2019年を通じて、市場のメインテーマの1つとして話題を振りまき続けた英国のEU(欧州連合)離脱(ブレグジット)問題。英国では、ボリス・ジョンソン首相が、EU側と合意にこぎつけた離脱協定案で離脱を成し遂げるために議会を解散し、12月12日(木)に下院(庶民院)で総選挙が実施される運びとなりました。
運命の総選挙が迫る中、英国情勢といえばこの方、元為替ディーラーで英国在住の松崎美子さんに、総選挙に至るまでの経緯や、総選挙に向けた最新の動向、さらに選挙後の英ポンド相場の見通しについてご寄稿いただきました(ザイFX!編集部)
12月12日(木)の英総選挙まで、1週間を切った。保守党優勢と伝えられていたが、労働党が最後の追い込みを見せており、まだまだ予断を許さない。
【参考記事】
●【ブレグジット】12月12日に英総選挙。2020年1月の離脱がメインシナリオに
本来であれば、10月31日(木)にEU(欧州連合)から離脱しているはずの英国。いったい、何が起きたのか? 離脱する前に総選挙というのは、どういうことか? 今回は、そのあたりを探りながら、総選挙の結果について考えてみたいと思う。
■英国とEUが離脱協定案が合意
10月17日(木)~18日(金)に開催された、EU首脳会談(サミット)。ここでは、EUと英国との間で、絶対に不可能と言われていたEU離脱協定案の合意に至った。
【参考記事】
●英国の合意あるEU離脱はあり得る? 週明けはフラッシュクラッシュ級の動きも!?
もし、このサミットで合意ができなければ、ボリス・ジョンソン英首相(以下、ボリス)は、「野垂れ死にしても、延長には応じない。必ず離脱する」と豪語していたが、サミットを前に英国政府からEUへ提出された書類には、離脱交渉期間の延長に応じると書かれていたそうだ。
数え切れないほど多いボリスの「嘘」が、また1つ増えた。
離脱の延期には応じず、必ず離脱すると豪語していたボリス・ジョンソン英首相。EUサミットで離脱協定案の合意にこぎ着けたが、サミットを前に英国政府からEUへ提出された書類には、離脱交渉期間の延長に応じると書かれていたんだそう (C)Justin Sullivan/Getty Images
■離脱期限の再延期を要請…。なぜ?
ボリスはサミットの翌日となる10月19日(土)に、議会を緊急招集すると発表。
英下院のホームページによると、1939年から現在に至るまで、土曜日に議会が緊急招集されたのは、以下の3回のみ。
【1回目】 第二次世界大戦が始まる前日(1939年9月)
【2回目】 スエズ戦争の時(1956年11月)
【3回目】 フォークランド紛争開始の前日(1982年4月)
これら3回の緊急招集後には、歴史を塗り替える出来事が起きているだけに、ボリスも相当の覚悟で議会を招集したと思われる。
出所:英下院図書館(The House of Commons Library)
しかし、思いがけない展開が待っていた!
緊急招集では、議会に提出された3つの修正案のうち、元保守党のレトウィン卿が提出した「ブレグジットに向け、批准手続きなど必要な手続きがすべて終了するまで、離脱期限の延期を義務化する」修正案が選ばれ、議会で採決を実施。
採決の結果は、賛成322・反対306の賛成多数で可決。
レトウィン卿の修正案可決により、ボリスは完全に逃げ場を失い、渋々、EUに対し、離脱期間の延長を要請せざるを得ない立場に追い詰められた。
10月31日(木)の離脱を諦めきれないボリスは、レトウィン卿の修正案可決を知るや否や、サミットで合意したEU離脱協定案の議会採決動議を週明けに延期。協定案の承認を得るための関連法案の採決を10月22日(火)に実施したが、英下院が否決したことで、離脱案の採決はできなくなった。
離脱案の採決がキャンセルされたら、離脱はできない。絶対に無理と言われていたサミットでの合意を取り付け、ドヤっていたボリスだが、緊急招集で動議の採決ができない事態に追い込まれるという展開は、完全に予想外だった。
【参考記事】
●【ブレグジット】12月12日に英総選挙。2020年1月の離脱がメインシナリオに
■ボリスに神風。総選挙実施の動議が可決
10月28日(月)、ボリスは早期に解散総選挙を実施する動議を、英国議会に提出。この動議の可決には、FPA(2011年議会任期固定法)に基づき、議会の3分の2以上(434議席)の賛成が必要だ。
そして、その法案の採決まで、あと1時間と言うタイミングで、驚くべき動きが!
