日米のみならず、世界中が注目した日米首脳会談。今回は2016年の米大統領選挙前後に、複数回に渡ってご執筆いただいた米国在住の広瀬隆雄さんに、新たな記事をご寄稿いただきました。
日米首脳会談の評価、貿易問題に関する妙案、今後の相場見通しなどについて解説していただいています(ザイFX!編集部)。

■異例の日米首脳会談、米国側も大きな期待
2017年2月10日(金)から12日(日)までの3日間に渡って、安倍晋三総理は米国のドナルド・J・トランプ大統領と、数回に渡る首脳会談を行いました。
会談はまず、ワシントンDCのホワイトハウスで行われ、その後、フロリダ州パームビーチにあるトランプ大統領の別荘「マー・ア・ラーゴ(Mar-a-Lago)」に場所を移し、ゴルフを交えた、肩ひじの張らない雰囲気の中で、トップ同士の強固で個人的な信頼関係の形成が行われました。

会談後に記者会見する安倍首相とトランプ米大統領。その後はゴルフを交え、2人は親交を深めた (C)Chip Somodevilla/Getty Images
米国の大統領が正味2日間を、1つの国の代表に割くことは極めて異例で、日本側だけでなく米国側も、今回の首脳会談に大きな期待を寄せていたことを物語っています。
■個人的な信頼関係優先は正しい戦略
今回、安倍総理はワシントンDCからパームビーチまで、トランプ大統領と同じ飛行機で移動したうえ、いっしょにゴルフをプレーしました。
政策論争を後回しにして、まず、トップ同士の個人的な信頼関係を築くことに集中したのは正しい戦略です。
なぜならば、日本側が目下、一番気にかけているのは貿易問題であり、その貿易に関する米国側の出方は、今後の米中関係や、これから審議が始まる税制改革法案に盛り込まれた国境税調整がどうなるか?など、現時点では予測不可能な要因によって左右される部分が多いからです。

大きな枠組み自体が極めて流動的なので、今の段階で細かい議論に入っても意味がないわけです。
■日米貿易戦争がきっかけだったセクション201
米国と日本は1970年代から80年代にかけて、「日米貿易戦争」と呼ばれる緊張した経済関係を経験しました。
その意味では、トランプ大統領就任後に巻き起こっている貿易を巡る論争は、日本政府にとっては経験豊かな分野であり、「どのボタンを押せばよいか?」を知り尽くしているわけです。
実は、その日米貿易戦争を戦うにあたって、当時の米国の議会は、貿易に関する権限の大半を大統領に一任してしまう一連の立法を行いました。その中でも有名なのが、1974年通商法のセクション201です。
そこでは、輸入品が米国の国内市場を席巻することで、国内産業に深刻な打撃を与える危険がある場合、当該産業を一時的に保護するための暫定措置として、大統領令を発することができると決められました。

1974年にセクション201が制定され、国内産業を一時的に保護するための暫定措置として、大統領令を発することができるようになった。写真は就任後に、数々の大統領令に署名するトランプ大統領 (C)Pool/Getty Images
具体的には、まず、下院歳入委員会ないしは上院財政委員会が、米国国際貿易委員会に対して調査を指示します。
これを受けて、米国国際貿易委員会は120日以内に調査を完了し、大統領に提言を行うのです。
大統領はその提言を採択し、必要な措置を4年間講じます。なお、これは8年まで延長できます。
■日本は貿易戦争に関してはベテランだ
ここが肝心な部分なのですが、「ただし、二国間協議で合意された内容に関しては、セクション201に基づく暫定措置は使用できない」という一文が挿入されています。
つまり、日本政府がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を諦め、二国間協議に全力を挙げることに戦略変更したのは、まさしくこの条項を鋭く突くためにやっていることなのです。
もちろん、貿易に関する米国の関連法はこれだけにとどまりません。しかし、それらの関連法案の大半が、実際の発動に際しては大統領に権限を一任しているのです。
1970年代当時、日本に対して怒っていたのは主に米国の議会でした。それに比べて今回、米議会はそれほど貿易問題に関して熱くなっていない印象を受けます。むしろ、熱くなっているのは大統領一人です。
その意味では、まずトランプ大統領と太いパイプを作ろうとする今回の日米首脳会談は、「やっていることが100%正しい」と評価できると思います。
日本は輸出を通じて…
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)