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米中間選挙で金融市場はどう動くのか?
さらなる株安で米利上げが止まる可能性も!?

2018年10月30日(火)16:44公開 (2018年10月30日(火)16:44更新)
ザイFX!編集部

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 2018年11月6日(火)、米国で中間選挙が実施されます。

 中国との貿易戦争や移民問題など、さまざまな難題を抱えるトランプ政権ですが、トランプ大統領からは相変わらず強気の言動が目立っています。果たして、中間選挙の結果はどうなるのでしょうか?

 今回は、米国の中間選挙の見通しと、そこから予想される金融市場の動きなどについて、米国在住の広瀬隆雄さんにご寄稿いただきました。

 広瀬さんはJPモルガンなどを経て、米国にて投資顧問会社を設立。現在は人気投資ブログメディア「Market Hack」の編集長も務めています(ザイFX!編集部)。

広瀬隆雄プロフィール


■11月6日、米国中間選挙が迫る

 11月6日(火)、米国は中間選挙を迎えます。今回の中間選挙では下院の435議席すべて、上院の100議席の約3分の1にあたる35議席、36州の州知事選挙、さらに市長選挙などの地方選挙が行われます。

 米国の下院議員の任期は2年で、大統領選挙(4年ごと)と中間選挙(大統領選挙の2年後)の際に改選されます。米国の上院議員の任期は6年で、大統領選挙と中間選挙のたびに、全上院議員の議席の3分の1が改選されます。

■トランプ大統領が共和党支援に3つの策

 トランプ大統領は共和党を支援するために

(1)庶民の減税

(2)処方薬の薬価引き下げ

(3)メキシコとの国境における不法入国者の取り締まりの強化

 を打ち出しました。

 ただ、「(1)庶民の減税」に関しては、トランプ大統領がそれを急に思いついて裏付けなく公約している観が強く、具体性はありません

 次の「(2)処方薬の薬価引き下げ」に関しては、高齢者向けの公的医療保険制度であるメディケアが患者の薬代を肩代わりする際、割引価格を要求するという内容です。しかし、これは製薬業界から猛烈な反発が予想されます

 最後の「(3)メキシコとの国境における不法入国者の取り締まりの強化」に関しては、折からホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルなどの中米諸国から数千人規模の移民が米国に向けて行進中です。

 それらのグループは現在、メキシコ国内をゆっくり北上中で、あと25日前後で米国との国境に到達するといわれています。つまり、中間選挙のあとです。

 これらの国々の人々が自国を棄て、米国を目指す理由は、母国の経済が破綻状態になっているからです。加えてギャング団によるゆすり、子供の誘拐など、生命の危険を感じながら生活しています。

 中米から米国への不法移民は昔から存在する問題でした。しかし、以前は「コヨーテ」と呼ばれる「運び屋」が手引きする場合が多かったのです。この場合、一人当たり80万円もの金を払う必要があります。特に途中のメキシコはギャングによるバイオレンスが多いので、護身のためにも「運び屋」を雇う必要があるのです。

 今回は80万円を工面できない人々もとにかく、米国に向けて行進しはじめています。彼らは数千人もの巨大なグループとして行動することでギャング団からの攻撃をかわそうと考えているのです。SNSで呼びかけ、まず隊列を作ってから行進を始めます。このようなグループに移民キャラバンという名前が付けられました。

 国際法では国境で難民申請すれば、難民の可能性がある者は少なくともその国で保護される権利があります。実際、メキシコと米国の国境ではこれらの中米の人々は進んで身柄を拘束してくれと申し出ます。

 トランプ大統領は軍隊を動員して移民を押し返すと威嚇していますが、それは国際法上できないし、過去に米国がメキシコとの国境に沿岸警備隊を配備した際も発砲するなどして群衆を押し返すことはしていません。

中米から押し寄せる移民について、トランプ大統領は軍隊を動員して押し返すと威嚇しているが… (C) Chip Somodevilla/Getty Images

中米から押し寄せる移民について、トランプ大統領は軍隊を動員して押し返すと威嚇しているが… (C) Chip Somodevilla/Getty Images

 トランプ大統領は中米3国に対して行っている援助をカットするとも発表しています。

 実際、年間1.8億ドルもの援助金を米国はこれらの国に支払ってきました。しかし、米国からの援助金は移民が母国を離れないよう踏みとどまらせる最後の資金源だった関係で、援助金をストップすると移民が激増するリスクがあります。

 中間選挙との絡みでいえば、このキャラバンの問題は共和党にとって有利な展開だと思います。

■米中間選挙はどうなるのか?

 選挙予想サイト、リアルクリアポリティクス(RealClearPolitics)によると下院は民主党が205議席、共和党が200議席を獲得すると見られています。接戦でどちらになるかわからない議席は30です。

米中間選挙での下院議席獲得予想(2018年10月30日現在)
米中間選挙における下院議席獲得予想(2018年10月30日現在)

(出所:RealClearPoliticsのデータを基にザイFX!編集部が作成)

 上院は民主党が44議席、共和党が50議席を獲得すると見られています。接戦のためどちらになるかわからない議席は6あります。

米中間選挙での上院議席獲得予想(2018年10月30日現在)
米中間選挙における上院議席獲得予想(2018年10月30日現在)

(RealClearPoliticsのデータを基にザイFX!編集部が作成)

■下院が民主党、上院が共和党なら為替、金利、株式は動かず

 さて、「マーケットはどう動く?」ということですが、一番確率の高い「下院は民主党、上院は共和党」というシナリオでは、為替、金利、株式はほとんど動かないと思います。

 その組み合わせでは新しい法案が成立する可能性は低く、それは現状維持を意味します。

 トランプが大統領になって以来、税制改革法案の成立や米中貿易戦争のようにいろいろなイベントが起こりました。その関係で市場関係者は政治絡みのニュースが減ることをむしろ好感すると思います。

