10月31日(木)に期限を迎える英国のEU(欧州連合)離脱(=ブレグジット)。先行き不透明ななか、英国ではメイ首相の辞任にともない、7月にボリス・ジョンソン氏が新たな首相に就任しました。
これまでの報道から、元ロンドン市長で離脱派の急先鋒!? なんて印象が強いボリス氏かもしれませんが、実際のところ、どんな人物なのか…? 今回は、元為替ディーラーで英国在住の松崎美子さんに、あらためてボリス新首相の知られざる人物像や政治家としての経歴についてご寄稿いただきました。
コラムでは、あわせて今後のブレグジット関連のスケジュールや相場見通しについても触れていただいていますので、お見逃しなく(ザイFX!編集部)。
■ボリス・ジョンソン前外相が英首相に就任
7月24日(水)にメイ首相の後任として、英首相に就任したボリス・ジョンソン前外相。就任直後から、EU(欧州連合)加盟国を相手に無理難題を押し付け、ますます、合意なきハロウィーン(10月31日)Brexitの可能性が高まってきている。
7月24日(水)に英首相に就任したボリス・ジョンソン氏。松崎氏いわく政界きってのカリスマセレブで「究極のナルシスト」とも評されるそうだ。同氏の首相就任により、英国の合意なきEU離脱の可能性は高まったと見られているが、果たしてこれからどんな舵取りを見せるのか (C)Justin Sullivan/Getty Images
世界的にポピュリズムの台頭が目に付くが、トランプ大統領といい、ボリス首相といい、最近は右派ポピュリズムが力をつけてきている。
政界きってのカリスマセレブのボリス。「究極のナルシスト」と評される人物が、国民を引っ張って、この困難を乗り切れるのか? 前途多難であることは、言うまでもなかろう。
■ボリス・ジョンソンってどんな人なの?
まず最初に、お断りを…。首相のことを呼び捨てにするのは失礼とは思うが、英国ではボリス・ジョンソン新首相は、「ボリス」という愛称で呼ばれている。そこで、今回のコラム記事では「ボリス」で統一していこうと思う。
●ボリスの基本の「キ」
何はさておき、ボリスの基本の「キ」をまとめてみた。
本名 | Alexander Boris de Pfefel Johnson アレキサンダー・ボリス・ディフェフェル・ジョンソン |
生年月日 | 1964年6月19日(55歳) |
生まれ | アメリカ・ニューヨーク |
国籍 | 英国(2016年まで米国籍も取得し、 二重国籍であった) |
住んでいた国 | アメリカ・ベルギー・英国 |
家系 | 父方の祖父が、オスマン帝国末期の内務相 祖先は、イギリス王ジョージ2世 母方は、ロシア系ユダヤ人 そのため、先祖はキリスト教・ユダヤ教 ・イスラム教徒が混在 |
学歴 | イートン校、オックスフォード大学(古典専攻) |
職歴 | ジャーナリスト (タイムス紙、テレグラフ紙、スペクテイター紙) ロンドン市長 外務相 |
※筆者作成
●ボリスはエリート中のエリートだけど…
家系や学歴を見る限り、エリート中のエリートである。しかし、自らピエロ役を演じ、ボサボサの金髪でメディアに登場する姿を見て国民は、「自分たちのことを理解してくれる政治家」という幻想を持ってしまう。人を魅惑する才能は天下一と言われており、意識的にあの風貌で相手を油断させ、相手の心の中にサクッと入り込んでしまうようだ。
私は、ボリスを表わすには、「incomparable」という単語がもっとも的を得ていると考えている。これは、「他に類をみない、たぐいまれな」という意味である。もちろん、良い意味でも悪い意味でも使われる。もし、悪い意味の単語を探すのであれば、「Shameless=恥知らず、厚かましい」かもしれない。
ある人は、ボリスを「政界のロックスター」と表現していた。風貌はさておき、群集の心を掴む才能に長けているからであろう。カリスマ性では政界一であることは、疑いの余地がない。
私は2年前のラジオNIKKEIの番組で、「ボリスは将来、確実に首相となる人物です」と語ったが、こんなに早く実現するとは、正直、予想していなかった。
ボリスは政治家になったその瞬間から、首相になることに執着していた。そのため、今回の首相就任をもっとも喜んでいるのは、他の誰でもなく本人であることは間違いない。
●学生時代の評価
イートン校時代の通信簿には、「怠惰、時間にルーズ、ひとりよがりの目立ちたがり屋」という評価が必ず書かれていた。
●元妻や愛人達のボリス評
彼女たちの間に、5人の子供をもうけたボリス。この女性たち全員が口を揃えて語ったボリス評は、「ボリスは家族のことなど構っていない。彼が興味があるのは自分自身のことだけ。とにかく、常に自分のことだけを考えて生活していた」ということで、究極のナルシストと言われる所以かもしれない。
●ボリス人気の上昇は、ロンドン市長時代
ボリスは、「英国のトランプ」とか「失言王」と言われているが、実際に彼の失言は数え切れない。思うに、彼は、わざわざ物議を醸し出す失言を繰り返すことにより、否が応でも自分自身に注目を集めさせ、カリスマ性を発揮してきた政治家である。
特にボリスに爆発的な人気が集まったのは、ロンドン市長時代である。2012年のロンドンオリンピックを成功させ、経済効果だけでなく、オリンピック後をきちんと見据えた都市再生計画を実行に移した功績は大きい。
この成功を受け、「やればできるヤツじゃないか! ロンドンをこれだけ活性化できたのであれば、次は国を任せてみたらどうか?」という意見が国民の間で聞こえはじめるまでに、そう時間はかからなかった。
●ボリスの対EU姿勢に二面性
英国とEUとの関係について、ボリスは正反対の二面性を見せている。
ロンドン市長時代のボリスは、ロンドンのシティに代表される金融サービスや多様性を帯びた移民のおかげで、ロンドンが活性化すると語り、EUとの関係について前向きな態度を見せていた。
それに対し、2016年国民投票以降のボリスは、ハードBrexit(合意なきEU離脱)を支持し、移民や他宗教、他国のリーダーなどに対し、罵詈雑言を繰り返すポピュリズムと化していった。
果たして、首相としてのボリスは、前者となるのか? 後者を選ぶのか?
