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英ポンドは買いか? 売りか?
「合意なき離脱」の可能性は本当にない!?

2019年09月13日(金)14:22公開 (2019年09月13日(金)14:22更新)
ザイFX!編集部

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「混迷のブレグジット…。短期再開となった英議会でボリス首相が喫した6連敗とは?」からつづく)

 短期再開となった2019年9月の英議会のポイントをわかりやすく解説した前回の記事に続き、当記事でも元為替ディーラーで英国在住の松崎美子さんが、ブレグジット(英国のEU離脱)の最新情勢について解説してくれています。

 ここでは特に、離脱期限となる10月31日(木)までの注目イベントや「合意なき離脱」の可能性の検証、英ポンド相場の先行きなどについて独自の視点から詳しく分析。ぜひ、最後までご覧ください(ザイFX!編集部)。

松崎美子氏プロフィール

■ブレグジットのここから、現時点でわかっていること

 ブレグジットを巡る動きも含め、ここからの英国議会の動きを考えてみたい。

【1】解散総選挙

 解散総選挙の実施は、「もし」から「いつ」になってきたと言えるだろう。野党連合は、ボリスの解散総選挙動議に「反対」か「棄権」を選んだが、これは選挙実施に反対ではなく、タイミングに反対している。

 労働党コービン党首の本音は、ボリスが提案した10月15日(火)に「100%確実に」投票日を設定するのであれば、賛成したであろう。しかし、投票日の決定権は首相が握っているため、いくらボリスが10月15日(火)を投票日とすると約束しても議会で可決した瞬間に、「やはり気が変わった。投票日は10月31日(木)とする」と、投票日の変更を申し出れば、どうにもできない。

 そのため、野党連合としては、ボリスのワナに引っかからないよう、10月31日(木)までの選挙実施には反対しているのだ。

ボリス・ジョンソン英首相

ボリス・ジョンソン首相が提出した解散総選挙の動議は否決されたが、野党連合が反対したのは解散総選挙そのものではなくタイミング。 投票日決定権は首相であるボリスが握っている… (C)Justin Sullivan/Getty Images

 現時点では、労働党をはじめとする野党連合が、総選挙のタイミングの鍵を握っており、しばらくこの状況は続くだろう。唯一確実なことは、2022年5月の任期満了を待たず、かなり早い時期に解散総選挙が実施されるということだ。

【2】合意なき離脱の有無

 9月9日(月)に正式に法案となった労働党ベン議員のEU離脱遅延法案。これで10月31日(木)に合意なき離脱となる可能性はだいぶ減ったが、100%絶対とは言い切れない

 理由は、以下のとおりとなる。

・ 理由1

 ないとは思うが、10月31日(木)までにボリスが繰り返し解散総選挙動議を提出し、434票の賛成が集まった場合。

 あり得ないとは思うが、10月31日(木)が選挙キャンペーン中に当たるため、どさくさに紛れてボリスが合意なき離脱を実施。

・ 理由2

新しい下院議長が、ブレグジット賛成派から選出された場合。

 バーコウ下院議長は10月31日(木)に正式に辞任となるが、その前の人選でブレグジット賛成派の議員が下院議長になると決定した場合、交渉期間延長後に合意なき離脱とならない保証はない。

・ 理由3

 奇跡的にボリスがEUに交渉期間延長を申し出て、EUも全会一致で承認したと仮定する。この場合、英国の離脱日が2020年1月31日に延期されるだけで、合意なき離脱となるリスクにはまったく変化なし

 もし、10月31日(木)以降に解散総選挙を実施し、ボリス内閣が過半数以上の議席を獲得した場合、一気に合意なき離脱リスクは高まる。

【3】交渉期間の延長の有無

 ボリスが、10月17日(木)から開催されるEUサミットで交渉期間の延長を要請した場合、EU27カ国すべてが承認するのか?

 先週末、フランスのル・ドリアン外相は、「英国は、3カ月に1度ずつ交渉期間の延長を要請するつもりなのか? 英国は本当に何をしたいのだろう? それをきちんと伝えてくれない限り、このような頻繁な交渉期間延長は認められない」と延長に否定的な発言をした。

交渉期間の決定権は、英国ではなくEUにある。一部の報道では、マクロン大統領が反対し、交渉延長はできないのではないか? という意見があるが、私は同大統領が反対票を投じるとは考えていない。

 その理由としては、英国の都合で合意なき離脱になるのでなく、「EU加盟国の反対/棄権により、英国が合意なき離脱を強制された」というシナリオをマクロン大統領が許すわけはないと、私は考えているからだ。

