さて、為替市場における足元の反応は、今回も典型的なリスク回避パターンである。
米ドルは対円以外、ほぼすべての主要通貨に対して買われ、円もリスク回避先として買われた。
もっとも、為替相場が米国株の急落とリンクしたかたちで波乱となったことも、英ポンド/円のように、ほぼすべてが「プログラム売買」で合成される通貨ペアが過激なパフォーマンスを見せたことも、特に驚くに値しない。
「リーマン・ショック」を経験した者なら、デジャブと感じるほどだ。
では、「リーマン・ショック」のような危機の再来があるとすれば(筆者は、その可能性が高いと見るが…)、前回のように、株価の下落とともに米ドルが上昇し続け、円も急騰を続けるだろうか?
筆者の考えとしてはYESであり、NOでもある。
■ユーロ安/米ドル高は、ここからあまり進まない!?
YESとは、日本株を含め、世界的規模での株価下落が避けられないということだ。
国際ホットマネーには無縁とはいえ、世界でもっとも成長率の高い中国の株式(上海総合指数)が今回の「5.6事件」に先がけて下落に転じ、年初来のパフォーマンスが世界中でワースト5に入っていることを、世界的危機、あるいは景気後退の前兆と受け止めるべきだ。
言ってみれば、米国株の急落はその前兆を認証する形で発生しており、危機は起こるべくして起こる。これは、ギリシャ問題の本質もしかりである。
このコラムでも指摘しているように、ソブリンリスクがユーロ圏だけにとどまるという考えは安易で、早晩、英国や米国にまで飛び火するはずだ(「米国の景気回復シナリオは裏切られ、米国のソブリンリスクは必ず問題となる!」を参照)。
また、円の上昇トレンドは続くだろう。
デフレで、経常黒字を維持し、しかも財政赤字の大半を国内のファイナンスに依存している国の通貨は、リスク回避先として選ばれることは間違いないだろう。
主要通貨のうち、変動相場制に移行してから、円だけが対米ドルの史上最高値を更新していない。これからも、円は実力を発揮し続けるだろう。
そして、NOというのは、米ドルの上昇に疑問があるからだ。
確かに、「リーマン・ショック」の際には米ドルは急騰していたが、当時のユーロ高/米ドル安の状況とは異なり、現在はユーロ安/米ドル高であって、しかもかなりのスピードと値幅を伴って進行している。
言い換えれば、現在のユーロ安/米ドル高が景気後退を先んじて織り込んでいるために、これ以上は反応しにくいという可能性が高い。
また、「リーマン・ショック」前に流行っていた「円キャリートレード」の存在とその崩壊も現在の状況とかなり異なっており、ユーロ/円の下落がさらにユーロ/米ドルの下落に寄与していくとは考えにくい。

■過大に積み上げられたユーロの売りポジションだが…
そもそも、「リーマン・ショック」後の円高は、過剰な円キャリートレードの流行とその反動でもたらされた側面が大きかった。
その状況を彷彿とさせるのは他ならぬ、目下、過大なレベルまで積み上げられたユーロの売りポジションである。
危機がさらに進行すると、反動の巻き戻しはさらなるユーロ安ではなく、米ドル安をもたらすはずである。
もちろん、足元のユーロ圏の混乱を見ていると、ユーロの買い戻しが直ちに起こるとも思っていないが、相場の内部構造が現実の材料を引き起すという筆者の信念が正しければ、米国サイドではこれから、5月6日(木)の「誤発注」のような「サプライズ」が多発するだろう。
歴史は偶然性をもって、その必然性を証明するものである。
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