引き続き、為替市場は米ドル高の基調となっており、米ドル/円は一時、84.18円まで上昇した。
また、このような米ドル/円の堅調な値動きが、主要通貨ペアをリードしている。そして、米ドルの全面高を押し進めている印象が強い。
■近日中に、ドルインデックスは年初来高値を更新へ
米ドル高の背景として、米国の景気回復に伴う「QE3(量的緩和策第3弾)」観測の後退など、ファンダメンタルズ上の理由がよく聞かれる。だが、テクニカルの視点も重要であり、やはり、ドルインデックスの「78」が守られたことが大きかった。
このコラムでも指摘してきたように、「78」を死守することが米ドル高の基調を続けるためには重要で、3月15日(木)に、一時「80.67」まで上昇したことはそのよい証左である(「マーケットは春景色となるか?春吹雪か?ドルインデックスの『78』が超重要ポイント!」など参照)。
ドルインデックスの重要性については今さら強調するまでもないが、今後の相場を見る上でも欠かせないため、ここで、その値動きを検証しておこう。
(出所:米国FXCM)
日足チャートでまず注目していただきたいのは、2月16日(木)につけた直近の高値を上回ってきたことだ。これは2月29日(水)安値の「78.09」を起点とした切り返しがホンモノであり、米ドル高基調の継続を示唆するシグナルとして意識される。
さらに、2011年11月安値からのリバウンド継続により、現状は、2011年5月安値を「ヘッド」とする「逆三尊型」のフォーメーションを形成していると、読めなくもない。
「78」の節目がを守られたことで、フォーメーションの指示どおりに、これからさらに高値をトライしていく可能性も考えられる。
ただし、筆者は、この「逆三尊」の成立には若干疑問を感じており、必ずしも、完全に同意しているわけではない。
だが、目先でのブル(強気)基調の継続は疑う余地がないので、近日中に、ドルインデックスは年初来高値を更新していくとみている。
■米ドル/円のパフォーマンスはオーバーとは言えない
米ドル/円については、ドルインデックスから得られた結論に沿った形で見ていくと、納得する部分は多いと思う。
一見すると、米ドル/円は買われ過ぎのように思われるが、前回のコラムでも申し上げたように、じつは82円台に乗せないかぎり、オーバーボート(買われ過ぎ)とは言えない側面があった(「誤解を恐れずに言えば、ギリシャ問題はユーロ相場を左右しない!」を参照)。
前述のように、過去のパターンとは打って変わり、足元では米ドル/円が全体的な米ドル高をリードする役割を果たしている。したがって、ドルインデックスの堅調地合いを考慮すると、必ずしも、米ドル/円のパフォーマンスはオーバーとは言えないということを、認識できるはずだ。
次に強調しておきたいのは、足元の円安は長期にわたって進行してきた円高の反動であり、その期間が長かったため、いったん円安に転換すると、スピードを伴いやすいということだ。
マグマが溜まりに溜まっていた分、その後の反動も大きいのである。
■米ドル/円もクロス円も、強気の見通しを堅持する!
