周知のように、米国は借金大国であり、利子負担を含め、毎日のように債務が膨らんでいる。このあたりの事情は日本も同じだが、違いがあるとすれば、米国がおもに海外資金に頼っているのに対して、日本はおもに国内資金で穴埋めしていることだ。
この点のみに限定すれば、米国はPIIGS諸国と大した差はないと言える。
■米国が「デフォルト」する可能性
ところで、米国の借金は法律で定められた上限(14.3兆ドル)に達しており、その上限を変更しないと政府が「デフォルト」(※)、つまり債務不履行という可能性が出てくる。
しかし、米国議会での与野党の攻防で、8月上旬の期限までに合意されない可能性もあると伝えられる中、米国政府が年内でもデフォルトになる可能性が高まっている。
こう書くと、話は極めて深刻に聞こえてくるが、米国の名誉のため(笑)にも言っておきたいことが2点ある。
まず構造上、米国の債務はPIIGS諸国と大した差はないが、国家総力の視点では、米国とPIIGS諸国には雲泥の差があるから、PIIGS諸国と米国を同一視するわけにはいかない。
次に、米国政府のデフォルトがあっても、かつてアルゼンチンが行ったものとは違い、あくまで技術的な調整に留まり、債務そのものを不履行にするものではない。
世界一の軍事力ともっとも厚みのある資本市場を有する米国は、「利子さえ払えば永遠に借金し続けられる」と言う専門家が多いほどで、米国の「体力」を軽視すべきでもない。
しかし、現実はともかく、ソブリンリスクはEUの周辺諸国だけでなく、米国のような世界No.1大国でも逃れられないといった心理的衝撃は大きい。
このような心理的衝撃が目下米ドルの切り返しを阻止し、ユーロの下げ止まりをもたらしている本当の原因ではないかと思う。
■ユーロは「消却法」で買われているだけか
仮に米国がデフォルトしても、PIIGS諸国のようにただちに困窮するといったことにはならないかもしれない。
ただ、そうなれば、新たな国債を発行をできず、新たな融資を受けられない制約のもと、米国政府は財政緊縮に動かざるを得なくなるだろう。この結果、米国の経済成長率はさらに低下し、ソブリン格付けと米ドルの信用力が一段と低下する事態も避けられないことになる。
マーケットはこのような事態を見通して、米ドル買いを躊躇しているようにも見える。
マーケットの本音として、同じソブリンリスクでも、すでにいろいろな問題が鮮明となっているEUと比べ、米国のリスクはなお不透明な部分が多いから、「仕方がなく」ユーロの買い戻しに動いているのかもしれない。
なぜなら、ユーロは米ドルの対極的存在であり、ユーロ高なしの米ドル安はあり得ないからだ。そのため、結局、ユーロは「消却法」で買われることになる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
最後に、ギリシャの債務再編について、「ソフトな債務再編」、つまり問題の先送りといった方法が論議されている模様。それは米国の技術的なデフォルト処理と同様で、問題のごまかしとしか言いようがない。
このツケが来年に回っていく分、2012年は大変な年となろう。この先は波高し。
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