものだった。
0.3銭から0.2銭へわずか0.1銭の縮小──それほどスプレッド競争に関心のない向きには「何を大げさな…」と思う人もいるかもしれないが、これは大変なことなのである。
米ドル/円という日本のFXでもっとも人気のある通貨ペアには0.3銭のところに長らく大きな壁があった。
取引量によってスプレッドが変化するSBI FXトレードが1通貨~1万通貨は0.27銭原則固定、1万1通貨~100万通貨は0.29銭原則固定(※)とするなど、この0.3銭の壁を乗り越える動きは一時的、部分的にはあったが、全面的かつ明確に米ドル/円スプレッドが0.3銭より狭くなることは日本のFX業界ではなかったことなのである。
(※これは過去のSBI FXトレードのスプレッド。現在のSBI FXトレードのスプレッドはこれとは違うものになっている)
そして、主要FX会社も中堅FX会社も、米ドル/円スプレッドは0.3銭原則固定というFX会社がとにかく非常に多くなっていき、厚~いサポートラインのようなものが0.3銭のところにできていたのだ。
10月15日(火)はそのサポートラインが一気に決壊し、主要FX会社が続々と0.2銭の領域へ流れ込んだ日だったのである。
各社は本当に米ドル/円0.2銭というスプレッドを提供しているのか? 各社のリアル口座にログインし、キャプチャしてまとめたのが以下の図だ。確かに各社が米ドル/円0.2銭というスプレッドを提示していることがわかる(当たり前だが…)。
一足早く米ドル/円0.2銭原則固定へ縮小していた楽天証券
10月15日(火)夕方からの激しい動きを先にお伝えしたが、実はこの日の朝、一足早く米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定へ縮小した会社があった。ネット証券大手の楽天証券である。
楽天証券には取引ツール「マーケットスピードFX」が使える「楽天FX」という口座と取引ツール「メタトレーダー4(MT4)」が使える「楽天MT4」という口座があるが、スプレッドが縮小されたのは「楽天FX」の方だった。
楽天証券のサービス開始20周年を記念して、楽天証券「楽天FX」では、10月15日(火)の朝、9時から11月23日(土)の朝、6時55分までの期間限定キャンペーンで、米ドル/円スプレッドが0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ縮小されていたのだった。
前述した外為どっとコム「外貨ネクストネオ」のスプレッド縮小キャンペーンは10月15日(火)の17時に開始されたわけだが、その終了日時は11月23日(土)の朝、6時55分。楽天証券「楽天FX」と外為どっとコム「外貨ネクストネオ」のスプレッド縮小キャンペーンは笑ってしまうぐらい日程が同じなのだ。
これを見ると、外為どっとコムが楽天証券の動きを見て、このスプレッド縮小キャンペーン実施へ動いたことは間違いないのでは…と感じられる。
そして、GMOクリック証券も外為どっとコムと同じ17時から、こちらは通常スプレッドの縮小を行って、さらにそれが主要FX会社へ連鎖していったことはこれまで紹介してきたとおりだ。
【参考コンテンツ:最新の米ドル/円スプレッドはこちらでチェック!】
●FX会社おすすめ比較:取引コストで比べる「米ドル/円スプレッドの狭い順」
YJFX!を直撃! 急な後追いスプレッド縮小は可能?
以上が10月15日(火)に起こった「連鎖的スプレッド縮小騒動」のあらましだが、スプレッド縮小というものは他社がやったからといって、すぐに後追いして実施できるものなのだろうか? それとも事前に準備していたスプレッド縮小の実施日がたまたま同じ日になっただけという可能性もあるのだろうか?
