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トレーダーとしての松本大を大解剖(1)
数十億円の上場益を捨てた男

2010年07月30日(金)11:37公開 (2010年07月30日(金)11:37更新)
ザイFX!編集部

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 金融の世界でゴールドマン・サックスという名前は特別な響きを持っている。記者などはもう「ゴールドマン」と聞いただけで、「参りました」と言いたくなるほどだ。天下のゴールドマン、泣く子も黙るゴールドマンである。

■数十億円を捨ててゴールドマン・サックスを辞めた男

 かつてゴールドマン・サックスは上場しておらず、パートナーシップ制で経営されていた。そのゼネラル・パートナー(共同経営者)になることは、ウォール街(※)においてこの上ない栄誉だった。

史上最年少の30歳でそのゼネラル・パートナーになったのが松本大氏である。トレーダーとして巨額の利益をゴールドマン・サックスにもたらした功績が認められたのだ。

 ところが、ゴールドマン・サックスがあと少しで上場し、そうすればゼネラル・パートナーとして数十億円の上場益が手に入るというときに、松本氏はその数十億円を捨ててゴールドマン・サックスを辞めてしまった。

 松本氏がそこまでして独立し、設立したのがみなさんご存じのマネックス証券今や口座数は130万以上、東証1部に上場する日本の代表的なネット証券会社となっている。

(※「ウォール街」とは米国・ニューヨーク市にある通りの名称。その周辺にたくさんの金融機関が集中していることから、米国金融業界の代名詞としてこの言葉は使われる)

 今回、ザイFX!ではそんな松本氏に単独インタビューを行った。すでに述べたようなドラマティックな経歴から松本氏には「起業家」としてのスポットが当たることが多い。

 しかし、ザイFX!としては、「トレーダー」として巨額の利益を上げた松本大が知りたい! ということで、今回はゴールドマン・サックス時代、そして、それ以前に在籍したソロモン・ブラザーズ時代に松本氏が行っていたトレードの話を中心に聞いた。

■松本氏がトレードしていたデリバティブとは?

 松本氏が東京大学法学部を卒業後、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券に入社したのは1987年のこと。研修で最初はニューヨークへ行き、後にヘッジファンド・LTCMを作るジョン・メリウェザーなどの元で、デリバティブの理論などを勉強した。

デリバティブとは、日本語では金融派生商品と訳される。株、債券など従来からある金融商品を“原資産”として、文字どおりそこから派生した取引を行うものだ。

 デリバティブには、先物取引、オプション取引、スワップ取引などがある。また、デリバティブの“原資産”となるものには、株、債券の他、外国為替、金利といったものがある。

 今、そこでついている価格で買ったり、売ったりする伝統的金融商品と比べて、デリバティブはなかなか直感的には理解しにくい。たとえば、「決められた期日に決められた価格で売る権利を買う」などと言われても、「売る権利を買う」ってどういうこと? などと思う人が少なからずいるに違いない。

ソロモン・ブラザーズ、ゴールドマン・サックスで松本氏がおもにトレードしていたのは、このデリバティブというものなのである。

■ニュースが出る前に相場が上がっていることがある!?

 ニューヨークのソロモン・ブラザーズでデリバティブについて勉強した松本氏は、翌年、東京へ戻り、実際の業務でデリバティブを担当することになる。

 「東京へ戻って一番最初の仕事は外国債券の先物、オプションをシカゴの取引所に取り次ぐことや、新しいオプション取引のアイデアを考えることでした。それに加えて、正確なマーケット情報を社内に伝えることもやってましたね。

 当時は、チャートを手で書いてました。そして、どんなニュースがいつ出たかということをチャートに書き込むのです。

 一般の市況解説的なものを読むと、『××のニュースが出て、昨日の相場は上がった』なんてことが書いてある。けれど、よく調べてみると、ニュースが出る前に相場が上がったりしていることがあるんですよ」
 
 「そこで、本当は何が理由で相場が上がったのかを突き止めるわけです。

 通信社が提供しているニュースのサービスではすべてタイムスタンプが記録されているので、正確にそういうことが調べられるんですね。そして、どうしてもよくわからなかったら、シカゴに電話して聞いたりしてました」

■デリバティブのトレードを開始

 チャートにニュースを書き入れるのは、誰かに言われて始めたのではなく、松本氏が自分で考えてやり始めたことだという。これは個人トレーダーのみなさんにも参考になる話と思えるが、これについてさらに詳しいことは後述しよう。