それは、欧州委員会による、「英国のEU離脱期限を、最長で2020年1月31日(木)とし、英議会が離脱協定案の採決を可決すれば、その時点でいつでも離脱できるフレクステンション(flextention、柔軟な延期)として承認する」と言う発表であった。
しかし、早期の解散総選挙を実施する動議の採決は、ほとんどの野党議員が棄権したこともあり、結果は賛成299・反対70。必要な434票には135票足りず、否決となった。
翌日(10月29日)、懲りた様子を見せないボリスは、解散総選挙に向け、もう一度、動いた。この日はFPAを元にした採決はせず、「一行法案」という、もっとも簡素化された法案を選んだ。この形式の法案は、付随の条件や説明など何もついていないのが特徴で、過半数(320議席)の賛成で可決となる(※)。
(編集部注:英下院の定数650の半数は325だが、登院しない北アイルランドのシン・フェイン党の議員らを含む8人と、議長・副議長の3人を含めた計11人は投票に参加しないため、法案可決に必要な過半数の議席数は320となる)
ボリスが提出した法案は、「12月12日(木)に総選挙を実施する」というもの。
すると、前日の採決では多くの議員が棄権した労働党のコービン党首は、「間違って10月31日(木)に合意なき離脱となってしまうリスクが、ほぼなくなった」と判断し、「労働党は、(12月12日の総選挙実施に)賛成票を投じる」と、センセーショナルに発表。
その結果、ボリスが提出した12月12日(木)に総選挙を実施する法案は、賛成438・反対20と、418票差で可決。
ボリスにとって、神風が吹いたことになる。
【参考記事】
●混迷のブレグジット…。短期再開となった英議会でボリス首相が喫した6連敗とは?(9月12日、松崎美子)
●【ブレグジット】12月12日に英総選挙。2020年1月の離脱がメインシナリオに
■どうして解散総選挙なのか?
ボリスが総選挙を急ぐ理由、それは、今後の政策運営をスムーズに運ぶためには、保守党の議席数を増やさなければならないからである。
ボリスが7月に首相に就任した当時は、保守党の議席数は317議席であった。その後、21名の議員が保守党を除名処分となり、それ以外にも離党する議員が続いたため、保守党の議席数は288まで縮小した。その後、除名処分された議員のうち、10名を改めて保守党に復帰させたが、それでも総選挙前の保守党の議席数は298である。
※英議会の公式サイトの情報をもとにザイFX!編集部が作成
※2019年11月6日(水)時点のデータ
下院定数650議席中の298議席ということなので、いかなる採決でも保守党は負ける。これでは、きちんとした政策運営ができないため、一日も早く総選挙を実施しなければならない。
■ブレグジットが先か?解散総選挙が先か?
ブレグジットが解決しないうちに、前倒しで総選挙を実施するのは、順番が逆ではないか?
