■ジャクソンホール講演を控え、変動レンジは広がらず
今週(8月27日~)の為替マーケットは狭いレンジでの変動に留まっている。
今晩(8月31日)23時に行なわれる米ジャクソンホールでのバーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演を、市場関係者は固唾をのんで見守っているからだ。
米地区連銀経済報告書(ベージュブック)が示す景気判断はやや向上したこともあって、マーケットには「FRBは必ずしも9月に早期QE3(量的緩和政策第3弾)を実施するとは限らない」といった雰囲気も濃厚になっているが、市況はバーナンキ氏のお話次第と言えるだろう。
もっとも、マクロ金融政策に関する観測は我々の想像と違い、専門家の間でもかなり見方が分かれるところだ。
世界的に著名な債券ファンドマネージャー、PIMCOのビル・グロス氏とDoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏の見方が分かれている(前者が9月QE3あり、後者はなしとみているという)くらいだから、バーナンキ氏の話が聞けるまではなんとも言えないが、マーケットの反応はある程度推測できると思う。
■QE3がなければ米ドル全体が買われるが反応は限定的
仮に、今晩(8月31日)マーケットの予想どおり、バーナンキ氏がQE3をはっきり示唆しなければ、米ドル全体が買われ、円を除くユーロなどの主要通貨は調整色を強めていくだろう。
ただし、値幅が大きいとは思えない節がある。
その理由としてまず、足元のセンチメントは早期QE3なしといった観測にやや傾いているから、仮にバーナンキ氏が曖昧な言い方に終始したとしてもサプライズではないので、反応も限定的だろう、ということが挙げられる。
次に、9月のECB(欧州中央銀行)金利決定会議を控え、マーケットはECBの次の一手を警戒しているから、ユーロ売りをガンガン仕掛ける環境ではない、ということがある。
■QE3ありなら米ドル全体売りだが、やはり限定的
一方、バーナンキ氏がQE3実行に言及した場合は、米ドル全体が売られるだろう。
しかし、この場合でも結果的には激しい値動きではなく、短期スパンではやはり限定的な値動きに留まるのではないかと思う。理由は以下のとおりだ。
まず、最近のドルインデックスや米ドル/円の下げは基本的にQE3の可能性をある程度織り込んでいる結果だ。
ユーロ/米ドルを例として挙げれば、2010年6月以来の安値から、1カ月ぐらいで100日移動平均線(100日線)に接近するまで切り返しができたのは、ECBの行動に対する期待だけではなく、FRBの政策への警戒も重なっているからだと思う。
次に、やはり、9月6日(木)のECB会議を控え、不確定要素が存在しているだけに、ユーロ高・米ドル安一辺倒にはならないかもしれない、ということがある。
「ドラギECB総裁が今回のジャクソンホール会議を欠席する」という発表で引き起こされたマーケットの思惑はあったものの、ユーロ/米ドルはいまだに100日線を上回っていない。

(出所:米国FXCM)
この現状から考えると、市場関係者らは意外に冷静であることがうかがえる。
■QE3実施でも、米ドル/円の下落は限定的
ところで、肝心の米ドル/円に関してだが、仮にQE3が確実になれば、底割れしてガンガン円高の方向にいくのだろうか。
結論から申し上げると、バーナンキ氏のお話は何であれ、米ドル/円の下値余地は限られるのではないかと思う。
というのも、まずQE3政策の本質を考えてみたい。
量的緩和策とは、お金の流通量を増やすことで資産価格の上昇を通じて景気向上を狙う政策だから、株高などをもたらし、リスクオンに寄与するものだ。
円資産は伝統的なリスク回避先だから、リスクオンの雰囲気の市場では、円高は限定的なはずだ。
このような見方は過去の例からも検証できる。前回の米量的緩和、つまり、QE2が実施されたのは2010年11月だったので、その後の米ドル/円の値動きを見れば一目瞭然だ。
(出所:米国FXCM)
上のチャートが示しているように、QE2以降、米ドル/円は下がるのではなく、しばらく切り返す展開になっていた。
したがって、今回も円高の余地は限定的で、QE3が実施されても米ドル/円は切り返しに転じるのではないかと思う。
■QE3が米金利を押し下げるとは限らない
理論的には、米ドル/円は日米金利差との連動性が高いから、米金利動向がカギとなるが、巷の発想と違い、量的緩和策が必ずしも米金利を押し下げるとは限らないことを前回のQE2が教えてくれている。

上のチャートが示しているように、QE2が実施された後、米長期金利は続落ではなく反対に上昇していたので、日米金利差の視点からしても米ドル/円の下げを示唆しなかった。
米長期金利が7月に歴史的な低水準を記録したことから考えると、いくら量的緩和とはいえ、同水準を割り込んでいくのは無理かもしれない。
もっとも、円高にシフトしていくにはユーロ/円などクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円高圧力が高まらなければならない。
しかしQE3があれば、基本的には米ドルは円を除く主要通貨に対して、調整ムードに入る公算が大きい。したがって、各主要通貨は上昇し、クロス円も上放れしやすいだろう。
ゆえに、ユーロ/円などクロス円の上昇は米ドル/円の下落余地を限定し、典型的なリスクオンの反応パターンになりやすいのではないかと思う。
■ユーロ/円はまだ切り返しの途中である
ユーロ/円に関しては、たびたび指摘してきたように94円台が死守されたことの意味は重大だ。同安値からの切り返しを考えると、ユーロ/円の上昇はなお途中であると推測できる。
以下は8月21日(火)に制作したチャートである。エリオット波動論による解釈は筆者のブログで説明しているので詳しい説明を省くが、ユーロ/円は6月高値まで回復しやすいといったイメージであることを提示しておきたい。
(出所:米国FXCM)
このような見通しが正しければ、前回のコラムでも強調したように、基本的には米ドル/円の底割れがないことを意味するので、やはり米ドル/円の下値は限定的ではないか。
【参考記事】
●ドル全面安は続くのか? 米QE3観測でユーロが買い戻されたとの俗論に異議あり(8月24日、陳満咲杜)
今のところ、78円の節目付近で米ドル/円のサポートの有無を確認してから、次の一手をまた探りたいと思う。市況は如何に。
(8月31日 14:50執筆)
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