 さて、日本でまだデリバティブが盛んでなかったこの当時、ニューヨーク仕込みでデリバティブの知識を身につけていた松本氏は、ほどなく、実際のデリバティブのトレードをやり始めることになる。

 「最初のデリバティブのトレードは、外国債券のオプションでした。外国債券のオプションに自分でプライスをつけて、機関投資家相手に売買するんです」

 松本氏は「オプションに自分でプライスをつけて…」とさらりと語ったが、オプションの値つけというのは非常に難しい。

 オプションの価格の話というと、だいたいノーベル経済学賞が云々、ブラック・ショールズ・モデルがうんたらかんたら、数式がバ、バ、バーッという感じで出てきて、記事を書いておいて大変申し訳ないが、記者自身もよくわかっていない。

 とにかく、そういった難しいオプションの価格決定を数式を駆使して行い、機関投資家相手に少しでも有利な取引を行うことが松本氏の利益の源泉の第一歩だったようだ。

■株のバブル崩壊に気づかないほどトレードに熱中

 さて、そんなふうにして、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券でデリバティブのトレードを行っていた松本氏だが、1990年4月にゴールドマン・サックス証券に転じることになる。

 時あたかも平成バブル崩壊の真っ最中。日経平均は約4ヵ月で1万円も下落するという恐ろしいことが起こっていた。

 しかし…

 「当時の記憶があまりないんですよ。株のことはあまり気にしてなかったし、見てなかったです。気づいたら、バブルは崩壊していた。

 金利や債券に関連する仕事をしていたので、金利下がってるな、債券上がってるなと思うだけですね。

 当時は朝から晩までトレーディングのことばかり。いろいろな人とのつき合いもあまり覚えがないほどです。

 夜中に自宅へニューヨークから取引の電話がかかかってきたりするんですよ。午前2時、3時、4時といった時間帯です。ベッドの横にラップトップパソコンを置いて、プライスを出したりしてましたね」

■ゴールドマンはデリバティブに関して遅れていた

 日本株のバブル崩壊も気づかないぐらい自らのデリバティブの取引に没入していた松本氏。ゴールドマン・サックスに転じてからは、どのようなトレードをやっていたのだろう?

 「ゴールドマンに移ってからは、外貨よりも円の方が面白いということで、円に関するデリバティブをやるようになりました。

 やっぱり自分は日本人だし、日本にいるわけだし、円の方がマザーマーケットでダイナミックに動いて面白いよね、というわけです。

 今では信じられませんが、当時のゴールドマンは実はデリバティブに関してすごく遅れていたんです。世界中のゴールドマンでどこも円のデリバティブをやる力を持っていなかったんですね。

 そこで、僕がそれをゼロから作りました。

 一番最初はゴールデンウィーク中にずっとこもって、ダイナブックにロータスを使い(※)、ずっと自分でプログラムを書いたりしてました。そのプログラムで、デリバティブのプライシングとか、リスク管理をやるわけです。

 そして、円の金利スワップとか、クロスカレンシースワップといったトレードを始めました」

 スワップというのはデリバティブの1種。金利スワップというと、同じ通貨で異なる種類の金利を交換する取引を指す。たとえば、円の変動金利と円の固定金利を交換するような取引だ。

 また、クロスカレンシースワップは、異なる通貨で異なる種類の元本と金利を交換する取引だ。たとえば、円の固定金利と米ドルの変動金利を交換するような取引がそう。

(※「ダイナブック」とは東芝製のノートパソコン。「ロータス」とは昔はエクセルより売れていたこともあった表計算ソフト「Lotus 1-2-3」のこと)

■毎日ものすごい量の取引をしていた!

 そして、ゴールドマン・サックスで円のデリバティブをゼロから始めた松本氏はやがて外貨のデリバティブにも進出する。

 「なんだかんだで、外国債券のトレーディングとか、外国債券のオプションのトレーディングとか、日本国債のオプションとか、外貨のデリバティブとか、日本での債券、金利、為替のすべてのトレーディングとリスク管理の責任者をやることになったんです。

 責任者といっても、自分でトレーディングもやります。毎日ものすごい量の取引をしていましたよ

 では、どれぐらいすごい量の取引だったのか?

「トレーダーとしての松本大を大解剖(2) 想定元本で約10兆円のポジション!」へつづく)

(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔  撮影/中野和志)
 
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