■米ドル全面安の理由は「有事の米ドル売り」だけではない
ドルインデックスは、また安値を更新した。執筆中の現時点では、91の節目手前に迫っており、割り込みそうな勢いを示している。

(出所:Bloomberg)
相応するように、ユーロ/米ドルはまた高値更新し、米ドル/円は4月安値を一時下回った。
(※編集部注:本記事の寄稿後、編集作業中に米ドル/円は107円台半ばまで下落し、108.10円台の4月安値を完全に下回ったままの状態となっている)

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8月29日(火)のミサイル発射に続き、9月3日(日)には北朝鮮の核実験が行われ、地政学リスクが増大する一方である。
「有事の米ドル買い」ではなく、「有事の米ドル売り」が最近市場の反応パターンなので、米ドル全体の一段安は「理にかなう」側面もあったが、昨日(9月7日)から再び強まった米ドル売り圧力は米新規失業保険申請件数によるところが大きかった。
■ハリケーンの影響大きく、フィッシャー副議長辞任も追い打ち
9月2日(土)までの統計では、米新規失業保険申請件数(週間)は先週に比べ、6.2万人増の29.8万人となり、2012年11月以来最高の増加率を記録した。米大型ハリケーンの影響が大きく、失業者を押し上げたと見られる。
ハリケーンの影響があまりに大きいので、ウォール街は米第3四半期GDPや9月米雇用統計の下方修正に動いている。一部の見方では、ハリケーンの影響がまだ続いているから、9月米新規雇用者数がマイナスになる可能性さえあるという主張もあり、米ドル安を推し進めていると思われる。
さらに、昨日(9月7日)、フィッシャーFRB(米連邦準備制度理事会)副議長が辞任を発表したことも、要因の1つであろう。
フィッシャー氏は、辞任は個人的な理由としているが、真相はトランプ政権の金融規制緩和への反発であるという見方もある。来年(2018年)早々任期満了を迎えるイエレンFRB議長の後任人事を含め、金融政策の一貫性にも懸念が持たれるようなことになったため、米ドル売りの反応が強まったといえる。
■ハリケーンがもたらした影響には、マイナスではないものも
一方、ハリケーンがもたらした影響は、すべてがマイナスというわけではなさそうだ。トランプ氏が、民主党案を受け入れる形で債務上限の引き上げを「電撃合意」したことは、明らかに、ハリケーンがもたらした損害を前にして、米共和党、民主党の妥協が促進された結果だ。
ただし、共和党内部では、安易な妥協に不満を持つ議員もいると言われ、財政改革案の審議について、トランプ氏が「身内」の反発も覚悟しなければならないと予想される。それゆえ、「電撃合意」が米ドルを支える効果は小さかった。
■テクニカル的には、下値余地の拡大が危惧される
テクニカルの視点では、ドルインデックスが8月29日(火・北朝鮮ミサイル発射)安値を割り込んだことは大きいだろう。8月29日(火)の日足は、「たくり足」風なローソク足をもって下げ一服を示唆していたが、同安値を割り込んだことで、大幅に下値余地が拡大するのでは…と危惧される。

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何しろ、同様の形状だった6月14日(水)のローソク足の下放れが確認された後、大幅に下落してきた経緯に照らして考えると、このような連想があってもおかしくない。
6月14日(水)安値から500pips以上の下落幅もあったから、この値幅で計算すると、ドルインデックスは86の水準をトライしてもおかしくなかろう。
■米ドル全面安のさらなる進行に懐疑的な理由2点
しかし、筆者はこのような展開、すなわち米ドル全面安がさらに進んでいくといったシナリオに懐疑的だ。
少なくとも仮に米ドル安が続くにしても、6月中旬から下落してきたような一直線な下落はなかなか現実的ではない。シンプルなロジックとして以下の2点を指摘しておきたい。
まず、地政学リスクを含め、米ドルにとって今はまさに「四面楚歌」の状況だ。ゆえに、足元の米ドル安は、あらゆるマイナス要素を織り込み、今のレートに反映させていると言える。
次に、6月14日(水)安値を割り込んでから、すでに大幅なドル安が進行してきたこと、また素直にテクニカルのサインの指示どおりに動いてきただけに、今回は「ダマシ」になる確率が高いと思う。
2番目のロジックは、ドルインデックスの週足を見れば一目瞭然だ。

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確かに今は完全に8月29日(火)安値を下回っているが、状況は6月14日(水)安値を下回った6月後半とだいぶ違っている。
RSI(14)が24.06の数字を示し、2011年安値に対応したRSIの安値を大きく下回り、強烈な「リバーサル」のサインを点灯している。要するに、米ドル全体がかなり売られすぎの状況にあり、ここからの安値追いは賢明でないことが示唆される。
だから、7月末から一貫して米ドル安が進んできたにもかかわらず、日足ではむしろ強気「ダイバージェンス」のサインが煮詰まりつつあり、これが値動きに反応を起こさせる公算が大きいだろう。

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もっとも有力なサインとして想定されるのが、8月29日(火)安値割れが一時的で、ここからリバウンドして「底割れ」自体が「ダマシ」であることを証左することであろう。
■「行きすぎ」を警戒、目先は逆張りも禁物!
ところで、米ドル/円はすでに4月安値を割り込んでいる。この動きが落ち着くまで106円台の下値トライも視野に入っており、また、ユーロ/米ドルの1.22ドルの節目トライも覚悟されるから、目先、逆張りも禁物であろう。
米ドル安一辺倒の市況はとうとうクライマックスの段階に入っているが、最後の「行きすぎ」がさらなるオーバーをもたらす可能性を警戒したい。市況は如何に。
(執筆時刻 14:00)
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