米国の「QE1(量的緩和策第1弾)」、「QE2(量的緩和策第2弾)」や中国の4兆元もの財政出動をはじめ、量的緩和と流動性供給が世界的に行われた結果、世界経済は2008年に瀕死の瀬戸際からよみがえったように見えた。
だが、瀕死の病人に麻薬を大量に投与し、一時的に痛みをやわらげたとしても、病気が治るわけではないのと同じように、本質的には何も改善されていなかった。
それどころが、もともと病んでいるところに麻薬の大量投入を行ったため、躁うつ病まで患い、激しい気分の変化と極端な反応を示すようになったのだ。
だから、夏場までの欧米株の上昇は、病んでいる世界経済という「病人」が麻薬を打たれて「躁状態」であった結果に過ぎず、これをもって世界経済が健全な軌道に乗ったと思うのは大間違いであった。
また、麻薬が切れたところでは、一転して「うつ」の状況に陥り、より激しく反応してくるから、先週の市況の混乱は事の始まりだと悟るべきだろう。
■米国の病気は治らないとFRBとバーナンキ議長が認めた
究極的には、麻薬なしでは、世界経済が元の軌道には戻らないことをマーケットはわかっている。だから、麻薬の怖さがわかっていても、麻薬を求めているところがある。
量的緩和という金融政策でも、財政出動という財政政策でも、目先の「幸せ」を求めて、マーケットは自らのパフォーマンスによって各国の為政者に政策の発動を迫っているとも言える。
一方で、麻薬を手放しで与えるわけにはいかないことも各国の為政者はわかっており、与えたくても与えられない情況に追い込まれていることがもっときつい。
「QE3」を打ち出せなかったことは、量的緩和という「麻薬」を打っても、米国の「高失業」「低成長」という病気が治らないことを、FRBとバーナンキ議長が認めたと言っても過言ではない。
中国にいたっては、インフレと不動産バブルといった後遺症に悩まされ、ヘタに動いたら、共産党政権の統制を揺るがすまで危機が拡大するリスクもはらんでいる。
G7(主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議)やG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)で、各国の為政者は「協力して断固たる措置をとる」と謳ってはいるものの、内心では「もはやお手上げしかない」とつぶやいているに違いない。
この意味では、ユーロのソブリン問題は最初の証左となるだろう。
「ギリシャのデフォルト(債務不履行)を許せない」、「ギリシャのユーロ離脱はあり得ない」とEU(欧州連合)の高官は口では言うものの、その内部では、ギリシャのデフォルトあるいはユーロ離脱なしでは、もはやEUの問題を解決できないとわかっているはずだ。
ギリシャの破綻は連鎖反応を引き起こし、次はアイルランド、そして、スペインやイタリアの順に危機が訪れるだろう。イタリアの番に回ってくれば、ユーロそのものの存続意義が問われる危機に発展する。
ただ、ユーロ自体はなくならず、何らかの形でかなりの痛みを伴う改革がなされると、筆者は推測している。
■ユーロの下落はこれから本格化する
短期スパンでは、なすすべがないから、ユーロは利下げ、英国は量的緩和拡大を行い、それに伴って商品市況が下落し、豪州の利下げも視野に入る状況になると見ている。
したがって、米ドル高は続き、外貨安がもたらした円高は続くだろうし、その分、米ドル/円の底打ちも遅れる可能性はある。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 月足)
いずれにせよ、米ドルの対極として位置づけられるユーロの下落はこれから本格化し、それに連れて、為替市場は混乱するとみている。
また、よりマクロの視点で見れば、ユーロという人類史上初の「民主主義共通貨幣」が衰退し、それに伴って、世界経済は新たな衰退期に入っていくだろう。
そして、筆者も含めて、戦前の大恐慌を経験していない世代は本当の「衰退と恐慌」を体験することになる。激動の時代は幕開けしたばかりだ。
このような時代に生き残りたいならば、「為政者の腕に期待しない」、「為政者の言葉を信じない」ことが一番大事ではないかと思う。
そして、今すぐにでも資産防衛の観点で資産運用方法を全面的に見直さなければならず、そうしなければ足元の市況のように、われわれの人生もベアトレンドに突入する可能性が高い。
このあたりの話は、今後のコラムでも継続的に触れていきたいと思う。
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