各統計資料を見ると、個人投資家の逆張りのポジション、すなわち、米ドル買い/円売りが膨らんでいる。基本的に、これは介入期待に基づくものであり、酷な言い方であるが、多くの個人投資家に損切りをさせないと日本政府・日銀の市場介入は成功しない。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
もちろん、個人投資家やヘッジファンドの投機ポジションだけで、日本政府・日銀の介入をムダにしてしまうと言うのは大げさだ。もっと重要な勢力、つまり、実需筋の動向を把握しなければならない。
しかし、実需筋も日本政府・日銀の介入に期待し、あまり米ドル売りを行っておらず、売り需要が膨らんでいるケースは多い。これは米ドルだけではなく、ユーロに関してもそうである。
ユーロのソブリン危機がこれほどまでも騒がれているのに、日本企業の想定為替レートがユーロ高の水準のままであることが多いのも、日本政府・日銀がいずれ介入してくれるといった期待感に基づくものといって、過言はないだろう。
■日本の円売り介入を成功させるには?
こういった期待が裏切られると、今度は多くの投資家がいっせいに米ドル売りやユーロ売りを急ぎ、米ドル安、ユーロ安のモメンタムを加速させるため、かえって円高を招くことになってしまう。
言ってみれば、実需筋の中途半端な「リスクヘッジ」と日本政府・日銀の中途半端な「介入」が相まって、円高のピークを後ズレさせている可能性は否定できない。円高がダラダラと進行している背景には、このようなことがあるのだと思う。
総括してみると、実需筋が幻想を捨てて売るべき米ドルやユーロを売り、投機筋のロングポジションが徹底的に一掃され、大げさな表現ではあるが、「マーケットにはもう円買いポジションしかない」といった状況にならなければ、日本の当局による介入は成功しない。
この意味では、いま日銀と日本政府に求められているのは、有言実行ではなく、有言不行であろう。
つまり、口では「介入! 介入!」と言いながら、実際には動かず、米ドル安とユーロ安をとりあえず静観する。こうすれば、ロング派の投機筋が大損し、実需筋もあわてて売ってくる。そうすると、一時的には激しく円高に振れるものの、相場の需給は(意図的に)整理される。その上で、マーケットに不意撃ちを仕掛けるというのが効果的だ。
場合によっては、クリスマス当日などのタイミングで介入を行い、マーケットにプレゼントを贈るといった大胆な行動が必要であろう。
最近のように、「介入するぞ! するぞ!」と言いながら介入してくるのは愚の極だ。
■今だからこそ、円高を放置したほうが得策だ!
このような話をすると、「そんなバカな!」といったお叱りを受けるかもしれないが、ここで2点ほど申し上げておきたい。
まず、今だからこそ、このようなやり方が有効なのである。
その根拠として、相場の内部構造が、円高がすでに最終段階に来ていることを示唆している。これについて説明した記事が最近多く見られるので、その詳しい説明は省くが、要するに円高を放置し、円高阻止を一時的に放棄しても、無秩序な円高とならない可能性が高いのだ。
そして、円高の主戦場がすでに米ドル/円からユーロ/円へと移っているため、対米ドルのみでの円売り介入には限界がある。その上、ユーロのソブリン危機が背景にあることから、ユーロ安は日本の介入だけでは到底阻止できない。
だから、円高は放置したほうが得策なのだ。無理に介入を行っても、結局、国民の税金でその損失(⇒日本政府がすでに大損していることをお忘れなく!)を穴埋めすることになるから、笑える話ではない。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
ユーロ安の蓋然性については、イタリアの混乱がもっとも危険なシグナルとなるだろう。イタリアは大きすぎるため、救えない可能性があるからだ。
このあたりのことは、筆者の無料メルマガ「陳満咲杜の為替天気予報」の11月10日号で解説しているので、参考にしていただきたい。
最後に、ロイターのサイトで今朝、「投機的な動き・過度な変動に関心、言ったことは行動=円高で財務相」というニュースが流れていた。これを読んで、多くの国民が財務相を評価するだろう。
しかし、日本の政府も国民も、この程度のロジックと知恵にとどまっているならば、円高阻止の成功を安易に期待することはできないかもしれない。
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