■FX会社はカバー先によって、状況が違っていた可能性
ところで、個人投資家への取材内容やネット上の書き込みなどを見ると、今回のスイスショックでは恐ろしいことに、ストップロス注文を入れていた位置よりもかなり下のレートで約定した例が結構あるようだ。
また、FX取引では、建てたポジションの含み損が拡大した場合、通常は口座の証拠金がすべてなくなってしまう前に強制ロスカットが執行されるしくみになっている。
しかし、その執行が遅れた結果、口座の証拠金がゼロになるだけでなく、さらに損が拡大して、FX会社に対してトレーダーが多額の借金を抱えてしまった例もあると聞く。
【参考記事】
●スイスショックで借金の悲劇! 個人投資家を直撃、裁判への動きも…
上の記事でも解説しているが、ストップロス注文は設定したレートを通過した瞬間に発動される成行注文のようなもの。約定するレートはストップロス注文を設定したレートそのものではなく、ストップロス注文レートを通過したあとにあった最初のレートということになる。
したがって、ストップロス執行時に約定レートが少しすべることは普通のことと言えるが、数百pipsとか1000pips以上もすべったとなると、すぐに納得はしにくいところだろう。
しかし、先ほど酒田氏が語ってくれたとおり、スイスショックの瞬間は、ユーロ/スイスフランも米ドル/スイスフランも、インターバンク市場でレートのない異常な状態が続いていたということだから、ストップロス注文が大きくすべるケースがあったことは仕方がない、というところだろうか。
さらに酒田氏からは次のような話も出てきた。
「FX会社のフローを集めている金融機関などもストップロスを執行できないようでした。ただ、FX会社はカバー先によって、状況がだいぶ違っていた可能性があるのではないでしょうか。
というのは、英系の銀行は割とずっとプライスを出し続けていたんです。一方、米系の銀行はプライスを止めていたので…」
英系と米系にそんな違いがあったのか、酒田氏の話だけでは確定的なことは言えないが、1つの情報としてお伝えしておきたい。
■通常時は気にならないカバー先が気になってくる
今回のスイスショックでは、FX会社によって、ストップロスのすべり方が違っていたことがあったようなのだが、酒田氏の話を聞くと、それはそのFX会社のカバー先がどれだけの数あるのか、どんな金融機関なのかといったこととも関係あるのではないかと思えてくる。
通常時はFX会社のカバー先をそれほど気にすることはないかもしれないが、このような異常時には差が出てくるのかもしれない。
ザイFX!の「FX会社徹底比較!」では、各FX会社の「FX会社詳細情報」のページにカバー先を記載しているので、気になる人はチェックしてみてはどうだろうか。
たとえば、FX取引高トップのGMOクリック証券[FXネオ]の場合、そのカバー先は以下のようにたくさんある。
【参考コンテンツ】
●FX会社徹底比較!:GMOクリック証券[FXネオ]

ただ、直接のカバー先が少ないからといって、すぐカバーに不安があると考えるのは早計だ。
たとえば、1万通貨までなら米ドル/円0.27銭原則固定と業界最狭水準のスプレッドで取引できるSBI FXトレードの場合、カバー先はSBIリクイディティ・マーケット1社となっているが、SBIリクイディティ・マーケットは計27社のカバー先を持っている。
【参考コンテンツ】
●FX会社徹底比較!:SBI FXトレード

なお、今回のスイスショックで米シティグループとドイツ銀行が各1億5000万ドル(約175億円)、英バークレイズが1億ドル未満(117億円未満)の損失を出したとの報道も出ているが、酒田氏は「日本の金融機関では大した損失は出ていない」と話していた。日本の金融機関はスイスフランをあまり取引しないからということだ。
■次のターゲットはデンマーククローネや香港ドルとの噂も
このスイスショックの影響は今後も尾を引くのだろうか? インターバンクディーラーとして、日々相場と対峙している酒田氏の見解を聞いてみた(本記事の取材は2015年1月19日(月)に行っている)
「スイスフラン絡みで損失を出したヘッジファンドや金融機関のトレーディングデスクは利益の出ているその他のポジションをいったん閉じるということをやっています。
そんなこともあり、今のところ、リスクセンチメントはあまり良くないですが、たとえば、日本株などを見ても、下げはそれほどきついわけではなく、スイスショックの影響は限定的だと感じます。
マーケットでは、スイスフランの次にターゲットとなるのはデンマーククローネや香港ドルではないかというウワサも流れていますが、それは現実的ではないと思っています」
デンマーククローネや香港ドルは、先日までのスイスフランと似たような形で中央銀行が大規模な介入などを行い、為替レートを人為的に狭い範囲で動かないようにしている。
デンマーククローネの場合は、コントロールの対象となっている相手の通貨はユーロ。為替レートの変動は1ユーロ=7.46038クローネの上下2.25%以内(1ユーロ=7.29252~7.62825クローネ)に留められている。

(出所:米国FXCM)
また、香港ドルは米ドルを対象として、相場がコントロールされている。こちらは1米ドル=7.75~7.85香港ドルの範囲内に収めるような政策が行われているのだ。

(出所:米国FXCM)
そして、酒田氏はこうした政策が破られることはないと見ているということだ。
なお、ユーロ/デンマーククローネはサクソバンクFX証券[スタンダード口座]、IG証券[ミニ取引]、OANDA JAPAN[ベーシックコース・MetaTrader4]などのFX口座で取引できる。
また、米ドル/香港ドルはYJFX![外貨ex]、ヒロセ通商[LION FX]、サクソバンクFX証券[スタンダード口座]、FXCMジャパン証券[プレミアム口座]、OANDA JAPAN[ベーシックコース・MetaTrader4]などのFX口座で取扱いがある。こうした特殊な通貨ペアのトレードに挑戦することをオススメするわけではないが、ご参考まで。
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔)
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