■米ドル全体の調整はすでに終了した公算大
米ドル全体は下げ一服、至ってブル(上昇)基調回復の兆しを見せている。ドルインデックスは93の節目割れを回避して、96の節目手前にリバウンド、早くも底打ちの可能性を示唆している。
この見方が正しければ、3月から続いてきた米ドル全体の調整は、すでに終了した公算が大きく、これからメイントレンド、すなわち米ドル高の展開が継続されよう。
今回のドルインデックスの調整は、2月安値(93.25)が示したサポートゾーンの再確認といった意味合いも大きく、また、1月16日高値(93.26)と相俟って見ると、今回93.13前後における底打ちが整合性をもつ。
(出所:米国FXCM)
このサポートゾーンを下回ると、場合によっては200日線(現在、約91)の打診があってもおかしくないから、底割れの回避自体が重要であった。
一方、96前半から同後半が目先のレジスタンスゾーンで、上放れなしではなお下値リスクがくすぶるだろう。
ドルインデックスの上昇モメンタムが強まっていくには、米サイドの経済指標が再度好転し、米利上げ時期についての市場関係者の確信が必要であるから、なお時間がかかるだろう。
したがって、米ドル全体はこれからなお安値鍛錬の期間となる公算が大きいものの、底打ちしたという見方が強まり、米ドルの押し目買いといったストラテジーが総じて有効になるのでは…と思う。
■反発していたユーロは頭打ちか
こういった判断は、ドルインデックスの対極として位置つけできるユーロ/米ドルの事情や動向からも確認できよう。
前回のコラムでは、ユーロ/米ドルが1.15ドルの節目打診の余地ありと指摘していたが、実際は1.1467ドルに留まり、また反落してきたことで、ユーロの早期頭打ちが示唆された。
【参考記事】
●ドル全体の調整はしばし続く可能性大だがドル/円は118円台死守ならやがて上放れ(2015年5月15日、陳満咲杜)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
ユーロの頭打ちは、ファンダメンタルズとテクニカルの両方から「効き目」があったことに注意すれば、ユーロの早期頭打ち、またベア(下落)トレンドへの復帰といったシナリオを有力視できる。
ファンダメンタルズでは、ギリシャ問題よりも、ECB(欧州中央銀行)政策のほうがより重要かと思われる。
何しろ、ギリシャはユーロ圏の一国にすぎないが、ECBの方はユーロ圏全域の金融政策を司るから、現在実行されているQE(量的緩和)策に変更があれば、マーケットに大きなインパクトをもたらす。
■クーレECB理事の衝撃発言がユーロリバウンドを阻止
そして、5月19日(火)、衝撃的な発言が伝わり、ユーロが急落した。クーレECB理事が、何と「ECBは、夏の閑散期の前に、QEのペースを加速させる」と言い、QEの拡大を示唆したのだ。
実際は、この発言はマーケットに伝わった5月19日(火)の前日(すなわち18日)に、クーレ理事が英金融業者主催の催しで発したもので、一種の「インサイダー情報」になり得るといった問題も大きいが、ユーロのリバウンドを阻止するには絶妙なタイミングだった。
ECBがQEを決定して以来の高値は1.1534ドル前後(2月)にあり、1.15の節目に接近してきたユーロのリバウンド自体、ECB関係者の立場からみると、牽制しなければならない値動きだ。
また、ユーロ高の牽制が「口漏れ」といった形で行われるなら、あたかも市場自体の動向と受け取られやすいから、クーレ理事の「失言」は単純に額面どおりに受け取れない。言ってみれば、ECBに政策変更の余地ありと示唆し、ユーロ高を牽制する思惑があった。
■ユーロ安トレンドはユーロクロスが先行か
テクニカルの視点では、筆者が5月19日(火)に書いたレポートをもって説明したい。内容は以下のとおり。
ユーロ急落、1.12関門割れをもってベアトレンドへの展開を示唆した。3月1.0462を展開してきたい大型ジグザグ型反騰波、すでにトップアウトした公算が高まり、ベアトレンドへの復帰、すでに始まった公算。
大型ジグザグ変動の子波構造では、4月安値1.0520を起点とした上昇波C(黄)、同じ序列におけるA波(黄)の1.618倍に相当、また同波自体の5波構造に完成もジグザグ型切り返しの完成を示唆。C波自体の5波構造では、第3子波iiiの延長が明らかで、同じ序列におけるi波とv波の値幅が等しい傾向も確認され、C波自体の目標達成感を強化した。RSIの弱気ダイバージェンスの構築や指示もユーロの頭打ちを示唆していると見る。
ジグザグ型切り返し、上の序列では第4調整波(緑大文字)に当たり、同調整波の終焉を確認したことで1.1466(15日高値)からすでに下落波に復帰した公算が大きい。近々1.1000~1.1050といったメインサポートゾーンの割り込みをもって一段とベア基調を強める見通し。目先1.12後半~1.13前半はメイン抵抗ゾーンと化し、回復なしではベアトレンドが継続されよう。
前述の両視点が正しければ、ユーロ安が再開された公算が大きいが、対米ドルよりも対英ポンド、対豪ドルといったユーロクロスの方がトレンドを先行させる可能性がある。
■米ドル/円の上放れはホンモノであると認定できる
このあたりの話は、また次の機会があれば詳しく話していきたいが、ユーロ/円のみ、ユーロ安トレンドへの復帰が遅れる可能性を指摘しておきたい。
なぜなら、米ドル/円は長く続いてきたレンジ相場を脱しており、上放れしていく可能性が大きいため、ユーロ安と並行して円安が進みやすいからだ。
円安トレンド再開の、米ドル/円での確認ポイントは、何よりも5月5日(火)高値120.50円や4月13日(月)高値120.84円のブレイクにあり、前回のコラムで説明したディセンディング・トライアングルの上放れの前提条件に照らしてみるとわかりやすい。
【参考記事】
●ドル全体の調整はしばし続く可能性大だがドル/円は118円台死守ならやがて上放れ(2015年5月15日、陳満咲杜)
要する、3月高値122.02円からの変動を、大型ディセンディング・トライアングル型整理局面とみなした場合、同フォーメーションのレジスタンスラインの突破だけでは不十分で、D波トップの突破も必要で、B波トップ突破があれば、なおさら有効である。
5月5日(火)高値120.50円はD波のトップに当たり、4月13日(月)高値120.84円はB波トップとみなされるため、米ドル/円の上放れがホンモノであると認定できる。
(出所:米国FXCM)
であれば、米ドル/円は近々高値を更新し、また、「倍返し」のターゲットを照準として、上昇していく公算が高まる。「倍返し」のターゲットやその根拠について、筆者は昨日(5月21日)のブログに書いてあるから、ここでは重複して言及しないが、円安トレンドの加速に注意しておきたいことを強調したい。
実際、円安トレンドの進行には、もうひとつ大きなシグナルが点灯された。それは他ならぬ、前回コラムでも暗示していた英ポンド/円の高値更新である。
【参考記事】
●ドル全体の調整はしばし続く可能性大だがドル/円は118円台死守ならやがて上放れ(2015年5月15日、陳満咲杜)
今回、このあたりの話を展開するつもりだったが、ユーロ/米ドルと米ドル/円の話が長かったので、また次回にて詳説したい。市況はいかに。
(14時10分執筆)
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