■下院・上院ともに共和党なら現状と同じ=新鮮味ナシ

 次に確率の高いシナリオは「下院・両院ともに共和党」というシナリオです。これは現状と同じですから特に新鮮味はありません。このシナリオでもマーケットは動かないと思います。

 強いて言えば、トランプ大統領が就任した直後に試みられ、失敗に終わったオバマケアの廃止が再び議案として浮上する可能性があります。

■下院・上院ともに民主党ならマーケットは荒れる

 いちばん確率の低いシナリオは「下院・両院ともに民主党」というシナリオです。実現可能性はゼロに近いと思います。

 このシナリオでは下院議長がナンシー・ペロシ議員になる可能性があります。その場合、トランプ大統領の弾劾動議が起こされる可能性があります。

 加えて、2017年12月に成立した税制改革法案の一部を廃案にすべきだという主張が出る可能性があります。

 さらに連邦債務上限の引き上げに際して民主党が駄々をこねる可能性もあります。

 民主党はリーマンショックのあとに施行されたドッドフランク法など、規制強化を好む傾向があります。したがって下院、上院ともに民主党が勝つシナリオでは規制緩和のトレンドが逆流する懸念があると思います。

 これらのことから下院・上院ともに民主党のシナリオでは市場は荒れると思います。

米中間選挙のシナリオと金融市場の見通し

米中間選挙のシナリオと金融市場の反応

■先週までのマーケットと中間選挙を併せて考えれば…

 さて、10月に入ってから米国の株式市場はギクシャクした動きになっています。これは世界の株安がとうとう米国にも追いついてきたというふうにも解釈できると思います。

NYダウ 日足
NYダウ 日足

(出所:Bloomberg)

ナスダック総合指数 日足
ナスダック総合指数 日足

(出所:Bloomberg)

マーケットが下落した直接の引き金は、米10年債利回りが3.2%に乗せ、金利がスルスル上昇したことで、それが株式バリュエーションや実体経済に悪影響を与える懸念が出てきたことによります。

米長期金利(10年物国債利回り) 日足
米長期金利(10年物国債利回り)

(出所:Bloomberg)

 実際、このところ米国の自動車販売台数や住宅販売はさえません。

米中古住宅販売件数
米中古住宅販売件数

(出所:Bloomberg)

米新築住宅販売件数
米新築住宅販売件数

(出所:Bloomberg)

 つまり、中間選挙そのものが波乱の要素をあまり含まないとしても、現在の神経質なマーケットとの兼ね合いで株価が急落するリスクはあるということです。

■パウエル議長は株価急落なら利上げの手を止める

 前回、FOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で記者団から「どういうシナリオでFRBは利上げの手を止めるのか?」という質問が出ました。

 その際、パウエル議長が真っ先に示した具体例として資産価格が下落した場合、つまり、株式市場が下げた場合、利上げをストップすると明言していました。

 今のところ、米国経済が減速する兆候は少ないです。消費者のマインドは良好ですし、クレジットカードの支払い遅延なども増えていないですし、企業が無謀な借入れを行っている形跡もありません。したがって、それらの行き過ぎが原因で米国の経済がおかしくなるリスクは小さいのです。

 もし、異変が最初に表われるとすれば、それは株式市場だと思います。なぜなら、株には先見性があるからです。その株式は他の指標に先がけて「黄信号」を点灯しています。

 もし、それが原因でパウエル議長が利上げの手を止め、当分様子見に徹するという新路線を打ち出したなら、それは今回の利上げサイクルで最初の軌道修正ということになります。

米政策金利の推移

(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)

 通常、長い利上げ局面でそのような小休止があることは珍しくありません。だから利上げの手を休めるということが即、景気暗転につながるとは限らないのです。

 実際、ドットコム・ブームの只中の1998年にもロシアがデフォルトした関係で金融引締めが一時見合わせられるということが起きました。その後、米国株式市場は再びリズムを取り戻し、続伸しました。

【参考記事】
ノーベル賞を信じるな!? 巨大ヘッジファンドLTCM破綻の余波で米ドル/円が22円暴落!

■米ドルは弱含む可能性のほうが高い

 さて、米国株式市場がギクシャクしていることを述べたわけですが、それはFRB(米連邦準備制度理事会)が小休止を発表する確率が高まっていることを意味し、そのことはとりもなおさず、米ドルにとっては弱気な材料が新しく出てきたことを意味します。

 このため、今週(10月29日~)以降、あまりに株が下がるようだったら、FRBが利上げの手を止めることを見越して米ドル安に振れると考えた方が良さそうです。

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足

■下院は民主党、上院は共和党になる公算が高い

 11月6日(火)の中間選挙では下院が民主党、上院が共和党になる公算が高いです。その場合、マーケットはあくびをすると思います。

 また、次に確率が高い下院・上院ともに共和党になるシナリオでもマーケットへの影響は限定的だと思います。

米中間選挙のシナリオと金融市場の見通し(再掲載)
米中間選挙のシナリオと金融市場の反応

 つまり、中間選挙は相場の材料としてはあまり大きくないのです。

 しかし、このところ米国の株式市場は神経質な展開になっているため、それが選挙の材料と組み合わされると相場が動くシナリオもあるかと思います。

相場急落局面では、FRBは利上げの手を止めるというシグナルを発すると思われます。その場合、米ドルは安くなると思います。

(編集担当:ザイFX!編集部・庄司正高)

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