最近の為替市場では、円安傾向が強まっている。
米ドル/円は年初来高値を更新し、ユーロ/円、英ポンド/円も大幅に切り返してきた。
■対ユーロ、対英ポンドで米ドルが軟調に推移している
ユーロ/円、英ポンド/円といったクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)相場の円安傾向は、米ドル/円の上昇が背景にある。
その中で、ユーロ/米ドル、英ポンド/米ドルなどメジャー通貨ペアにおいて、米ドルが軟調であることも見逃せない。
これは、このコラムでも繰り返し説明しているように、クロス円も含めて、円安になっているのは、米ドル全体の軟調な値動きによるところが大きいためだ。
このコラムの第1回で、「大局観として、クロス円相場をはじめ、円全体の続伸は、米ドル全体の強さに頼っているという奇妙に聞こえる関係にある」と記したが、現状はその逆のパターンである(「口々に円高予想が語られているが、今円を買うのは悪い円買いになる可能性」を参照)。
したがって、円全体の下落がこの先も続けば、ユーロ/米ドルをはじめとするメジャー通貨ペアの下落トレンドが一服する可能性が高い。
半面、円全体が底打ちしたり、反転上昇してくると、米ドル/円を除くメジャー通貨ペアにおける米ドル高の傾向が一段と強まることになるだろう。
■ユーロや英ポンドの切り返しは単なるポジション調整!
先週から強まっている円安傾向は、株式市場のパフォーマンスと密接な関係にあると言える。
4月1日(木)に、米国のダウ指数は1年半ぶりの高値を更新した。
また、日本株の堅調地合いと歩調を合わせて円安も進んでおり、短期スパンにおけるリスク選好度の高まりが円安をもたらしているという側面は強い。
さらに、具体策はまったく見えないものの、ギリシャ問題でひとまず合意できたことから、ユーロ売りは一服しているように見える。英ポンドも、英国の政局の見通しは依然不透明のままだが、切り返しが目立ち始めた。
ただ、皮肉なことに、ギリシャ問題で合意がなされた3月25日(木)以降、ギリシャ国債の利回りは、下落するどころか逆に上昇している。
利回りの上昇は、借り入れコストの増加を意味する。ドイツ国債の利回りとの差が2倍もあることから考えれば、マーケットがいかに、この合意を信じていないかが読み取れる。
よって、ユーロや英ポンドの切り返しは、リスク選好度の高まりだけでは単純に説明し切れない。
根本的な要因は、過大な水準にまで膨らんだユーロ売り、英ポンド売りの巻き戻し(アンワインド)にある。今はイースター休暇前の薄商いの状況下にあるため、そういった買い戻しによって相場が大きく動きやすくなっているようだ。
■ユーロ/米ドルの反発は米国サイドの問題が引き金に!?
ただ、イースター休暇の後、米ドル全体が下落に転じるかどうかは不透明で、筆者は、米ドル全体の上昇トレンドがもう少し続くのではないかと思っている。
だが、前回のコラムで書いたように、対円も含めて、米ドルの全面高はドルインデックスのトップアウトの可能性を示唆するサインである(「米ドルは全面高の様相。しかし、最終段階は近づいている」を参照)。
米ドル高が続くとしても、最終段階に入りつつあって、ユーロの下値余地も限られると見ている。
それでは、PIIGS(ポルトガル・アイルランド・イタリア・ギリシャ・スペイン)のように、ソブリン・リスク(国の債務に関するリスク)を多大に抱えるユーロの反発の可能性はどこにあるのか?
はたして、PIIGS問題が劇的な変化を見せるだろうか?
筆者は、来るべき米ドル安は、ユーロサイドの事情よりも米国サイドの問題が引き金になる可能性が高いと思っている。
■ユーロは良くないが、米ドルはもっと良くない
為替の本質は、通貨の比較にある。
やや幼稚な言い方をすれば、米ドル安となる理由は、ユーロが良いからユーロ買い/米ドル売りとなるのではなく、ユーロは良くないが、米ドルはもっと良くないので、結果的にユーロ買い/米ドル売りしかないということになる。
筆者は、来るべき米ドル安は、ユーロサイドの事情よりも米国サイドの問題が引き金になる可能性が高いと思っている。
■ユーロは良くないが、米ドルはもっと良くない
為替の本質は、通貨の比較にある。
やや幼稚な言い方をすれば、米ドル安となる理由は、ユーロが良いからユーロ買い/米ドル売りとなるのではなく、ユーロは良くないが、米ドルはもっと良くないので、結果的にユーロ買い/米ドル売りしかないということになる。
近年における、日本のファンダメンタルズと円のパフォーマンスを考えれば、このような一見幼稚な言い方でも、実に的を射ているとご理解いただけるかと思う。
もし、このような原理を理論と数式で解説できれば、大学教授になれるだろう。
■米国景気の回復シナリオは、裏切られるだろう
ユーロ危機の本質は、ソブリンリスクにあると言われている。
同様に、この先、ソブリンリスクがマーケットの焦点であり続けるのであれば、ユーロ圏のみならず、英国や米国も同じ運命をたどる可能性は高いだろう。
英国の問題は早々に警戒され、すでに取り上げられていたので、英ポンドの大幅安によって、ある程度はマーケットに織り込まれていると思われる。
だが、米国と米ドルはこれからだ!
「まさか、米国でソブリンリスクは発生しないだろう」という声が多いことは、容易に想像できる。だが、遅かれ早かれ、米国のソブリンリスクは必ず危惧される存在になると筆者は見ている。
2~3年後に振り返ったとき、最近のギリシャ問題が米国のソブリンリスクを浮上させるきっかけにすぎなかったということになると思っている。
その背景には、米国の景気サイクルが、米国経済の衰退を示していることがある。最近の米国株高とリンクするような米国景気の回復シナリオは、裏切られることになるだろう。
本質的には「リーマン・ショック」を転換点として、米国は「失われる10年」に向かっているのだから、日本のバブル崩壊後のように、あらゆる問題が噴出して、官民のいかなる努力も実らないという可能性が十分に考えられる。
■中国のソブリンリスクも浮上してくる?
先週、米ニューズ・ウィーク紙のトップ面に「中国の世界支配」というタイトルの記事が掲載されていた。
だが、そのタイトルとは裏腹に、米国に続いて、中国のソブリンリスクも浮上してくるだろう。
歴史を振り返ると、皮肉にも、権威あるマスコミのトップ記事と逆の事象が起こる傾向は強い。
1989年の天安門事件の際に、西側で主流だった「中国崩壊」の予測がまったく裏切られたように、少なくとも現時点では、「中国の世界支配」が幻想に終わる可能性は高いだろう。
話は脱線したかのように見えるが、要するに、これからの2~3年間は世界経済に翻弄され、苦難が続く可能性が高いので、為替市場も一本調子の展開にはならないということだ。
米国のソブリンリスクの懸念材料については、また次回に説明したいと思っている。
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