米国の「ソブリン危機」や「QE3」は、一見すると、そのリスクは確かに大きいが、現実化するまでには時間がかかる。それ以上に、相場心理を圧迫する「材料」として、その役割は大きい。
つまり、米国発の危機であっても、それは相場の流動性を低下させるものであるため、結果的に、リスク回避先としてドル資産に資金が流れ込む可能性が高い。
米国はこのことをよく知っているからこそ、前述のように、基軸通貨の地位を乱用し続けてきたのだ。
ましてや、ユーロのソブリン危機が深刻化し、中国はインフレに悩まされてハードランディングの可能性を払しょくできずにいるのだから、現状では、世界のホットマネーは行き場を失っている。
このような状況においてこそ、米ドルや米国債といった「ドル資産」は優位性を発揮できるし、世界情勢が混乱すればするほど、有利になってくる。
従って、米国のソブリン危機にしても「QE3」にしても、事の蓋然性よりも相場心理へのインパクトのほうが大きいから、「ウォール街」の人々はこれを利用して、タイミングよくリリースしていると思われる。
ムーディーズにしても、S&Pにしても、近日中に本当に米国の格付けを切り下げるようなことはないだろうし、そのようなマネは到底想像できない。一連の動きは、一種のパフォーマンスに過ぎない。
ポルトガル国債を「ジャンク級(投機的等級)」にする一方で、米国債の見通しを「アクティブ」のままに据え置いたままではあまりにも見え見えだから、表では何らかのポーズを取る必要があったというわけだ。
■米債務上限引き上げは大した問題ではない
それでは、前回のコラムでも提起した「世界ソブリン戦争」における米ドルの優位性を、ユーロサイドと米ドルサイドで見てみよう。それぞれに、3つの根拠があった(「ムーディーズの『奇襲』に米国政府の影!『世界ソブリン戦争』の戦端は開かれた!!」を参照)。
まずは米ドルサイドからで、米国債の債務上限引き上げ問題が難航している点が心配されるが、このコラムでも何度か指摘しているように、前例を鑑みると、政治家は最後にはパフォーマンスをやめるだろう。彼らが実利を取る公算は大きく、ギリギリで承認される可能性は高い。
ところで、この債務上限の規定自体はあまり意味のないものである。米国が債務上限を設定したのは1917年であり、第一世界大戦の資金捻出のためであった。その後、1960年から実に78回も債務上限を引き上げてきたので、平均すると、8カ月に1回の割合で引き上げられている。
2001年以降、米国は10回も上限を引き上げてきたが、今回だけが争点となって、米国議会が決裂することは考えられない。つまり、米国の債務上限引き上げはかなりの頻度で行われているため、マスコミが騒いでいるほど大した問題ではない。
■米ドル/円は最後の「ダメ押し」で下落か?
このことだけを見ても、世間で騒がれるものすべてが必ずしも重要ではなく、逆に、本質的な物事が静かに進行して、なかなか表に出てこないということは多い。
為替のマーケットでも、トレンドの主流は時にファンダメンタルズの材料、とりわけ、マスコミが騒ぐ材料とかけ離れた方向に進行してしまうので、注意が必要だ。そのあたりの解釈も含めて、詳細な説明は次回に行おう。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)
最後に、「ソブリン戦争」で米ドルの優位性がかえって証明され、「米ドル高」が進むといったシナリオを筆者は堅持しているが、短期スパンでは「QE3」や「米国のソブリン危機」といった「世間の杞憂」が浮上している以上、米ドルの底固めには時間が掛かると見ている。
この見方は、最安値圏に沈む米ドル/円に対しても同じであるが、中長期のスパンでは、米ドル/円は最後の「ダメ押し」にさらされる段階だと思っている。
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