■米ドル高のモメンタムが失われているように見える
足元の為替市場では、一進一退が繰り返されている。
先週のコラムで指摘したように、ドルインデックスの「78」は極めて重要である。先週(2月27日~)はこの節目が守られたため、米ドル高の基調となっていた(「マーケットは春景色となるか?春吹雪か?ドルインデックスの『78』が超重要ポイント!」を参照)。
ところが、3月7日(水)あたりから、モメンタムが失われているようにも見える。
この点は、ユーロ/米ドルの値動きにもっとも顕著に現れているので、確認してみよう。下のチャートは、ユーロ/米ドルの日足である。
(出所:米国FXCM)
2月29日(水)に行われた議会証言で、FRB(連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長が「QE3(量的緩和策第3弾)」に言及しなかったことを理由に米ドル買いが強まり、ユーロ/米ドルは「ダブルトップ」をつけた形で下落した。
この流れは3月6日(火)まで1週間ほど続き、この日の米国株式市場で、ダウ指数が年初来最大の下げ幅となったことを受けて、リスクオフのユーロ売りは一段と膨らんだもようだ。
だが、翌3月7日(水)に、米WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)紙の「米FRB、QE3の不胎化(※)を模索」といった報道が流れた後、ユーロは下げ止まった。
その後は現執筆時点まで、リバウンド基調となっている。
(※編集部注:「不胎化」とは、当局が金融緩和や市場介入を通じて供給した通貨について、その需給の変動をオペレーションなどの公開市場操作により調節し、市場金利に影響を与えないようにすること)
■マーケットに「春吹雪」が吹くかどうかは、FRBしだい
テクニカルの要素として注目していただきたいのは、2月16日(木)の値動きと同様に、今回も50日移動平均線がサポートゾーンとして意識されたことだ。
また、100日移動平均線をめぐる攻防で、2月9日(木)はユーロのアタマを押さえ込んだものの、目先では、ユーロがやや優勢になっていることも見逃せない。
ユーロ/米ドルの日足チャートから見えてくるのは、最近の相場において、市場センチメントの良し悪し、すなわち「リスクオン/オフ」の切り替えが米ドル全体の高安を左右しているということだ。
FRBの「次の一手」に対する思惑が市場センチメントを支配しており、ゆえに、マーケットに「春吹雪」が吹くかどうかは、じつに、FRBしだいといった見方にならざるを得ない。
■ギリシャ問題は「本質的な問題」ではない
ここまで言ってしまうと、皆さんから抗議の声が寄せられることも、容易に推測できる。
ギリシャの債務交換に対する懸念にまったく言及がなされていないため、「ギリシャ問題がユーロを左右するのでは?」といった指摘を受けるに違いない。
確かに、ギリシャの債務交換の行方は重要なテーマであり、市場関係者はそれに神経をとがらせてきた。
しかし、誤解を恐れずに言うと、それは「表面上の緊張」であって、「本質的な問題」ではない。
究極の言い方をすれば、実際のところ、ユーロの高安はちまたで言われるほど、ギリシャ危機をはじめとするEU(欧州連合)のソブリン危機とは緊密な関連性がなく、むしろ、米ドル全体のサイクルに支配されているところが大きい。
このことは、ユーロ以外の外貨にも言えるが、とりわけ、米ドルの対極として位置づけられるユーロでは、かなり鮮明である。
したがって、ギリシャ問題云々よりも、ドルインデックスのサイクルのほうが重要であって、支配性を有していると言えるのだ。
■ギリシャ問題の一段落は当然の成り行きである
ちなみに、ギリシャの債務交換をめぐる懸念や思惑はいろいろあったものの、結局のところ、無風で通過した。
だが、筆者にしてみれば、これは想定の範囲内である。細かい技術的な問題を挙げればキリがないのだが、次の2点だけを認識しておけば、冷静に相場とつき合えたと思っている。