そういう意見が、保守党議員の間でも多かった。この問題に対する各党のスタンスは、以下のとおりである。
★保守党
ボリスの考えでは、とにかく総選挙を年内に実施する。しかし、本音では、英国のEU離脱を最初に決定してから、総選挙投票日を迎えたかった。そうすれば、「英国のEU離脱を実現した政党」として、ドヤって選挙で勝てるからである。
★自由民主党やSNP(スコットランド国民党)
なにがなんでも、英国のEU離脱を阻止したいので、英国がEU残留中に総選挙の投票日を迎え、残留支持の有権者票を狙いたい。
★労働党
前倒し総選挙実施に関しては、党内で意見が二分している。しかし、党内で共通しているのは、「合意なき離脱を、なにがなんでも不可能にすること」である。
最近のコービン党首は、離脱後に続く移行期間終了時(2020年12月31日)まで、合意なき離脱を不可能にする方向で、動き始めたと伝えられている。
■「残留VS離脱」の選挙に
解散総選挙の発表直後に実施された世論調査によると、約6割の有権者が、今回の総選挙を「ブレグジット選挙」という認識で捉えていることがわかった。
各党のマニフェスト(公約)などに書かれているブレグジットのスタンスは、以下のとおりである。
★保守党
10月31日(木)に合意なき離脱ができなかったこともあり、「合意なき」という離脱形式からは距離を置き、「10月のEUサミットで合意したEU離脱協定案で、スムーズな離脱を目指す」ことを公約に揚げている。
選挙での見どころ→野垂れ死にしてでも10月31日(木)に離脱すると約束したボリスに対し、有権者はペナルティーを課すか?
★労働党
選挙に向けて、党内の意見調整にもっとも手こずっているのが、労働党である。
公約では、「議会で何度採決しても、離脱について決められなかった。そもそも、離脱することを決めたのは、国民。それなら、今度も国民の真意を聞き、決定することが最良であろう。よって、2度目の国民投票を実施する」という内容だ。
選挙での見どころ→公約では、「残留」と決定的な決め打ちをせず、「2度目の国民投票」という選択をした労働党。国民投票を実施するには、法律的に最低22週間(約半年)の時間がかかる。ということは、労働党政権となれば、再度、離脱期限の延期が必要となる。果たして、有権者はこれ以上の離脱期限延期を望んでいるのか?
★自由民主党
自由民主党は、「EU基本条約(リスボン条約)第50条の破棄」を選挙公約に掲げる。第50条の破棄とは、ブレグジットをなかったことにする、つまり、このまま残留するという意味である。
個人的には、2016年6月の国民投票で、僅差とはいえ離脱となったことを考えれば、「残留」を選ぶことには、非常に抵抗を感じる。
もう一点。選挙公約からは若干、話題が離れるが、自由民主党は今までずっと、SNPや緑の党、ウェールズのプライド・カムリ党(ウェールズ党)と連合を組み、残留支持候補を一人に絞り、統一候補を選出すると語っていた。
しかし先月(10月)、スウィンソン党首がいきなり、「SNPとは組まない!」 と発表。何があったのかわからないが、緑の党とプライド・カムリ党とは、引き続き、統一候補を立てて戦うようだ。
選挙での見どころ→今年(2019年)7月に、党首に就任したスウィンソン氏。若干39歳のスコットランド出身の女性党首である。彼女のスピーチを何度か聞いたが、政治家とは思えないヘタっぷり。説得力がないだけでなく、感情をむき出しにすることもある。個人的には、この人はこのままであれば、首相の器ではないと考えている。
★SNP
SNPも、自由民主党と同様、EU残留を希望している。そして、この党は今回の選挙で、「年内にスコットランド独立の是非を問う住民投票実施」を、公約に盛り込んだ。
問題は、スコットランドでの住民投票実施には、中央政府の承認が必要となる点である。
これについてボリスは、「2014年にスコットランドは、独立についての住民投票を実施した。あの時、住民投票は今後、一切やらないという約束だったので、中央政府も承認した。しかし、今度、またやりたいというのは、ルール違反であり、中央政府としても許可はできない」と返事をしている。
選挙での見どころ→総選挙の結果次第と言えるが、もし善戦した場合、いくら中央政府が認めなくても、スコットランド住民投票実施の気運が高まることは、間違いないだろう。その場合は、英連合王国の崩壊シナリオにならざるを得ず、英ポンドにとってはネガティブ。
■戦術的投票が総選挙のカギに!
今回の総選挙は、Tactical Vote(以下、戦術的投票)が結果を大きく左右すると言われている。最初に、戦術的投票とはどういうものなのかを説明したい。
【1】戦術的投票とは?
