■地政学リスクの急浮上で「リスクオフの円買い」に?
地政学リスクの急浮上で米ドル/円とクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の多くは下落、「リスクオフの円買い」といった様相を呈している。
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しかし、今回の「リスクオフ」自体がホンモノかどうかを検証する余地があるかと思う。
事の発端はトランプ米大統領の発言にあった。北朝鮮を牽制し、また警告を与えるつもりだったが、感情的なトランプ氏は「世界が見たことがないような炎と怒りに直面する」と言い、その後、この言葉が「物足りない」と強調していた。北朝鮮は直ちに応酬し、米軍基地のあるグアム島周辺の海上に弾道ミサイルを発射する計画を策定中と宣言した。
トランプ氏は「世界が見たことがないような炎と怒りに直面する」と発言し、北朝鮮を牽制した
(C) Chip Somodevilla/Getty images
これによって市場関係者が動揺し、米国株の下落とともに円が買われた、といった反応パターンはもはや定番だった。
なにしろ、トランプ氏の発言はトルーマンの原爆投下演説に似ていると思われる節があるから、核戦争まで連想する者がいてもおかしくなかろう。
認められてはいないものの、北朝鮮がれっきとした核兵器保有国になった以上、核戦争の可能性を否定できないからだ。
■今回の騒動は単なる「殿のご乱心」のようなもの
しかし、冷静に考えてみれば、奇妙なところも多かった。
まず、トランプ氏の言葉、すなわち「世界が見たことがないような炎と怒りに直面する」といった表現が、北朝鮮の名物アナの口から出るならまったく違和感がないが、米大統領の口から出るのは異例だ。出た以上、普通は何らかの具体的なプランに基づいて、相手に具体的な要求をして、それが通らなければ、最後通告をするといった手順が想起される。
が、米政権当局者は大統領の言葉について、「計画された発言ではなく、自発的なものだった」と釈明、トランプ氏から何らかの具体的な要求やプランも続かなかった。
さらに今月(8月)初頭、米国務長官は「米国が北調整の体制を変えたり、北朝鮮の統一を加速させたりなどはしない」と宣言し、北朝鮮が核開発を放棄すれば、米国として対話の用意がある、という姿勢を示したばかりだ。トランプ氏の発言が北朝鮮に対話を迫るためであったなら、明らかに逆効果で、計画されたものではなかった。
したがって、今回の騒動は単にいわゆる「殿のご乱心」に近い、トランプ氏の気まぐれにすぎなかったのではないだろうか。
トランプ氏の人柄や素質からみれば、「北朝鮮管制アナ」調の話が出ても、北の核開発のレベル向上といった事の重大さを考えてのことというよりも、単にトランプ氏個人の「怒り心頭」を表しただけであり、米政府の計画が必ずしも裏付けられたとは限らないだろう。
そして、北もメンツのため、グアム沖へミサイル発射などと軽々しく宣言し、口先の攻撃を強めたわけだ。
■今回の騒動に対する市場の反応はやや「行きすぎ」
しかし、北朝鮮の独裁政権は政権維持、すなわち、金政権の安全を第一に考えるから、政権転覆につながる米軍への先制攻撃を仕掛けるはずはない。
米軍から攻撃されない限り、北朝鮮が手を出すことはほぼないが、いったん攻撃されると必死に反発するのも容易に想定される。
なにしろ、独裁者や独裁政権は、己の崩壊とともに世界を道連れにしてやる、といった狂った思想を持つのが普通で、北の核武装自体がそもそも最終手段を確保しておくという意味合いが大きいといえる。
ゆえに、万全な計画なしでは米国は安易に手を出さず、ましてや北朝鮮の裏に中露両大国の利益や思惑が潜んでいるから、米国はたやすく北に軍事行動を取れる立場ではない。
だから、トランプ氏の発言は少なくとも目先、単に「狂言」にすぎなかったと思う。言ってみれば、事の重大さは巷で言われるほど深刻ではなく、今回の市場の反応もやや行きすぎていると思う。
では、表面上のファンダメンタルズではなく…
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