結論から申し上げると、バーナンキ氏のお話は何であれ、米ドル/円の下値余地は限られるのではないかと思う。
というのも、まずQE3政策の本質を考えてみたい。
量的緩和策とは、お金の流通量を増やすことで資産価格の上昇を通じて景気向上を狙う政策だから、株高などをもたらし、リスクオンに寄与するものだ。
円資産は伝統的なリスク回避先だから、リスクオンの雰囲気の市場では、円高は限定的なはずだ。
このような見方は過去の例からも検証できる。前回の米量的緩和、つまり、QE2が実施されたのは2010年11月だったので、その後の米ドル/円の値動きを見れば一目瞭然だ。
(出所:米国FXCM)
上のチャートが示しているように、QE2以降、米ドル/円は下がるのではなく、しばらく切り返す展開になっていた。
したがって、今回も円高の余地は限定的で、QE3が実施されても米ドル/円は切り返しに転じるのではないかと思う。
■QE3が米金利を押し下げるとは限らない
理論的には、米ドル/円は日米金利差との連動性が高いから、米金利動向がカギとなるが、巷の発想と違い、量的緩和策が必ずしも米金利を押し下げるとは限らないことを前回のQE2が教えてくれている。
上のチャートが示しているように、QE2が実施された後、米長期金利は続落ではなく反対に上昇していたので、日米金利差の視点からしても米ドル/円の下げを示唆しなかった。
米長期金利が7月に歴史的な低水準を記録したことから考えると、いくら量的緩和とはいえ、同水準を割り込んでいくのは無理かもしれない。
もっとも、円高にシフトしていくにはユーロ/円などクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円高圧力が高まらなければならない。
しかしQE3があれば、基本的には米ドルは円を除く主要通貨に対して、調整ムードに入る公算が大きい。したがって、各主要通貨は上昇し、クロス円も上放れしやすいだろう。
ゆえに、ユーロ/円などクロス円の上昇は米ドル/円の下落余地を限定し、典型的なリスクオンの反応パターンになりやすいのではないかと思う。
■ユーロ/円はまだ切り返しの途中である
ユーロ/円に関しては、たびたび指摘してきたように94円台が死守されたことの意味は重大だ。同安値からの切り返しを考えると、ユーロ/円の上昇はなお途中であると推測できる。
以下は8月21日(火)に制作したチャートである。エリオット波動論による解釈は筆者のブログで説明しているので詳しい説明を省くが、ユーロ/円は6月高値まで回復しやすいといったイメージであることを提示しておきたい。
(出所:米国FXCM)
このような見通しが正しければ、前回のコラムでも強調したように、基本的には米ドル/円の底割れがないことを意味するので、やはり米ドル/円の下値は限定的ではないか。
【参考記事】
●ドル全面安は続くのか? 米QE3観測でユーロが買い戻されたとの俗論に異議あり(8月24日、陳満咲杜)
今のところ、78円の節目付近で米ドル/円のサポートの有無を確認してから、次の一手をまた探りたいと思う。市況は如何に。
(8月31日 14:50執筆)
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