また、その値幅に関しては、じつは2011年10月31日と深い関係があった。これは言うまでもなく、日本政府・日銀が史上最大規模の円売り介入を行った日であり、その値幅は大きかった。
さらに、「日柄」的にも、2011年10月31日の安値は、もっと前につけた95円の安値から198ヵ月サイクルの底打ちの時期にぴったり合っていた。これは重要な意味を持つ。
過去を現在に「投射」する形で今の値動きが決められるわけだから、米ドル/円が買われ過ぎか、否かは、2011年10月31日の値幅から測定しないと、正確に把握できない可能性が高かった。
その具体的な話は筆者のブログに書いたので、ここでは詳説を省かせていただくが、結論を言えば、米ドル/円の上値ターゲットは、再度、上方修正しなければならないと考えている。
根拠は単純明快だ。ドルインデックスがこれから高値を更新していく可能性が高いため、そして、米ドル/円が引き続き、米ドルの全面高をリードしていく可能性が高いためである。
さらに、オーバーボートでないと本当のブル相場とは言えないというのも、根拠の1つだ。米ドル/円が84円台に乗せたことで「多少の」買われ過ぎサインが出ているが、だからこそ、強気シグナルとしてとらえなければならない。
なお、米ドル/円は、3月15日(木)の海外市場あたりから調整が見られているが、オーバーボートの「程度」が緩和されれば、また次なる上昇余地が開けると予想される。
具体的な上値のターゲットとしては2011年4月高値の85.52円はもちろん、2010年5月高値の94.98円を起点とした全下落幅の61.8%戻しである87.57円も、射程に入るだろう。
当面は、メインストラテジーの押し目買いを継続していきたいと思っている。
そして、米ドル/円だけでなく、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)についても、強気見通しを堅持しておきたい。
実際のところ、前回のコラムで指摘したとおりに、クロス円は高値トライを続けていて、英ポンド/円は高値を更新している。
ただし、「スパン」としては、明らかに米ドル/円よりも短いとみている。米ドルの全面高で円以外の外貨が押し下げられているため、クロス円は、米ドル/円ほどブル基調にはならないだろう。
とはいえ、短期スパンに限って言えば、米ドル/円がぐんぐん上がっていくに連れて、クロス円も高値を更新し続けるであろう。それができないとなれば、外貨の暴落のほか考えられない。
■英ポンド/米ドルの底割れ回避と反発は予測できた
ところで、クロス円自体の相場の内部構造を分析しておくと、じつは、ドルストレートを把握できる部分は多い。
主要なクロス円のうち、いち早く高値を更新した英ポンド/円のチャートを見てみよう。
(出所:米国FXCM)
上のチャートは、筆者が3月7日(水)に作成したものである。
1月13日(金)安値を起点とした英ポンド/円の上昇変動は5波構造で、3月6日(火)安値はあくまで同序列の4波調整に過ぎず、これから5波上昇で高値更新していくといったシナリオが示されていた。
ここでは、アプローチ手法である「エリオット波動論」の説明は省かせていただくが、要するに、英ポンド/円の内部構造がなお高値更新の蓋然性を示している以上、英ポンド/米ドルの早期の底割れもないといった見通しを立てることができる。
(出所:米国FXCM)
実際のところ、そのとおりの展開となった。一見すると、英ポンド/米ドルは弱気パターンを重ねていて、上のチャートのように「ダブル三尊型」も暗示されていたが、節目の1.5600ドルを死守できたことが大きかった。現執筆時点でも、反発を見せている。
英ポンド/円の高値更新の前提条件として、米ドル/円の上昇以外に、英ポンド/米ドルの底割れの回避も必須であった。よって、性急な英ポンド/米ドルの売りは避けられたと言える。
■短期では、性急なユーロ売りや豪ドル売りは手控えるべき
中長期スパンにおける見通しとして、筆者は、米ドル高が続くというメインシナリオを想定している。したがって、ユーロなどの外貨は底割れし、安値更新していくだろう。
ただし、ユーロ/円、豪ドル/円の高値更新が実現されていないうちは、急落は避けられる公算が大きい。
一方、同じロジックを用いると、まだ高値を更新していないユーロ/円、豪ドル/円は、これから高値を更新する可能性が高い。目先で米ドル/円に調整の兆しが見られたことも相まって、短期スパンにおいては、ユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルは切り返しをしやすいと思っている。
ゆえに、短期トレードにおいて、性急なユーロ売りや豪ドル売りは手控えるべきだと見ているのだ。
以上、クロス通貨ペアから相場の全体像を把握するという「奥の手」もあることを、お示しした。読者の皆さまも、利用されてみてはいかがだろうか。
なお、クロス通貨ペアの由来や基本構造がわからなければ、このようなロジックは理解しにくいだろう。その基礎知識については、筆者のブログなどを参考していただければと思う。
米ドル高の蓋然性について、米国の「QE3」実施の有無では、切り返しを語ることはできない。筆者は「QE3」はないとみているが、もし行われるとしても、そのインパクトはかなり限定されるだろう。米ドル高のトレンドが継続する可能性は高いとみている。
この意味では、むしろ「QE3」があれば、買い遅れたロング筋にとって絶好の押し目の好機となり得る。彼らから歓迎されるであろう。
このあたりの話は、また次回へ。
(2012年3月16日 13:15執筆)
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