■急速に市場心理が改善している
3月に入り、春の足音が聞こえてきた。為替市場においても、米ドル/円が「厳冬」のような安値圏から脱出し、その他のメジャー通貨も高値圏で推移し続けている。
クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も総じて堅調で、株高と相まって、急速に市場心理が改善している状況がうかがえる。
もっとも、米ドルと円は「伝統的」にリスク回避先とされているため、一般的に、「米ドル安」かつ「円安」の状況は、市場センチメントの向上として解釈される。
ここでややこしいのは、本来であれば、「米ドル安」はその裏返しとして「円高」につながるはずだが、円もリスク回避先の通貨とされているために、米ドル/円は米ドル全体の動きとカイ離する傾向が強いということだ。
したがって、「米ドル売りで、円売り加速」といった市況報道はよくあるものの、「米ドル売りで、ユーロ売り加速」といったニュースはあまり見られない。
また、そのために、クロス円通貨ペアも、じつにややこしい存在である。往々にして、その値動きはオーバーシュートする傾向が強いと言える。
■「プチ・バーナンキショック」で急速に北風が吹く可能性も
さて、リスクオンの米ドル売りと円売りが続く状況を「春」と呼ぶならば、春景色が、いつまで続くのかかが重要な問題である。
結論から言えば、「プチ・バーナンキショック」で急速に北風が吹く可能性も浮上しており、場合によって「春吹雪」もあり得るとみている。
ただし、足元はかなり「微妙」な状況であることから、テクニカルアナリシスにおけるポイントをしっかり押さえないと、見極めることは難しい。
「プチ・バーナンキショック」については、次のチャートをご覧いただきたい。
(出所:米国FXCM)
2月29日(水)は、まず、ECB(欧州中央銀行)が第2回の「3年物資金供給オペ(LTRO2)」を実施した。このオペに5295.31億ユーロの資金需要があったことが報じられ、ユーロは想定したどおりに上昇した。
だが、その後にべージュブック(米地区連銀経済報告)がリリースされ、FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長の発言が「プチ・ショック」となり、ユーロは急落した。2月16日(木)安値からの上昇トレンドは、いったん挫折したのだ。
皮肉なのは、バーナンキ議長が何かを発言したことで「プチ・ショック」が起きたのではなく、その逆で、「肝心な言葉」を言わなかったために、「プチ・ショック」がもたらされたということである。
もちろん、その「肝心な言葉」とは量的緩和である。
■「QE3」が行われないならば、どうなる?
バーナンキ議長は、米国の景気回復に対して慎重な姿勢を崩しておらず、悲観的過ぎるとも思えるような見通しを述べた。その一方で、かつて念仏のように唱え、実行を示唆してきた「第3次量的緩和策(QE3)」についてはまったく言及しなかった。
「これぞ問題だ!」と騒ぐ市場関係者は、いっせいに米ドルのショートポジション(売り持ち)を手仕舞ったのである。
ここで問題なのは、米国の景気回復がマーケットの想定よりも遅れるならば、リスクオンからリスクオフへ、市場のムードが再転換する可能性が高まるということだ。多くの市場関係者が、米ドルを再びロングポジション(買い持ち)にしてくることも予想される。
また、FRBがこれまで、率先して世界的な「過剰流動性相場」を作り出してきた経緯があるために、「QE3」が行われないならば、欧州、英国、日本などの金融緩和政策が一層浮き彫りとなる。このことが外貨安につながり、米ドルをさらに押し上げるといった思惑につながっている。
ゆえに、米ドル全体が買われ、その一方で、円は蚊帳の外に置かれ、あまり買われなかったのである。
■マーケットには「神の見えざる手」が常に存在している!
以上、ここまで理屈を申し上げてきたが、本音を言えば、こういったものはすべて「後づけ」の部類に入り、テクニカルアナリシスの視点なしでは、蓋然性はそう大きくないと思っている。
値動きについて、いくらでも違った解釈ができるのが為替相場であって、前記のように、肝心なテクニカルポイントを見極めなければ、正しい判断は下せない。
それでは、肝心のポイントはどこにあるのか、ズバリ提示しよう。
下のチャートをご覧いただければ、2008年安値から引かれたラインが、ちょうど節目の78付近に位置していることが、おわかりいただけるだろう。目先は、このレベルを維持できるかが焦点となる。
(出所:米国FXCM)
この点で、バーナンキ議長が「QE3」に言及しなかったことは、タイミングとしてとても「微妙」であった。マーケットに「神の見えざる手」が常に存在していることを、また意識する好例でもあった。
■ドルインデックスが78割れとなるか、否かが極めて重要
ドルインデックスは2月29日(水)に、78.09の直近安値レベルに一時迫り、節目の78割れ目前まで下落していた。
もし、これを割り込む場合はどうなるか? じつは、この問いに関するヒントが2月17日のコラムに提示されていたことを、賢い読者の方はお気づきであろう(「19カ月サイクルがユーロの切り返しを示唆。性急なユーロ売りは避けたほうがいい」を参照)。
(出所:米国FXCM)
はい、そのとおりだ!
節目の78を割り込めば、ドルインデックスにおける6ヵ月サイクルが示す米ドル安が一段と進み、最短で3月末まで、普通に作用するならば4月末まで、米ドル安が進む可能性が高い。
その反対に、78割れを回避できれば、序列上のサイクルの指示に従い、米ドル安ではなく米ドル高に転じる可能性が高くなる。
ドルインデックスの78が守られるか、否かが、今後のマーケットを左右する重要なポイントである。
■パラシュートなしで飛行機から飛び降りるような無謀行為!
なお、より詳細なテクニカルの話も本来はさせていただきたいが、やや複雑であるため、ここでは割愛とさせていただく。だが、相場を見通すためには、このようなテクニカル的な視点とセンスが必須であるということは、ここで強調させていただきたい。
評論家ならともかく、相場で利益を得たい人ならば、テクニカルアナリシスの視点とスキルは重要である。それがなければ、パラシュートなしで飛行機から飛び降りるような無謀行為を行っているようなものである。
ファンダメンタルズによる判断は、せいぜい飛行路線図に過ぎない。飛行機から飛び降りるにはパラシュートが必要であることを、決して忘れてはならない。
■米ドル全面高なら、米ドル/円はアタマを押さえ込まれる
今後の見通しだが、ドルインデックスが節目の78を割り込めば、しばらくは春景色が色濃くなるだろう。
逆に、2月29日(水)からの反発が「ホンモノ」であれば、バーナンキ議長の「無言」がもたらした「プチ・ショック」がより大きくなり、「春吹雪」が吹いてくるだろう。
また、ご注意いただきたいのは、米ドルの全面高は外貨安・円高をもたらすため、結果的に、米ドル/円のアタマを押さえ込む形になりかねないということだ。
(出所:米国FXCM)
最後に、ごく短期スパンにおける判断材料として、ヒントをもう1つ提示しておきたい。
2月10日のコラムで「英ポンド/米ドルは200日移動平均線を超えられるか?」といった問題を提示したが、答えは「YES」と書かせていただいた(「『米ドル安はまだ続く』と結論できたシンプルで皮肉なある方法とは?」を参照)。
上のチャートをご覧いただけば、このコラムを読み続けていただいている読者のみなさまなら、自ら判断できるだろう。
それでは、よい週末&よいトレードを!
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