■米中貿易戦争などを理由に、リスクオフムード高まる
米国株の急落や円高でリスクオフのムードが高まっている。投資家心理を悪化させた背景には米中貿易戦争のほか、米保護主義や今後の米利上げペース加速に対する懸念が広がりつつあることは、見逃せない。
昨日(2018年3月22日)、トランプ米大統領は中国製品に高関税を課す制裁案に署名し、600億ドル相当の大規模関税引き上げ措置を正式に発動した。
トランプ米大統領は、中国製品に高関税を課す制裁案に署名した (C) Chip Somodevilla
中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して以来、ずっと享受してきた最恵国待遇が事実上なくなるわけなので、中国からの猛反発、また厳しい対抗策(一部はすでに発表)の発動も十分想定される。さらに同じく対米貿易黒字を確保している日本も、米国から厳しい視線が向けられるといった思惑が広がり、米通商政策における保護主義がこれから世界景気を押し下げる恐れも十分考えられるだろう。
■中国に対する強硬姿勢自体は、中国の自業自得だが…
トランプ政権の対中強硬姿勢自体は非難されるべきではないと思う。
中国がWTOに加盟した当時に約束された国内開放策の大半はいまだに実現されていない。そして、中国は国有企業をはじめ、国内企業を手厚く保護する一方、欧米日の知的財産権に対して、大規模かつ継続的な侵害を繰り返しながら、対米を中心に自国製品のダンピングを計画的に実施してきた。
経済成長率では中国は優等生だが、WTOの規則を守れたかどうかの視点ではかなりの「悪ガキ」なので、ついに米国の堪忍袋の緒が切れ、「商人体質」のトランプ政権から罰されるのも自業自得としか言いようがない。
その上、対朝談判から対台湾関係(台湾旅行法の立案)まで、トランプ政権の対中強硬策は、経済、貿易面に留まらず、「冷戦」を彷彿とさせるような対中全面対決の様相を呈している。
もう1人の「悪ガキ」のロシアは、今では中国広東省の経済規模(GDP比)より小さい「二流国家」に衰退しているから、少なくとも経済面で米国の脅威になれない。しかし、早ければ2040年前後に米経済規模を抜くとされる中国の脅威は、米国にとって確実かつ、かなり緊迫した問題なので、対中全面対決や衝突はこれから「常態化」しつつ、また軋轢が大きくなることも容易に想定される。
けれど、すでに経済規模世界2位の座を仕留めた中国との全面対決は、主要国全部を巻き込むリスクが大きい上、今回トランプ政権が発動させた制裁案に対日の免除がないように、いわゆる“同盟国”の利益が損なわれるリスクも多い。
実際、ドイツや英国、日本などの主要国は対中関係に温度差があり、足並みの乱れも今に始まったことではないから、米自国第一主義が鮮明になりつつある現在は、一段と関係がねじれ、世界経済成長にとって大きなマイナス要素になってこよう。
■「意外」に底堅い米ドル/円が、逆サプライズ
さらに、米国務長官解任など人事のゴタゴタが続くトランプ政権は、安全保障の面でも不信感を持たれている。
トランプ政権の政策や人事が頻繁に変わるなか、どれぐらい一貫性や継続性がみられるかに市場関係者は当然不安を抱え、リスクオフの動きを一斉にとってしまう。
日本の場合、周知のとおり、「森友問題」による安倍内閣退陣の懸念もあるから、火に油を注ぐような状況だといえる。
ゆえに、昨日(2018年3月22日)、NYダウが700ドル超下げたことにしても、日経平均の執筆中の現時点での-4%超えの下げ幅にしても、また、アジア全域の株式市場の総崩れにしても、当然というか、仕方がないというか、リスクオフの結果として受け入れるしかない。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
米ドル/円の安値更新、また104円台半ばへの接近も当然の成り行きでサプライズはないが、どうしてもサプライズと言うのなら、筆者の感覚からすれば下げ幅が「意外」に小さい、ということではないかと思う。
株式市場の総崩れ、また前述の米中全面対決のリスクから考えれば、今は104円台ではなく、102円台に到達していてもおかしくないから、「意外」に米ドル/円は「底固い」とさえ感じる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
もう1つ「意外」だとすれば、ドルインデックス…
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