■米ドル売りを仕掛けるファンダメンタルズ上の根拠は4点
まとめてみれば、米ドル売りを仕掛ける投機筋の動機はいろいろあるが、ファンダメンタルズ上の根拠は主に以下の4点になるだろう。そして、すでに米ドルを売った理由のみでなく、これからも米ドル安が続くという見方の多くが、この4つの理由を根拠にしているところが大きいと強調しておきたい。
まず、利上げは米ドル高市況をもたらすとは限らないから、「有事の米ドル売り」を優先してしまうという考え方だ。
このような見方に対する反論は簡単だ。ドルインデックスの歴史に照らして考えると、確かに米利上げサイクルにおいて、米ドル全体(ドルインデックス)がそれに連動しない時期もあったが、それはあくまで例外で、大半は米ドルの上昇が米利上げサイクルに伴って起きていた事実は無視できない。
1977年からみると、利上げ周期における米ドル下落といった例外は、確かに1977年~1980年、1994年~1995年、2006年~2007年において発生した。が、時系列でみると、1977年からの石油危機、1994年の米債券市場崩壊や2006年のサブプライム危機前夜といった「特殊」な時期であったことがわかる。
(出所:Bloomberg)
直近の2006年~2007年のサイクルでみると、2006年年初来、ドルインデックスは90前後から下落、2008年の72前後まで下落し続けていたが、FRB(米連邦準備制度理事会)は2004年から利上げを続け、米政策金利は2006年年初には4.5%、2007年年中には5.25%を達成し、米不動産バブル崩壊の引き金となった。
この時、米ドルの下落が、米不動産価格下落のサイクルと同期していたことは重要なヒントだ。
要するに、サブプライム問題を引き起こす米不動産市場の崩壊が米ドル安をもたらし、米ドル安はこれから起こる危機をあらかじめ織り込んでいたわけだ。
実際、サブプライム問題がリーマンショックを引き起こしたあと、米ドルが大幅反騰してきたのも周知のとおりである。米利上げサイクルが「無視」されていた原因は、利上げサイクルより大きなインパクトを持つ事情があったからだったと説明できる。
言ってみれば、こうした特殊な時期や、外部要素(経済に限定される)の急変を除き、米利上げサイクルにおける米ドル高は一般的であった。米国株が連日高値更新を続けている目下の状況を、そのような特殊な時期の出来事にたとえて米ドル安の可能性を説明するには、限界がある。
■クロス/円の上昇具合が、米ドル上昇の受け皿が円だと暗示
ちなみに、米ドル安については、米利上げで米経済成長のサイクルが終焉を迎えるため、また歴史的な高値圏で推移する米国株の「バブル崩壊」が予想されるから、といった理由も聞こえてくるが、総じて間違った見方であると思う。
このあたりの詳細は、残った3つの理由の説明とともに、また次回にて説明したいが、まず、米ドル/円やクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の現状に照らして考え、円高の終焉、また、円安トレンドが再開された可能性を指摘しておきたい。
この変動の感触は、米ドル安はすでに終焉したという前述の見方と合致するし、また、クロス円における外貨高・円安傾向から、今後のメイン通貨ペアの動向を推測できると思う。
結論から申し上げると、米ドル/円は先週末(9月8日)、いったん4月安値を更新したものの、今週(9月11日~)に入ってから一転してⅤ字転換を果たし、今朝(9月15日)、北朝鮮の挑発行為が再度あっても、押し目が限定的であったことから考えて、先週末(9月8日)の安値更新自体が「フォールス」、すなわち「ダマシ」であったことが示唆されたと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)
当然のように、この「フォールス」は6月安値や8月安値(特に8月29日安値)をいったん更新し、また、その後の反騰で同じダマシのサインを果たしたから、非常に強烈なサインであったことは間違いない。
だからこそ、米ドル/円は2017年年初来の下落のクライマックスを迎えた公算が高く、これから反騰していく可能性が高いとみる。2017年年内のターゲットは相変わらず115~116円に据え置ける。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
次に、ユーロ/円、英ポンド/円、また豪ドル/円は総じて強気変動を保ち、利上げ観測が浮上してきた英ポンド/円は今週(9月11日~)急騰し、「遅れ」を取り戻したように見える、といった市況も大事だ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 4時間足)
これは米ドル全体の底打ちがあっても、米ドルに対するユーロ、英ポンド、豪ドルなど主要通貨の切り返しはしばらく緩やかな状況に留まることを暗示し、米ドル高の受け皿として円安の進行が有力視される理由だ。
だから、クロス円は引き続き高値更新を続ける公算が大きく、前述3つのメインクロス円通貨ペアは、それぞれユーロ/円135円、英ポンド/円151円、豪ドル/円90円の上値ターゲットを狙えるだろう。市況は如何に。
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