今回の総選挙は、「ブレグジット選挙」とも言えるので、それを例に説明したいと思う。
たとえば、私は残留支持のB党を支持している。しかし、私の選挙区ではB党は弱く、絶対に勝ち目がないことがわかった。
B党の支持者としては、離脱支持のA党には勝ってほしくない。
その場合、とにかくA党が勝たないようにすることが重要なので、今回の選挙ではA党の次に人気がある、残留支持のC党に票を入れることに決めた。
――これが、戦術的投票の基本的なイメージだ。
【2】嫌いな党を潰す道具
【1】の重複となってしまうが、自分が支持する政党は、どうしても勝てないようなので、自分がもっとも嫌っている政党をつぶすことを優先したい。こういった考えをベースにして投票する政党を選ぶことも、戦術的投票だ。
ネットで検索すると、「Tactical Vote」というタイトルがついたサイトをいくつも目にした。これらのページでは、自宅の郵便番号や選挙区を打ち込むと、どのように戦術的投票を実行すれば、もっとも効率的なのかを分析してくれる。
※出所:TACTICAL VOTE
【3】投票の交換
それ以外にも、「投票の交換」というページがあるらしい。
しくみとしては、ある選挙区ではB党が有利なので、C党支持者がB党に票を入れる。その代わり、C党が有利な選挙区では、B党支持者がC党に票を入れる。
こうして、とにかく憎きA党を徹底的に潰すため、戦略的に投票するやり方だ。
■どうして戦術的投票が必要なのか?
11月11日(月)、ブレグジット党のファラージ党首が、驚くべき決定を下した。
それは、「2017年の総選挙で保守党議員が当選した317の選挙区には、ブレグジット党は立候補者を立てない。それに加え、保守党が狙っている労働党基盤の43の選挙区についても、ブレグジット党からは立候補者を立てない」という内容である。
結局、立候補者締め切り日となった11月14日(木)の時点で、前述の317と39の選挙区に、ブレグジット党からの立候補者はいなかったことが判明。
つまり、保守党が2017年の総選挙で押さえた317議席に加え、労働党との票差が小さかった39選挙区ですべての議席を獲得したと仮定した場合、それだけで保守党の議席数は356となる。
英下院の過半数は326議席であるため、保守党は楽々、単独政権として政策運営が可能となり、ボリスの離脱協定案で英国はEU離脱となる。
あの頑固なファラージ党首が、あっさり負けを認めるような発言をしたことには、きちんとした理由があった。
ブレグジット党の最大政治献金者であり、ファラージ党首の親友ともいえるアーロン・バンクス氏が、「このまま保守党とブレグジット党が競ったら、離脱支持票を二分してしまう。そういう状況で、残留支持政党が同盟を組んだら、労働党のコービン首相誕生というシナリオがあるかもしれない。それを絶対に避けるため、ボリスとファラージさんは、協力するか、あるいは離脱支持票を二分しないような工夫をすべきである」と提案した。
ファラージ党首は早速、ボリスにラブコールを送ったが、ボリスは無視。その結果、しかたなく上記のような発表に至ったのである。
■戦術的投票で野党に過半数のチャンス!?
