■イエレン・ショックの本格化はまだこれから
いずれにせよ、「相当の期間」利上げなしと慢心していたマーケットはこれからイエレン議長の話を織り込んでいくだろう。いわゆる「イエレン・ショック」は、一気に効いてくるというよりも、これから徐々に鮮明になっていく公算が高い。
何しろ、ウクライナ危機でも本格的なリスクオフにならなかったから、市場関係者の大半はますます強気になり、まだまだイエレン議長の話を「失言」と一笑する余裕がある。
先週(3月17日~)の値動きでは織り込み済みとはとても考えられず、「イエレン・ショック」の本格化は、まだまだこれからである。
つまり、これからイエレン議長やFRB幹部が「発言撤回」、あるいは利上げ期待の高まりをきつく牽制してくれなければ、米長期金利は上昇トレンドに入る。
■新興国より先進国の株価下落を警戒すべき
この場合、よくありがちな分析は新興国通貨や株価が2013年来のように大幅に下落するといった事態を想定するものだが、筆者はむしろ先進国、特に米国株バブルの崩壊をメインシナリオとして警戒しなければならないとみる。
(出所:米国FXCM)
なぜなら、いくら正当化されても、現在の米国株の高騰は、たび重なる量的緩和や資産購入策の結果であることを否定できない以上、QE(量的緩和策)の終了に伴う早期利上げは、バブルを破裂させるもっとも有力な引き金であることも、それなりに可能性が高い。
「イエレン・ショック」の本質は、新議長のジレンマよりもマーケットの内部構造、つまりサイクル的な循環にあり、マーケットは再び頂点に立っている以上、これから下り坂に突っ込むのを避けられない。
「お開きなしの宴はない」という中国のことわざのように、米量的緩和で作られた米国株バブルの「宴」はすでにお開きになったか、これから終了するに違いない。
■リスクオフの本格化と「有事の米ドル買い」に注意
だから、これからマーケットの値動きを予想するには、2つのキーワードが重要になってくるだろう。
1つはリスクオフの本格化、もう1つはリスクオフに伴う「有事の米ドル買い」である。
こういったロジックでは、円高・株安のセットがこれからも続くと思われる。また、「有事の米ドル買い」でユーロ/米ドル、英ポンド/米ドルなど主要通貨ペアのトップアウトが想定されやすいから、結局、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における円高圧力が、再び高まることになる。
筆者がかねてより指摘してきたユーロ/円の20円を超える下落幅は、2014年2月初めからのリバウンドでいったん中断されているが、まもなく再開されるだろうか。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
もちろん、米ドル/円の100円の大台打診も、引き続き有力視している。リスクオフの動きが本格化されるなら、さらなる下値ターゲットも視野に入ってこよう。
■黒田日銀総裁と市場関係者の認識のズレにも要注意
日米金利差で米ドルが買われ、円が売られるのではといった予想は、性急というより単純すぎるだろう。金利差がレートを左右する環境は、リスクオンでなければならないから、「イエレン・ショック」にはあてはまらない。
それに、「躊躇なく緩和」を繰り返す日銀の黒田総裁に対する期待もほどほどにしたほうがよいと思う。なぜなら、日銀にとって、これは「最後のカード」になるから、「相当」な円高・株安なしでは切ってくれない公算が大きい。
「最後のカード」をいずれ切ってくれること自体は懸念材料ではないが、どれぐらいの円高・株安が「相当」にあたるかについて、もしかしたら黒田さんの考えと市場関係者の認識にも「相当」なズレがあるかもしれない。相当用心しないといけない問題である。市況はいかに。
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