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田代尚機氏に聞く中国経済(1) 上海株の
暴落は中国経済減速が原因ではない!

2015年09月09日(水)12:34公開 (2015年09月09日(水)12:34更新)
ザイFX!編集部

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 中国・上海株式市場の暴落に端を発し、世界中で大幅株安となった8月下旬。

【参考記事】
中国発のリスク回避強まり世界同時株安! 南アランド/円は乱高下、一時10%超暴落!

 この世界同時株安を招いたものは何だったのか、今後はどうなるのかなどを、“震源地”とされる中国事情に詳しい、TS・チャイナ・リサーチの田代尚機さんに解説してもらった。

TS・チャイナリサーチ代表取締役の田代尚機氏

■上海株は景気減速懸念で暴落したわけではない

 上海株の暴落から誘発された世界同時株安。8月24日(月)のニューヨーク株式市場では、NYダウの値下がり幅が一時、過去最大の1089ドルにまで広がった

NYダウ 日足
8月24日(月)のNYダウは、一時、過去最大の1089ドルの下げ幅

(出所CQG)

 日経平均株価も一時、937円安となり、東証1部上場1891銘柄のうち、99%にあたる1880銘柄が値下がりするという事態に陥った。

日経平均 日足
8月24日(月)の日経平均は、一時、937円安に。

(出所:株マップ.com

 こういった株式市場の動きは為替市場にも多大な影響を与え、米ドル/円は一時、116円台をつけた

米ドル/円 日足
米ドル/円は一時、116円台をつけた。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足

 このように世界の金融市場が大混乱した原因として多くのメディアが掲げているのが「中国経済の減速懸念が一段と高まったこと」だ。

 しかし、中国株の第一人者として多彩な情報を発信する田代さんはマスコミの報道に異論を唱える。

 まず、今回の上海株暴落については次のように解説する。

 「8月24日(月)、25日(火)の上海総合指数はそれぞれ8.49%、7.63%も下落しました。特に、8月24日(火)は取引のあった2281銘柄のうち、2200銘柄近くがストップ安をつけるという大暴落となりました」

上海総合指数 日足
8月24日(月)、25日(火)の上海総合指数は、それぞれ、8.49%、7.63%も下落

(出所:CQG)

 「しかし、これは中国国内の景気の減速懸念によって引き起こされたのではありません。暴落を招いた原因の1つは、中国当局が信用取引規制を強化しており、投資家がレバレッジをかけられなかったこと。つまり、上海株市場はパワー不足の状態だったのです」

上海株暴落は、中国国内の景気減速懸念によって引き起こされたわけではないと話す。

8月24日(月)~25日(火)の上海株暴落は、中国国内の景気減速懸念によって引き起こされたわけではないと話す田代さん。中国の規制強化による上海株市場のパワー不足が原因だという

 「さらに金融施策も株価の下落に大きな影響を与えました。中国証券監督管理委員会は8月14日(金)に『中国証券金融股フェン有限公司(証金公司)は今後 数年の間、株式を売却することはない』と発表したと同時に、『平常時に証金公司は株を買うことはない』とも表明しました。

 この発言により、今までは株の下落局面では当局の買い支えがあったのに今後はなくなるのではないかという懸念が広がることになりました。

 実際に上海総合指数は、3500~3600ポイントあたりまで下がっても中国当局による買いが入らなかったため、投資家たちは失望し、売りが売りを呼ぶ状況になってしまったのです」

■景気減速に関して中国国内では切迫感はない

 田代さんは、中国の景気減速についてもマスコミなどの論調と実態は違うと語る。

 「確かに中国国家統計局が8月に発表したPMI(製造業購買担当者景気指数)は2013年7月以来の低水準でしたが、中国の景気が悪いのは今に始まったことではなく、世界経済を揺るがすほどのインパクトはないと考えています」

中国経済の景気が悪いのは今に始まったことではないという田代さん。

中国経済の景気が悪いのは今に始まったことではないという田代さん。8月のPMIの結果は2013年7月以来の低水準だったが、世界経済を揺るがすほどのインパクトはないと考えているそうだ

■中国経済が悪化してもアメリカや日本への影響は大きくない

 中国の景気が多少悪くなったところで、アメリカや日本が受ける影響はそれほど大きくないという田代さん。

 「なぜかというとアメリカや日本は輸出比率が低いからです。2013年のデータではアメリカの輸出比率は13.5%、日本は16.2%に過ぎません。

 中国の景気が悪くなり、中国への輸出が減ったとしても、そもそも輸出の依存度が低いので影響は限定的と思われます。ただし、ASEAN諸国など輸出比率が高い国は大きな影響を受けるはず。そこに投資を行っているアメリカの金融機関なども打撃を受けるでしょう。

 そういう意味では中国の景気減速は世界経済に影響を与えますが、景気減速懸念程度で今回のようなひどい狼狽売りが起こるとは考えにくいですね。

 もし、景気が理由で今回の世界同時株安が起こったのなら、投資家は中国経済の大崩落を予測したことになりますが、実際はそうではありません」

田代さんは、中国の景気減速程度で、今回のような狼狽売りが起こるとはかんがえていないそうだ

■中国経済の7%成長はそもそも無理。6%程度で十分

 田代さんは中国国内の状況は海外が危惧するほど悲惨でないとも言う。

 「たとえば、2015年1月~6月の都市部新規雇用者数は約718万人で、すでに年間目標の71.8%を達成しています。失業率は5.1%前後で安定しており、雇用状況はおおむね良好と言えるでしょう。

 また中国では、最低賃金が上昇していますが、これはより付加価値の高い産業へと構造改革を進めていることの現われでもあります」

 中国では旧態依然とした国有企業などを解体し、新たな産業を生み出そうと徹底的なスクラップ・アンド・ビルドを行っており、国を挙げて構造改革を推進しているのだという。

 「新たな産業はすぐには育たないので、しばらくは景気は良くはならないでしょうが、将来に向けての構造改革は着実に進んでいます。

 経済成長のエンジンをふかす一方で、構造改革というブレーキを踏んでいるような状態で、7%という高い成長目標を達成するのはそもそも無理があり、実際は6%程度の経済成長でも十分なのです」

中国は7%という高い成長目標を達成するのはそもそも無理があるという田代さん。

中国は7%という高い成長目標を達成するのはそもそも無理があり、実際は6%程度でも十分だという田代さん

 「ただ、社会主義国であるため高い目標を掲げる必要があり、7%という高い目標を計画として示すことで、スクラップ・アンド・ビルドを加速させようというもくろみが中国政府にはあります。

 中国国内では海外が騒ぐほど景気減速は深刻にとらえられていません。確かに景気は良くないけれど、それほど危機的な状況ではないからです。むしろ、景気減速という言葉に踊らされ、過剰に反応する方が危険だと思います」

「田代尚機氏に聞く中国経済(2) 世界同時株安の背景に中国の米国債大量売り懸念」へつづく)

(取材・文/佐乃美歩絵 撮影/和田佳久)

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