そして、私はこの発表が、ゲーム・チェンジャーになったと考えている。そのため、残留支持の有権者にとって、戦術的投票が、ますます重要度を増してきたと言えるだろう。
11月中旬の世論調査によると、4人に1人(25%)が戦術的投票を考えているらしい。以下の表は、30%の有権者が戦術的投票を実施した場合の、獲得議席数の予想を右端に表したものである。
※複数の報道をもとに筆者作成
黄緑でハイライトを入れた野党連合は、323議席となるが、ここに明記していない少数政党から2~3議席加わることも可能で、そうなると野党がギリギリで過半数(326)の議席を握ることもありそうだ。
■戦術的投票には問題点もある
いいことずくめに見える戦術的投票。しかし、いくつかの問題点を抱えている。
【問題点1】スコットランド独立について
スコットランドの有権者を例に考えてみよう。有権者Aさんは、労働党を支持している。しかし、Aさんの選挙区では労働党が勝てないので、残留支持のSNPに票を入れようと考えた。そこで問題発生となった。
SNPは、英連合王国からの独立を支持している。
しかし、Aさんは、スコットランドはこのまま英連合王国に留まることを支持している。そうなると、いくらEU残留支持でも、SNPに投票はできない。
【問題点2】労働党コービン党首の考え
ボリスは、スコットランド独立に向けた住民投票実施について、かたく反対している。
その点、労働党のコービン党首は、2021年までの実施は反対としているが、それ以降については言葉を濁している。
現在、労働党との連立をほのめかしているのはSNPだけだ。しかし、独立の是非を問う住民投票実施の有無により、労働党とSNPの連立の話も消滅するリスクが出てくるだろう。
【問題点3】野党連合の亀裂
ボリスが7月に、首相に就任した当時は、労働党、SNP、自由民主党、プライド・カムリ党、緑の党の5党が共同し、総選挙の時には残留統一立候補者を立てることで合意していたように見えた。
しかしその後、労働党が2度目の国民投票かEU基本条約第50条の破棄かの間で迷い、最終的に2度目の国民投票実施を選択したことで、この連合から抜けた。
その直後、どういう理由かはわからないが、前述のとおり自由民主党のスウィンソン党首が、SNPとは連合を組まないと発表。緑の党も労働党と同様、2度目の国民投票実施を支持しているが、自由民主党はプライド・カムリ党と緑の党に声をかけ、3党連合を組んで、60議席を争う姿勢を鮮明にした。
つまり、残留支持政党には、「SNP」と、「自由民主党、プライド、カムリ党、緑の党の連合」で、票が分裂するリスクがある。労働党はあくまでも「ニュートラル(中立)」としているが、残留支持者の中には、労働党に票を入れる人もいるため、残留票が分かれてしまうリスクは高い。
個人的には、戦術的投票では、自由民主党でもSNPでもなく、労働党が票を大きく伸ばさない限り、残留支持政権の誕生は難しいと考えている。
■選挙結果の6つのシナリオと英ポンドの見通し
ここでは、私が勝手に考えた6つのシナリオをご紹介したい。
(出所:TradingView)
英ポンドの動きについては、総選挙の投票締め切り直後に発表される出口調査を受けた「短期見通し」と、来年上半期(2020年1月~6月)の「中長期見通し」として、以下のように予想している。
※筆者作成
以下、1つずつ解説してこう
【シナリオ1】保守党単独政権
(保守党が圧勝して過半数を大幅に上回る議席を獲得)
保守党が過半数を大幅に上回る議席数を獲得した場合、総選挙の間は棚上げされていたEU離脱協定案が議会で可決し、2020年1月31日(金)までに、EUからの「条件付き離脱」が確実となろう。
そこからの争点は、ボリスが主張しているように、移行期間を2020年12月31日(木)で終わらせられるのか? それとも、最長で2年間の延長が認められているため、2022年12月31日(土)まで移行期間を延長する必要が出てくるのか? に移るだろう。この決定は、2020年6月頃になされる予定。
***英ポンドの動き***
・保守党の単独政権誕生を受け、初動は英ポンドが大きく上昇
・その後、EU離脱協定案が可決し、批准手続きも終了。無事に条件付きで2020年1月31日(金)までに離脱できることが決定すれば、英ポンドには非常にポジティブ
・しかし、その後は上述のとおり、移行期間について、議会で意見が割れることが予想されるため、英ポンドは来年(2020年)の夏か、その直前から、いったん弱含むと予想
・もし、2022年末までの移行期間延長が決定すれば、判断が難しいが、英ポンドにとってはポジティブになると思う
【シナリオ2】保守党ギリギリ過半数
