■労働党ベン議員法案、超特急で可決
前日の緊急審議実施が可決したことを受け、9月4日(水)午後に、3時間限定で議会の主導権が野党に移った。
●労働党ベン議員法案
労働党ベン議員法案は、議会の合意がない限り、英国は10月31日(木)に合意なしのEU離脱をしないことを確約するものであるが、具体的な内容は以下のとおりである。
「英国政府は、EUとの合意を取り付けられるよう努力し、来月のEUサミットで合意するための時間を確保することを約束する。もし、政府がEUサミット翌日の10月19日(土)までにこの約束を実現できない場合、首相は欧州委員会委員長に交渉期間延長を要請する義務がある。延長期間は、2020年1月31日までとする。
もし、EUがこの延長を承認した場合、首相は即刻それを受け入れる義務がある。もし、EUが違う延長期間を提案した場合、議会がその延長を否決しない限り、首相はその提案を2日以内に、受け入れる義務がある。
この法案は、合意なき離脱は英国経済に多大なダメージを及ぼすという意見で一致した超党派の支持を取り付けている。英国は合意なき離脱を望んでいない」
審議のあと、2回に渡る採決実施。結果は、1回目が「賛成329VS反対300、29票差で可決」。2回目が「賛成327VS反対299、28票差で可決」となった。この法案は、即刻上院へ送られた。
ボリス、2度目と3度目、続けての敗北――。
●ボリス「早期解散総選挙動議」提出
ベン議員法案の採決終了後、議会の主導権はボリス政権に戻った。そして、ボリスは「早期解散総選挙実施動議」を提出。審議のあとに採決が実施された。
英国では、2010年総選挙前までは、首相に議会解散権があった。しかし、この選挙で保守党と自民党との連立政権が誕生したことを受け、「2011年議会任期固定法(FTPA)」が設定されて現在に至る。
FTPAでは、君主(エリザベス女王)による議会の解散大権は失われ、議会議決以外の首相による解散権行使というシステムも同時に廃止。そのため、解散総選挙を実施するためには、下院の3分の2以上の賛成(434票)が必要となっている。
気になる採決結果であるが、賛成298VS反対56。野党議員の多くが棄権した形になり、必要な434票が集まらなかったため、総選挙はなし。
ボリス、4度目の敗北――。
●労働党ベン議員法案、上院でも可決
下院での可決後、即刻上院に移ったベン法案。時間はすでに23時近かったが、驚いたことに、上院ではそこからセカンド・リーディングの審議と採決に移った。
最終的に午前2時30分過ぎに、賛成多数で可決。法案内容にも修正が加えられなかったため、下院でのサード・リーディングの必要はなく、そのままエリザベス女王の裁可を受けることに決定。

(出所:英上院)
しかし、これでもボリスは負けを認めず、どんなことになろうが、自分はEUに交渉期間延長を要請しないと発言。「野垂れ死にしてでも、要請しない」という捨て台詞を吐いていた。
■ボリス、最大のピンチ
9月5日(木)昼過ぎ、ボリスの弟であるジョー・ジョンソン保守党議員が辞任を発表した。自分の家族(兄のボリス)に対するロイヤリティーと、自分自身の信念との葛藤で悩んだ末の決断だと語った。
その後のニュースによると、21名の保守党除名処分議員の中で、特に重鎮のクラーク議員やチャーチル氏のお孫さんなどを、ボリスの弟は非常に尊敬しており、政治家になったあとも、いろいろと指導してもらったそう。それほど保守党のために尽くしてきた人たちを、自分の兄が除名処分にしたことに、耐えられなかったようだ。
弟の辞任を受け、議会だけでなく国民の間でも、自分の弟にさえ見捨てられた人物が、本当にこの国を引っ張っていってよいのか?という論調が高まり、そのような報道が目立った。
■6回連続の負けを喫したボリス
9月9日(月)、この日が議会閉会前の最後の開催日である。
午前中、ボリスはアイルランド共和国を訪問し、バラッカー首相と会談。そのままロンドンに戻り、もう一度「早期解散総選挙実施動議」を提出。
●バーコウ下院議長辞任発表
議会最終日ということで、この日は午前2時30分まで議会は開いていた。
午後3時から新たなSO24をはじめとする複数の審議が待っていたが、この日に限り、バーコウ下院議長の家族が国会議事堂に来ているというニュースが出て、「バーコウ辞任か?」というヘッドラインが飛び交った。
EU残留支持のバーコウ下院議長。議会での審議は、議長に選択権がある。そして、最近は残留組に有利な法案審議を選びがちであると、保守党ブレグジット強硬派議員から苦情が出ており、辞任は時間の問題と言われていた矢先の出来事である。
午後3時、議長は正式に辞任を発表。同議長に対する称賛の言葉が止まらず、議会スタートが大幅に遅延した。
もうこの声が聞けなくなる? pic.twitter.com/w7hVjMv8Xp
— ロイター.co.jp (@Reuters_co_jp) 2019年9月10日
●新たな緊急審議(SO24)とYellowhammer作戦内容全公開を要求
保守党グリーブ元検事総長が提出した緊急審議内容は、「政府が議会閉会を決定するに至るまでに交わされた文書の公開と、Yellowhammer作戦文書の一般公開」を求めるものであった。
An application for an emergency debate on operation Yellowhammer is now being made by Dominic Grieve https://t.co/VdE8Pqq2Is pic.twitter.com/54FnESnKgO
— UK House of Commons (@HouseofCommons) September 9, 2019
この日はこれ以外にも、コービン党首が緊急審議(SO24)を提出。内容は、ボリスが「法律を破ってでも、EUに対し交渉延長を申し出るつもりはない」と語ったことを受け、ボリス政権に法律順守を要求したものだった。
採決結果は、「賛成311VS反対302、9票差で可決」。
ボリス、5度目の敗北――。
●ボリス、2度目の「早期解散総選挙動議」提出
前週に続き、議会最終日のこの日にも、ボリスは2度目の「早期解散総選挙実施動議」を提出した。
前週の採決結果は、「賛成298VS反対56」であったが、2度目の結果は「賛成293VS反対46」となり、前回より賛成票が減っていたのには驚いた。最終的に、議会の3分の2以上(434票)が必要であるため、それに達せず、ボリス6連敗――!

※筆者作成
(「英ポンドは買いか? 売りか?「合意なき離脱」の可能性は本当にない!?」へつづく)
(編集担当/ザイFX!編集部・向井友代 編集協力/ザイFX!編集部・堀之内智)
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