そのことを確かめるべく、筆者はYJFX!へ問い合わせを入れてみた。すると、以下のような回答があったのだった。
「当社ではお客さまに最良の環境でお取引いただけるよう、ドル円0.2銭への挑戦を検討してまいりました。また業界内でも0.2銭への動きは噂されておりました。
そのため、万が一他社が先行した場合に備え、当社をご利用されているお客さまが他社と比べ不利益となることがないよう、速やかに対応できる体制は整えておりました。
昨日10/15(火)午前中に競合他社がドル円0.2銭のキャンペーンを打ってきたことを把握し、社内でも最優先事項としてどう対応するか協議を始め、19時のリリースにいたりました。
当社として昨日実施をすることを決めていたわけではありませんが、前述のとおり当社のお客さまに不利益となることがないよう、また『他社が攻めてきた場合は受けてたつ』という方針のもと実施を決定いたしました」(ワイジェイFX 経営企画部・松永知也氏)
このあと紹介するように、FX業界内の一部にはすでに米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定へ縮小する動きが出ていたのだが、さらに0.2銭原則固定へ縮小する動きが出てくることが噂としてはあったようだ。そして、YJFX!も米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定へ縮小する体制は事前に整えていたとのことだった。
そして、最終的なキッカケは10月15日(火)午前9時から実施された楽天証券「楽天FX」による米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定へ縮小するキャンペーンにあったようだ。
また、今までごく少数のFX会社が限定的な形でしか実現できなかった米ドル/円0.2銭原則固定というスプレッドを急に結構多くの有力FX会社が実現できた背景には、インターバンク市場に何か変化があったのではないか?とも筆者は考えて聞いてみたのだが、これについては「いいえ、インターバンク市場の変化はありません」(ワイジェイFX 経営企画部・松永知也氏)とのことだった。
インターバンク市場に何か変化があったために、米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定にするFX会社が続出したわけではないようだ。
9月末、ゴールデンウェイ・ジャパンは既に0.2銭原則固定へ
以上、10月15日(火)に起こった米ドル/円の「連鎖的スプレッド縮小騒動」についてお伝えしてきたが、その少し前にも日本のFX業界で突如「米ドル/円0.2銭原則固定」が大ブームになる予兆はあることはあった(予兆はあったとはいえ、ここまで急激な動きが起こるとは筆者も思っていなかったのだが…)。
たとえば、トレイダーズ証券の「みんなのFX」や「LIGHT FX」がプレミアムフライデーの一定の時間帯だけ米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定に縮小するキャンペーンを行ってきたことがあった。
また、SBI FXトレードが1~1000通貨までという制限つきながら2019年6月29日(土)より米ドル/円スプレッドを0.2銭原則固定にしていた動きもあった。しかし…
それらよりも明確に米ドル/円スプレッド0.2銭原則固定を打ち出してきたのはゴールデンウェイ・ジャパンだった。
ゴールデンウェイ・ジャパンというFX会社名はまだ聞き慣れないFXファンもいるかもしれないが、これは旧FXトレード・フィナンシャルのこと。同社が香港系の金融グループであるゴールデンウェイの傘下に入り、2019年4月1日(月)から社名変更したものだ。
そのゴールデンウェイ・ジャパンが2019年9月25日(水)より、米ドル/円の通常スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定に縮小したのだった。それも、通常の口座よりスプレッドが広めなことが多いメタトレーダー4(MT4)の口座において。
ちなみにゴールデンウェイ・ジャパンはこのとき、米ドル/円だけでなく、ユーロ/米ドルを0.2pips原則固定、ユーロ/円を0.4銭原則固定、豪ドル/円を0.5銭原則固定、英ポンド/円を0.7銭原則固定にするという恐ろしく狭いスプレッドを打ち出してきていた。
「日本No.1最狭スプレッド挑戦計画」とは?
