日本時間3月1日(水)、米国のトランプ大統領は上下両院合同本会議で、施政方針を示す演説を行いました。2月に「今後、数週間以内に驚くべき税制改革案を発表する」と発言したため、議会演説で大規模な減税などに言及するとの期待も高まっていましたが、どんな内容になったのでしょうか?
米国在住の広瀬隆雄さんに、演説内容の解説とこれを受けた、今後の相場見通しについて、ご寄稿いただきました(ザイFX!編集部)。
■これまでとは違う、ソフトなトランプ
現地時間2月28日(火)の夜、ドナルド・トランプ大統領が議会演説を行いました。
トランプ大統領の演説では、これまでの好戦的で、わざと対立を煽る姿勢が影をひそめました。
それに代わって、「国民の心をひとつにし、米国の国家としての自信ならびに威信を取り戻し、より高い目標へ向かって進んでゆこう」というメッセージが打ち出されました。全体的に高揚感に溢れていたと思います。
これまでとは違う「ソフトなトランプ」が印象づけられました。
■トランプ大統領の演説のポイントは?
トランプ大統領は、演説のかなりの部分を経済問題に割きました。そこでは、大型インフラストラクチャ投資を行いたい意向が確認されたほか、防衛予算は連邦予算上限の制限の対象外とすることが提唱されました。
国境の保全の問題に関しては、かねてからの主張どおり、メキシコとの国境に壁を作ることが主張されました。
退役軍人へのケアを強化することが提唱された一方で、規制緩和を押し進め、省庁の予算は切り詰めてゆくことが発表されました。
そのほか、マイノリティーの教育、職業訓練プログラムの充実も提唱されました。
国際関係に関しては、NATO(北大西洋条約機構)を支持し、現在ある国際機関をリスペクトすることが確認されたものの、米国だけが負担を引き受けるのではなく、各国が応分の負担をするべきだと主張しました。
アフォーダブル・ケア・アクト(=いわゆるオバマケア)に関しては、それをより良いプランに置き換えることが提唱されましたが、現在、アフォーダブル・ケア・アクトで医療保険に加入している人が途切れなく新しいプランに移行できるよう、配慮することが約束されました。
議会演説では、これまでと違ってソフトな印象を与えたトランプ大統領。演説では経済問題にかなりの時間を割いたが、国際関係やオバマケアの見直しにも触れた (C)Chip Somodevilla/Getty images
■「驚くべき税制改革」はどうなった?
以上がスピーチのあらましですが、投資家目線で気になる税制改革に関しては、トランプ大統領から特に新しい考えは示されませんでした。
言い直せば、議会が税制改革法案を審議するにあたり、具体的な行動の指針になるようなことは大統領からは出なかったということです。
強いて言えば、諸外国の高関税のせいでハーレー・ダビッドソンのオートバイが輸出市場であまり売れていないことを例に出し、貿易面で米国が不公平な戦いを強いられていることが強調されました。
これは、下院税制改革案「Better Way」で提唱されている国境税調整(Border Tax Adjustments)に対し、トランプ政権が若干歩み寄る姿勢になっていることを間接的にシグナルする効果があったと思います。
【参考記事】
●トランプ氏の記者会見は期待はずれだが、国境税に注目! 中期ドル買いの好機到来(1月12日、西原宏一)
■新ヘルス・プランが実施されるまでは長い道のりという印象
アフォーダブル・ケア・アクトに代わるヘルス・プランに関しては、「州ごとにルールを決めるやり方ではなく、全米共通のルールにすることで一層競争を促すべきだ」と主張しました。
これは正論に違いありませんが、保険事業のルールを決め、監督する仕事は、歴史的に州政府が行ってきたので、その慣習を改変するのは、並大抵の努力ではできないと思います。
したがって、トランプ政権がこの部分にあまりこだわるようだと、新しいヘルス・プランの策定が大幅に遅れるリスクもはらんでいると言えます。
また、「州政府ではなく、全米共通のルールにすべき」という主張を除いては、新しいヘルス・プランを具体的にどうする?ということに関し、トランプ大統領から踏み込んだ提案はありませんでした。
議会の方でも新しいヘルス・プランに関するアイデアは煮詰まっていないため、草案をまとめ、それを可決、立法化するのは長い道のりだという印象を与えました。
■法案成立に時間がかかるほど相場は長持ち!?
以上のことをまとめると、なるほど、トランプ大統領の今回の演説は、聴く者を気持ちよくさせる耳触りの良いスピーチでしたが、法案の審議をスピードアップさせる要素には乏しかったです。
トランプ大統領のスピーチを聞いた投資家は、米国の現状に自信を持ち、これまでよりは明るい展望を持つと思われることから、おのずと米ドルは強含むと予想されます。
(出所:Bloomberg)
また、トランプ大統領の演説は全体に景気支援的だったので、米国の長期金利には上昇のバイアスがかかると思います。
(出所:Bloomberg)
ところで、懸案となっているアフォーダブル・ケア・アクトや税制改革法案がテキパキと成立するというシナリオが相場にとって最善のシナリオか?と言えば、それはそうとは限りません。
今の相場は「熱すぎもせず、冷たすぎもせず」のほどよい湯加減、言い直せば「ゴルディロックス」の状態なのであり、税制改革法案の成立がずっと先まで「お預け」になれば、それだけ長い間、この買い材料を相場的に楽しむことができるという考え方もできると思うのです。
もっと別の表現に直せば、今回の演説は「相場が長持ちする」ことを支援するような内容だったということです。
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