■為替市場はトレンドレス、今晩の米雇用統計の影響は?
為替マーケットはトレンドレスの状態に陥っている、今晩(10月2日)の米雇用統計をもって状況が打破されるかどうかはひとつの見どころだが、市場関係者が再度失望させられる可能性は高いとみる。
何しろ、FRB(米連邦準備制度理事会)内部でさえ、意見が割れている現状だ。米利上げ見通しは一段と不透明になっており、チャイナショックを始め、最近の世界金融市場の高いボラティリティがFRBの判断を遅らせた以上、米雇用統計のみで見通しが明白になるのは容易なことではなかろう。
実際、年内米利上げ観測自体も後退しており、イエレンFRB議長自身もまだ判断できていないと推測されるなか、今晩(10月2日)の米雇用統計に基づく判断および取引は、リスクが高いとみる。米ドル全体が大きく反落しない限り、米利上げは来年に後ズレする可能性が大きいのではないだろうか。
■これからも悪材料の続出を覚悟すべき
世界金融市場の不安定さと同じく、為政者たちの迷いも、世界共通の現象だ。日銀にしても、ECB(欧州中央銀行)にしても、量的緩和策の限界に差しかかっており、追加緩和策に踏み切るかどうかということは、言われているほど明確ではない。また、辣腕を振るってきた中国当局に至っては、今回の株価暴落をコントロールできなかったことで、自信を喪失したようにさえにみえる。
いつものように、市場における値動きが先行し、ファンダメンタルズが後追いする形でついてくる。こういった「相場の真実」を悟れば、欧米日の株式市場が大きく反落してきたあと、VW(フォルクスワーゲン)事件、グレンコア危機、第一中央汽船の破綻など、悪いニュースが伝わってきたたことにはまったくサプライズを感じない上、自然な成り行きだと受け止めることさえできただろう。
【参考記事】
●陳 満咲杜さんに聞く(2)~相場はファンダメンタルズによって動くのではない!~
主要国の株式市場がそろってベア(下落)トレンドに入ってきた以上、これからも悪材料の続出を覚悟すべきだ。

(出所:米国FXCM)

(出所:米国FXCM)

(出所:米国FXCM)
ただし、一部論調のように、ブラックスワンの出現で相場が直ちに2008年のような大暴落を演じる確率は低いとみる。VWかグレンコアがブラックスワン的な存在と警戒される向きが多いが、大袈裟な見方だと思う。何しろ、両社のインパクトがブラックスワンにしては小さいからだ。
VW事件はせいぜい、2010年のトヨタ自動車・大規模リコール事件に相当する騒ぎになる程度だろう。直接死者が出ていない分、トヨタ事件より影響が小さいと思う。グレンコア危機はより深刻だが、リーマン・ブラザーズと違い、実物資産をたくさん持っている分、簡単に破綻するわけでもない。実際、同社の株価は大きく反騰しており、危機の一服を示唆している。

(出所:CQG)
2007年にサブプライム問題が発生したことが、翌2008年のリーマン・ショックにつながった経緯に照らして考えると、本当のブラックスワンはやはり、今回世界に混乱を引き起こしたチャイナに発生するのではないかと思う。
こうなると、それが起こるのは2015年年内よりも来年(2016年)の可能性が高く、また、マーケットが警戒しているうちは発生しにくいから、市場が安心したあと、発生する確率が高いだろう。なぜなら、警戒されているうちは、ブラックスワンはなかなか出てこないからだ。
■世界の主要株式市場もいったん落ち着くだろう
この意味では、中国株暴落の一服と同じく、世界の主要株式市場もいったん落ち着くだろう。
日経平均に至っては、今週(9月28日~)、いったん1万7000円の大台を割ったこと自体が明らかに売られすぎだったので、反発してくるのも当然の成り行きだ。

(出所:米国FXCM)
ベアトレンドとはいえ、一直線に進むとは限らないから、性急な安値追いも避けたいところだ。
リスクオフの一服が、本来ならば円売り・ユーロ売りをもたらしてもおかしくないが、株式市場のパフォーマンスに比例した連動をしなかった分、為替市場の値動きは限定的である。したがって、当面、トレンドレスの状況が続き、値動きがあっても変動レンジの拡大にしかならないかもしれない。
■米ドル/円のレンジを推定すると…
こういった市況の中、レンジ取引が一番有力視されるが、レンジを定めないと仕掛けにくい。米ドル/円の場合、目下のレンジやこれからあり得るレンジの拡大は、やはり、8月24日(月)の値動きを見なければならないだろう。
8月24日(月)の値幅があまりにも大きかったから、本日(10月2日)までの日々の値動きは、すべて8月24日(月)のローソク足の値幅の内側に納まった形(いわゆる、はらみ)となり、また変動幅も縮小していく傾向を示している。

(出所:米国FXCM)
よって、当面、トライアングル型変動パターンにあてはまり、同パターンの打破をもって変動レンジの拡大を図るとみる。
ただし、下放れの場合は一気に8月安値115.90円割れにつながっていくのも容易ではなく、上放れの場合も、8月24日(月)高値121.93円のブレイクがあっても、8月高値125.28円を起点とした下落波動を否定するよう値動きにはなりにくいとみる。
リスクオフの一服で目先、下放れよりも上放れの可能性が大きくなっているものの、それが下落波に対するスピード修正といった位置づけは不変だ。
日銀追加緩和観測がくすぶる中、米ドル/円の上放れを予想する声が多い。たびたび強調してきたように、日銀追加緩和があっても、質にしても量にしても限られるから、果たしてそれがQQE(量的・質的緩和)と言えるかどうか、疑問である。仮にそうであれば、インパクトは限定的で、米ドル/円の頭の重さを修正できない公算が大きい。
■目先は追加緩和観測自体が米ドル/円の下支えに
もっとも、安倍首相が打ち出した「新三本の矢」政策には、金融緩和政策や2%インフレターゲットが入っていなかった。これは事実上、経済政策の失敗を認めたのかどうかは別問題だとしても、政策運営の転換を図っていることは確かだ。
換言すれば、日銀も政府も従来の目標を達成するには相当時間がかかることを認めており、QQE3(量的・質的緩和策第3弾)を打ち出す可能性は必ずしも高くないと言える。
追加量的緩和どころか、国債市場の状況に照らして考えると、そろそろ日銀の出口政策も語らないといけない時期が来てもおかしくないだろう。
このあたりの話はまた次回に譲るが、目先は追加緩和に対する期待がなお強いことを記しておきたい。思惑が完全に否定されるまで、追加緩和観測自体が米ドル/円の下支えになっていることを否定できないから、しばらくは小康状況の継続を有力視。市況はいかに。
(14:30執筆)
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