さらにゴールデンウェイ・ジャパンは翌9月26日(木)に「日本No.1最狭スプレッド挑戦計画」を発表。これは米ドル/円、英ポンド/円、ユーロ/米ドルについては他社より狭い原則固定スプレッド、ユーロ/円、豪ドル/円については他社の最狭スプレッドと同等の原則固定スプレッドを提供することを宣言するものだった。
細かい条件などもあるので、詳しいことを知りたい人はゴールデンウェイ・ジャパンの公式サイトでこの「日本No.1最狭スプレッド挑戦計画」の文書を確認してほしいが、この「挑戦計画」では業界最狭の水準において他社がスプレッドを狭めてきた場合は、ゴールデンウェイ・ジャパンもそれに応戦し、さらにスプレッドを狭めていくと宣言しているのである。
家電量販店などには「他店より1円でも高い場合は値引きします」といった掲示があったりするが、このゴールデンウェイ・ジャパンの宣言はそれに該当するものだろう。FX業界でこのような試みは珍しい、というか筆者の知る限り初めてである。
先ほども紹介した以下の記事では、「近日中に、かつてFX業界を席巻したような熾烈なスプレッド縮小争いが令和版として再燃するかも(?)しれません!」と書いてあったが、それから20日程度でまさにそのような状況となってきた。
そして、「日本No.1最狭スプレッド挑戦計画」の中身を筆者が読んでみた限り、ゴールデンウェイ・ジャパンは他社の0.2銭原則固定へのスプレッド縮小を受けて、さらに狭い水準(0.1銭原則固定!?)へ来月(11月)早々にもスプレッドを縮小してくるのではないかと思われた。
──とここまで書いた「連鎖的スプレッド縮小騒動」の翌日、10月16日(水)、前日には動きがなかったトレイダーズ証券がスプレッド縮小に動いた。
トレイダーズ証券「みんなのFX」とトレイダーズ証券「LIGHT FX」において、米ドル/円スプレッドを0.3銭原則固定から0.2銭原則固定へ縮小したのである。
さらにトレイダーズ証券にはもう一押しがあった。
トレイダーズ証券「みんなのFX」とトレイダーズ証券「LIGHT FX」は9時~24時という時間限定、そして、10月16日から11月29日までという期間限定のキャンペーンではあるが、米ドル/円スプレッドをなんと0.1銭原則固定に縮小すると発表したのである。このスプレッド縮小キャンペーンが開始されたのは10月16日(水)15時のことだった。
本記事は筆者が懸命に書いているそばから新情報が登場し、さらにそれを書き足していって、なかなか完成しない(>_<)という大変な状況となっている。筆者は先ほどゴールデンウェイ・ジャパンは「日本No.1最狭スプレッド挑戦計画」に基づき、「さらに狭い水準(0.1銭原則固定!?)へ来月(11月)早々にもスプレッドを縮小してくるのではないかと思われた」と書いた。
しかし、そんな悠長なことにはならなかった。10月16日(水)17時20分からゴールデンウェイ・ジャパンは米ドル/円スプレッドを0.1銭原則固定に縮小してきたのである。
有言実行、「日本 No.1 最狭スプレッド挑戦計画」のとおりにゴールデンウェイ・ジャパンはスプレッドを縮小したということだった。
なんともスゴい展開になってきた。
今回のこのような激しい流れを受け、1通貨~1000通貨のみ0.2銭原則固定としているSBI FXトレードは0.2銭原則固定を適用する取引量の範囲を拡大してくるのだろうか? あるいは0.2銭原則固定を0.1銭原則固定へさらに縮小してくるのだろうか? はたまたヒロセ通商、マネーパートナーズといった、まだ米ドル/円を0.1銭原則固定や0.2銭原則固定にしていないFX会社はスプレッド縮小に動いてくるのだろうか?
風雲急を告げるFX業界の米ドル/円スプレッド縮小合戦から目が離せない。
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●FX会社おすすめ比較:取引コストで比べる「米ドル/円スプレッドの狭い順」
(「『連鎖的スプレッド縮小騒動』続報。米ドル/円はついに0.1銭原則固定へ!」へつづく)
(取材・文/ザイFX!編集長・井口稔 編集協力/ザイFX!編集部・藤本康文)
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