まず、「ギリシャがEU離脱か?」との懸念が広がったが、実際にそうなれば欧州に莫大な損失がもたらされるため、EUはあの手、この手を使って、ギリシャのデフォルト(債務不履行)を回避すると推測できた。
次に、債務交換交渉はギリギリまで駆け引きが行われたものの、現時点で言えば、ギリシャをデフォルトに追い込むことは誰の利益にもならない。つまり、誰もが敗者になるので、最後は利害関係者たちがどこかで妥協せざるを得なかった。
以上、ギリシャ問題の一段落は当然の成り行きであり、本質的な問題ではないと思っていた。
■テクニカルに専念できれば、底打ちは予測できた
このような考え方ができるならば、マーケットはわかりやすいものとなるだろう。実例として、次の3つを挙げてみたい。
(出所:米国FXCM)
まずは、ユーロ/米ドルの日足チャート(3月7日作成)だが、ギリシャ問題云々など複雑に考えず、「基本的に、ユーロの調整は前の調整波と同じリズムを踏む」と見れば、いったん底打ちしてもおかしくないと考えられた。
(出所:米国FXCM)
続いては、英ポンド/米ドルの1時間足(3月7日作成)で、こちらも同じリズムで2回ほど大きく押していたので、短期スパンで見れば、いったん底打ちしてもおかしくはなかった。
ちなみに、この2枚のチャートは、筆者がツイッターで3月7日(水)につぶやいた際に提示したものだ。
前述のように、「ギリシャ問題は何とかなる」と筆者は思っていたので、テクニカルアナリシスに専念できたわけだ。
■ユーロの重要な節目は、ラインを引くだけで結構わかる
最後にもう一度、ユーロ/米ドルの日足チャートを見てみよう。これは3月8日(木)に作成したものである。
(出所:米国FXCM)
3月7日(水)の安値について、単純に考えれば、1月高値と2月高値を結んだラインを引き、それと平行に1月16日(月)安値を起点にラインを引けば、そこで合致しただけの話ではないだろうか?
ユーロの重要な節目については、ラインを引くだけで結構わかるものである。上記の他にも、このチャートから多くのことを「発見」できるだろう。
要するに、ギリシャ問題云々よりもドルインデックスのサイクル、ECB(欧州中央銀行)の金利政策動向よりも相場自体の内部構造とリズムが、ユーロの値動きを支配してきた。
老子曰く、「大道至簡」。相場のことは相場に聞けばよい。
本来、相場というものは、極めてシンプルでわかりやすいのかもしれない。
■クロス円は、反落前にいったんは高値を更新か
それでは、相場はこれから、どのように展開していくのだろうか?
まず、米ドル/円を除いて、ドルストレート通貨ペアに関しては、楽観視できるシナリオはあまり描けないと思っている。
目先で、ユーロをはじめとする諸外貨は、ギリシャ問題の一服で底割れを回避できるかのように見える。
だが、テクニカルの視点では、やはり、ドルインデックスの「78」割れがないかぎり、なかなか安心できない。つまり、米ドル安があまり進まない可能性がある。
また、ファンダメンタルズの視点では、もちろん、FRBの「次の一手」に注目が集まるが、バーナンキ議長が「QE3」に言及せず、かつ、マスコミに「不胎化QE」をリークしていることは、非常にあやしい。
つまり、足元でマーケットが想定しているほど「QE3」実施の可能性は高くないと見ており、米ドル安が進むかどうかは不透明だ。
続いて、米ドル/円やクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)に関してである。
まず、米ドル/円は大幅上昇しており、一見すると買われ過ぎに見えるが、実際に検証していくと、82円台に乗せないかぎり、じつは「オーバーボート(買われ過ぎ)」とは言えないようだ。
ゆえに、ユーロ/円や英ポンド/円などクロス円が見せた3月7日(水)の下押しは、調整波のボトムに過ぎない。もし、上昇余地がそう大きくはなく、これから反落してくるとしても、いったんは高値を更新する蓋然性が高い。
このあたりの検証を含め、FRBの話とともに、また次回に詳説したいと思う。
(3月9日 東京時間13:00執筆)
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