(保守党がかろうじて過半数の議席を獲得)
保守党がギリギリで過半数を獲得した場合、かろうじてEU離脱協定法が可決し、2020年1月31日(金)までに「条件付き離脱」に持っていくことは可能。
ただし、この法案に追加される修正案の内容によっては、現在のEU離脱協定案の中身が大きく変更・修正されるリスクが出てくる。
審議・採決する修正案の選択は、新しく就任するサー・リンジー・ホイル下院議長(労働党)に権限がある。この人は「離脱派」という噂なので、離脱に有利な修正案を選ぶこともあろう。
***英ポンドの動き***
・条件付き離脱となれば、英ポンドにはポジティブ。ただし、保守党の議席数がギリギリなので、特に離脱強硬派の動きを考えると、政策運営は難しいかもしれない
・そこに、移行期間中の不透明感などが重なった場合は、英ポンドは売られることを予想
・最悪のケースとして、2020年6月に決定されると言われている、移行期間の2年間延長が否決されれば、英ポンドは大きく売られると予想
【シナリオ3】保守党少数派政権
(保守党が与党の座を守るも過半数の議席を獲得できず)
保守党の議席数が過半数以下で、他党から閣外協力が得られず、保守党だけの少数派政権となるケース。この場合は、たぶんもう一度、総選挙実施となる予感。
***英ポンドの動き***
・過半数の議席を獲得できず、ブレグジット強硬派議員の声が反映される政策運営となれば、合意なき離脱の可能性が高まることも考えられ、個人的には一番、嫌なシナリオ
・もう一度、解散総選挙となるリスクもあり、英ポンドには一番、ネガティブなシナリオだと考える
【シナリオ4】労働党とSNPの連立・閣外協力
(労働党とSNPが連立や閣外協力で政権を運営)
保守党が過半数を取れず、労働党が予想を上回る議席を獲得した場合、労働党がSNPと連立、あるいは閣外協力を取り付け、政権運営をする可能性が出てくる。
その場合、SNPは賛成していない、労働党イチオシの「2度目の国民投票実施」の有無が争点となり、ひとまず、離脱期限の再延期をEUへ要請することになるだろう。
もし、本当に2度目の国民投票が実施されれば、スコットランドやウェールズの独立に向けた住民投票は、キャンセルされる可能性が出てくる。
***英ポンドの動き***
・2度目の国民投票実施が、かなり高い確率で実施されるというセンチメントが高まることが予想され、英ポンドにはポジティブ。本当に国民投票が実施され、EU残留となれば、英ポンドには大きく買いが入るだろう
・しかし、来年(2020年)以降の政策運営については、不透明感が高すぎる。たぶん、横ばいからやや下落というイメージか?
【シナリオ5】労働党+多数の野党が閣外協力
(労働党と多くの野党が閣外協力して、労働党が政権を運営)
労働党の議席が過半数以下で、SNPと、それ以外の野党とも閣外協力を約束するケース。
ひとまず、労働党が与党となり、政権を運営。2度目の国民投票実施なのか? EU基本条約第50条の破棄なのか? ここが争点となるだろう
***英ポンドの動き***
・2度目の国民投票実施の確率の高低により、英ポンドへのポジティブ度合いが変わると予想
・そういうことにはならないと思うが、万が一、2度目の国民投票での質問に「残留」という選択肢がなければ、英ポンドにはネガティブ
・逆に、国民投票ではなく、EU基本条約第50条の破棄という選択が前面に出てくるようであれば、英ポンドにはポジティブ。どちらに転ぶか予想がつかないだけに、非常に難しいシナリオである
【シナリオ6】労働党政権
(労働党が過半数の議席を獲得して単独で政権を運営)
労働党が過半数以上の議席を獲得し、単独政権を樹立するケース。この可能性はほぼゼロだと思うが、念のため。
ブレグジットに関しては、2度目の国民投票実施となるだろう。国内政策として、公約で発表された公共事業の国営化などが実現する動きになるのか?
仮にこのシナリオが実現したとしても、個人的には、この政権は長続きしないと予想している。
***英ポンドの動き***
・2度目の国民投票実施の部分で、英ポンドにはポジティブとなろうが、短命だろう。やはり、国内の政策運営の部分で、英ポンドにとってネガティブになることが怖い
・ただし、EUが(国民投票実施のために)離脱期限の再延長を認めてくれれば、そこからは残留の可能性が重視されるため、一時的には英ポンドにポジティブと考える
【参考記事】
●英ポンドは買いか? 売りか? 「合意なき離脱」の可能性は本当にない!?(9月13日、松崎美子)
(編集担当/ザイFX!編集部・堀之内智)
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