■アルゼンチン大統領予備選が波乱の結果に!
日本のお盆休み中に、南米・アルゼンチンでとんでもないことが起こっていました。
2019年8月12日(月)、アルゼンチンペソが大暴落を演じたのです。
(出所:Bloomberg)
8月12日(月)にアルゼンチンペソが大暴落することになったワケは、8月11日(日)にアルゼンチンで行われた大統領予備選にあります。
10月27日(日)の大統領選の前哨戦となる予備選で、野党候補のフェルナンデス元首相の得票率が47%前後となり、現職のマクリ大統領の得票率32%前後を大きく上回って圧勝したのです。
現職のマクリ大統領は構造改革や財政規律を重視しており、経済界や海外投資家からの信頼が厚いことで知られています。
一方、フェルナンデス元首相はマクリ大統領の経済政策を批判し、財政規律を無視した年金増額や、国際通貨基金(IMF)による金融支援をめぐる合意を見直すといった方針を掲げています。
そんなフェルナンデス元首相が大統領予備選に圧勝したことで、デフォルト(債務不履行)常習犯ともいえるアルゼンチンが再びデフォルトに陥るとの警戒感が高まり、アルゼンチンペソ売りが殺到したのです。
【参考記事】
●デフォルト常習犯のアルゼンチンが緊急利上げ連発で政策金利40%に! 一体なぜ?
■アルゼンチンペソ、対米ドルで35%を超す大暴落!
それではアルゼンチンペソはどれくらい暴落したのでしょうか。記事冒頭で紹介した米ドル/アルゼンチンペソの日足チャートをもう一度見てみましょう。
(出所:Bloomberg)
米ドル/アルゼンチンペソの8月9日(金)の終値は1ドル=45.35ペソ前後でしたが、8月12日(月)は大きく窓を開けて取引を開始し、さらに1ドル=62.00ペソ前後まで急上昇しました。
つまり、アルゼンチンペソは米ドルに対して一時、36.8%ほど暴落したということになります。
■アルゼンチンペソ、最初の大暴落の半分以上を取り戻す
続いて、米ドル/アルゼンチンペソの30分足チャートを確認しましょう。
(出所:Bloomberg)
米ドル/アルゼンチンペソは8月12日(月)、大きく窓を開けたあと、1ドル=62.00ペソ前後まで上昇、アルゼンチンペソ安が加速したわけですが、その後はアルゼンチンペソ買い戻しが進みました。
1ドル=51.51ペソ前後まで下落する場面もあり、最初に進んだアルゼンチンペソ安を半分以上取り返した、ということになります。
過去にアルゼンチンペソ安が急速に進んだ場合を振り返ってみると、そういった際はBCRA(アルゼンチン中央銀行)が為替介入や連続利上げを行うことでアルゼンチンペソ安に歯止めを掛けようとしてきました。
【参考記事】
●市場は混乱、本当に怖いのは通貨安! アルゼンチンペソ暴落はなぜ起こったか?(2014年1月30日、今井雅人)
●アルゼンチンが政策金利を40%に引き上げ! 新興国通貨にバーナンキショック再来も!?(2018年5月7日、西原宏一&大橋ひろこ)
●デフォルト常習犯のアルゼンチンが緊急利上げ連発で政策金利40%に! 一体なぜ?
今回、米ドル/アルゼンチンペソで1ドル=62.00ペソ前後から51.51ペソ前後までアルゼンチンペソ買い戻しが進んだのは、アルゼンチンペソが単に自律反発しただけなのかもしれませんが、もしかしたら、BCRAがアルゼンチンペソ安防衛策を講じていた可能性もあるかもしれませんね。
■長期的にはアルゼンチンペソ安傾向が鮮明
ここで、米ドル/アルゼンチンペソの月足チャートを見てみましょう。
(出所:Bloomberg)
米ドル/アルゼンチンペソは近年ずっと米ドル高・アルゼンチンペソ安傾向にありますが、2014年からそのスピードが増し、さらに2016年からはもう一段階スピードが増しました。そして、2018年中盤からは一気に米ドル高・アルゼンチンペソ安が加速しているといった状況です。
先ほど、BCRAは為替介入や連続利上げを行うことでアルゼンチンペソ安に歯止めを掛けようとしてきたと書きましたが、そういったアルゼンチンペソ安防衛策は長期的に見ると効果を発揮していない、ということがわかります。
米ドル/アルゼンチンペソの30分足チャートではアルゼンチンペソ買い戻しの動きが見られましたが、長期的に考えると、その勢いもいずれ落ち着いてしまうのかもしれませんね。
■アルゼンチン株も100年債も暴落してトリプル安に!
今回のアルゼンチン大統領予備選を受けて売りが殺到したのはアルゼンチンペソだけではありません。
アルゼンチンの代表的な株価指数であるメルバル指数も以下のように大暴落しているのです。
(出所:Bloomberg)
メルバル指数は今回のアルゼンチン大統領予備選を受けて、8月9日(金)の終値44355前後から8月12日(月)に27450前後まで38.1%ほど暴落したのでした。
そして、アルゼンチン100年債の価格も8月9日(金)の終値である額面1ドルあたり74.90セント前後から、8月12日(月)に56.12セント前後まで25.1%ほど暴落しました。
(出所:Bloomberg)
ここまでをまとめると、アルゼンチンの資産はアルゼンチン大統領予備選の結果を受けて、為替・株・債券が暴落するトリプル安になった、ということになります。
■香港のデモ隊が空港を占拠。中国当局が警鐘を鳴らす
さて、アルゼンチンではデフォルトの懸念が高まっている一方、同じ新興国である香港でも地政学リスクが高まっています。
ザイFX!ではこれまで、香港のデモがリスクオフの一因になっていることを何度かお伝えしてきましたが、8月12日(月)にはデモ隊が香港国際空港を占拠し、200便以上が欠航となる事態が起こりました。
【参考記事】
●香港のデモ拡大が新たな不安要素に! 米ドル/円は104円台に向けての下落過程(6月13日、西原宏一)
●強い雇用統計。今週はパウエル議長証言に注目! 材料顕在化でユーロ/円戻り売りか(7月8日、西原宏一&大橋ひろこ)
そして、香港国際空港をデモ隊が占拠したことについて、中国当局が「テロリズムの兆候が出始めている」と警鐘を鳴らすなど、緊張の度合いが高まってきています。以下のYahoo!ニュースのツイートではその様子が伝えられています。
【香港デモ 怒り募らせる中国】https://t.co/Qo3IWPK2hQ
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) August 12, 2019
香港で、警察による暴力行為を非難する数千人の民主派デモ隊が香港空港内に集結し、空港が一時閉鎖。中国政府は暴力的なデモの一部を「テロ」と非難し、デモ隊に対する怒りを募らせていることを示唆した。
アルゼンチンや香港といった新興国の情勢不安も影響したのか、直近は世界的に株安が進んでいます。これが今後、さらなる世界的なリスクオフ相場につながっていくのか、引き続き注目していく必要がありそうです。
(ザイFX!編集部・藤本康文)
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