 もう一点、11月1日(金)からユンケル委員長の後任として、フォンデアライデン氏が新委員長に就任する。彼女は、再延長に賛成している。

■10月31日までのフローチャート

ボリスが法を順守するか否かで、ここからの先の動きが大きく左右される。フローチャートに記した内容の流れが一気に変わることもあるため、油断は禁物である。

10月31日までのフローチャート(クリックで拡大)
10月31日までのフローチャート

※筆者作成

■10月31日までのタイムライン

 議会閉会中もEUとの交渉は継続しているため、そのニュース次第であろう。

10月31日までのタイムライン
10月31日までのタイムライン

※筆者作成

■ブレグジットに関する興味深い世論調査結果

 調査大手:YouGov(ユーカブ)社が、いくつかの興味深い調査結果を発表した。

【1】ボリスのブレグジットに対する対応の仕方

「強く支持/どちらかと言えば支持」が40%に対し、「強く反対/どちらかと言えば反対」が42%と、ほぼ互角。

ボリス・ジョンソン英首相のブレグジットへの対応を支持するかどうかを問う世論調査

(出所:YouGov) ※調査期間:9月2日~3日、調査対象者数:1639人

【2】望ましいブレグジットのかたち

 この結果を見たとき、腰を抜かすほど驚いた。というのは、残留支持の人が、これだけ多いとは思わなかったからである。もちろん、かたちはそれぞれ違うものの離脱に票を入れた人たちは、合計すると52%になることはわかっている。それでも、やはり残留支持の大きさに驚いた。

望ましいブレグジットのかたちを問う世論調査

(出所:YouGov) ※調査期間:9月5日~6日、調査対象者数:1676人

【3】合意なき離脱について

 これが最後になるが、合意なき離脱について国民の考えはどうなのか? これがその結果である。3つの世論調査会社(ComRes、BMG、YouGov)による結果であるが、どれも「合意なき離脱に反対」が「賛成」を上回っているのが、おもしろい。

合意なき離脱の賛否を問う世論調査

(出所:What UK Thinks)
※ YouGovの調査については、「どちらでもない」の選択肢がなかった

■ここからのマーケット

 ベン議員法案(※)成立を受け、合意なき離脱の可能性が後退した。あるいは、解散総選挙の可能性が低くなり、安心感が広まった──あれこれ理由をつけて、英ポンドの買い戻しが入っている

(※編集部注:「ベン議員法案」とは議会の合意がない限り、英国は10月31日(木)に合意なしのEU離脱をしないことを確約するもの)

【ベン議員法案に関する参考記事】
混迷のブレグジット…。短期再開となった英議会でボリス首相が喫した6連敗とは?(松崎美子)

 依然として、シカゴIMM先物市場の英ポンド・ショートの建玉残高は大きいので、何かドッキリするようなニュースが出ない限り、急落は難しいかもしれない。しかし、実際にロンドンに住む身としては、短期売買であれば話は別であるが、中期の英ポンド・ロングのポジションを建てようとは思わない

IMMの英ポンドポジション状況(9月3日時点・クリックで拡大)
IMMの英ポンドポジション状況(9月3日時点・クリックで拡大)

(出所:Bloomberg)

 正直、ここからはユーロ取引の方がポテンシャルがあるかもしれない。

 ひとまず英ポンド実効レートをチェックしてみよう。水色とピンク、それぞれの線が交わる76.80台でいったん頭打ちとなるのかを見極める必要があるだろう。

英ポンド実効レート 日足(クリックで拡大)
英ポンド実効レート 日足チャート

(出所:BOE(英国の中央銀行))

 次は通貨ペアのチャートであるが、英ポンド/円と英ポンド/スイスフランに私は注目している。

 最初は、英ポンド/円の週足チャート。私は英ポンド/円を見る時に、12円レンジをひとつの目安としている。

 127円台前後でいったん底をつけ、次のターゲットは139円となる。しかし、ここから一気に英ポンド買い材料が湧き出て139円を達成するとも思えない。

 以下のチャートを見ると、ピンクのサポートラインが133円台を通っているが、これが今度はレジスタンスとなって、ひとまず頭を抑えられるのか?それとも素直に上抜けて上昇するのか? チェックしたい。

英ポンド/円 週足(クリックで拡大)
英ポンド/円 週足チャート

(出所:TradingView

 最後は、英ポンド/スイスフランの週足である。私は1200bps幅で区切って、この通貨ペアを監視している。執筆時は、1.22フラン台での推移となっている。

今週(9月9日~)、1.22フラン台をきれいに上抜けて終了するのか?それとも、英ポンド/円とともに踊り場に差し掛かるのか?それを見極めたい

英ポンド/スイスフラン 週足(クリックで拡大)
英ポンド/スイスフラン 週足チャート

(出所:TradingView

 もし、英ポンド/円や英ポンド/スイスフランが、ここから大きく上昇するのであれば、米国債(10年物)の利回り上昇(イールドのスティープ化)が一番大きな材料になると予想する。

(編集担当/ザイFX!編集部・向井友代 編集協力/ザイFX!編集部・堀之内智)

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