まだ首相となって数日しか経っていないが、後者となるリスクが高そうに見えるのは、私だけであろうか?
●悪評高きメイ政権での外相時代
ボリスはメイ政権で2年に渡り、外相として仕えた。
ボリスは、「前準備を一切しない人物」との定評であったが、これは外相時代も変わることがなく、必要書類には一切目を通さず、EU外相会合でも悪態をついていた。EUで働く英国の外交官や外務省関係者も、「ボリスが辞任してくれて、本当に良かった…」と語る人ばかりである。
ロンドン市長で大成功を収めた同じ人物が、今度は仕事をせず、気まぐれで無責任な発言を繰り返す邪魔者となったのである。
●他国のリーダーに対する罵詈雑言
同じことの繰り返しになるが、ボリスは失言が多い。臆面もなく、女性蔑視、イスラム敵視、人種差別の記事をテレグラフ紙の自身のコラムに書き、それだけでは足らず、各国のリーダーに対しても、失言を繰り返してきた。
・ ロシア : プーチン大統領に対する罵詈雑言
「冷酷で情け容赦ない、ずるがしこい暴君」
・ 米国: トランプ大統領に対する罵詈雑言
「どうして私がニューヨークの街を気軽に歩かないかというと、どこかでばったりトランプ大統領に出くわすリスクがあるからだ」
・ 米国 : ヒラリークリントン氏に対する罵詈雑言
「ブロンドに染めた安っぽい髪の毛、精神病院で働く加虐趣味の看護婦のような目つき」
・ トルコ : エルドアン大統領に対する罵詈雑言
この人物に関しては、ここでは書けないほど酷い言葉を使って侮辱する詩を寄稿し、賞金をもらっている
●服装の変化
今回の保守党党首選出馬の時に思ったことは、ボリスは変わり身が早いということである。特に外見について、それが顕著である。
2016年6月の国民投票が終わり、キャメロン首相の辞任に伴い、メイ首相率いる内閣で外相に任命されたボリス。いつもは、ボサボサの髪にだらしない服装、リュックサックをしょって自転車通勤をしているのに、外相に就任した途端、髪を切り、白いアイロンのかかっているワイシャツを着て、きちんとネクタイも締める。このように変化した。
そして、今回も、保守党党首選出馬が決まった途端、髪型を短くし、服装にもそれなりに気を使っているのが確認された。
7月24日(水)、首相官邸前で行なわれた首相就任スピーチでは、シワひとつない真っ白なワイシャツを着て、エルメスと思われるネクタイを締めている。果たして、「首相らしい」服装が今後も続くのか?
■ボリスが首相になれた3つの決断とは?
過去の出来事を振り返ると、ボリスが頂点に昇りつめることができたのには、3つの決断があったからだと私は考えている。
【1】2008年 ロンドン市長選に当選
自分の仲良しであったキャメロン首相率いる政権で閣僚を目指さず、ロンドン市長職を選択し、成功したことで、ボリスは国民に「できるヤツ」という印象を与えることに成功した
【2】2016年 国民投票で離脱グループのリーダーに
残留支持と思われていたボリスが、突如として離脱支持を打ち出した。そして、離脱派の長として、最終的に勝利を収めた
【3】2018年 外相を辞任
この辞任以降、ボリスはメイ首相のBrexit案に反対を繰り返した。この時、メイ首相と距離を置くことで、今回の党首選に勝てた部分は大きい。
ボリスを見ていると、世論(風)の流れを読むのがうまいと…
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