■英議会が離脱協定案の採決を見送り!
採決見送り――。
英政府と欧州委員会による合意で、いよいよ佳境を迎えたかに思えたブレグジット(Brexit、英国のEU離脱)問題。
英下院が離脱協定案を議会承認すれば、10月31日(木)に「合意あるEU離脱」を成し遂げる下地を整えたジョンソン英首相だったが、英下院が10月19日(土)に下したのは冒頭のとおり、OKでもNGでもなく、採決自体を見送るという結論だった。
その理由は「離脱案の内容を把握するために時間が必要」というもの。そして、3カ月の離脱期限延期を目指す動議を賛成322票、反対306票の賛成多数で可決した。
【参考記事】
●英国の合意あるEU離脱はあり得る? 週明けはフラッシュクラッシュ級の動きも!?
上の【参考記事】はタイトルにもあるとおり、英下院の判断によっては週明けとなる本日(10月21日)の為替市場が早朝から大荒れになるかもしれない…、そんな内容をトレーダーに警戒を促す意味も込めて、10月18日(金)にザイFX!編集部が公開したもの。
しかし、採決見送りという結果を受けた10月21日(月)の英ポンド相場は、下窓を開けて始まったものの、英ポンド/米ドルも英ポンド/円も、それぞれ先週末(18日)の安値すら割り込むことなく、フラッシュクラッシュ級の下げは回避した。
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■ジョンソン首相は10月の離脱を諦めていない!?
英下院の結論を受け、ジョンソン首相は離脱延期を要請する書簡をEUに送ったという。これは離脱案が19日(土)に承認されなかった場合、英政府が離脱期限の延期をEUに要請しなければならないことを義務づける、9月4日に成立した法案(通称「ベン法」)に基づく措置。
EU側も書簡が届いたことを明らかにし、加盟国の首脳らと対応を協議するとコメントしている。
【参考記事】
●混迷のブレグジット…。短期再開となった英議会でボリス首相が喫した6連敗とは?(9月12日、松崎美子)
●英ポンドは買いか? 売りか?「合意なき離脱」の可能性は本当にない!?(9月13日、松崎美子)
しかし、EUに送付された離脱延期を要請する書簡にはジョンソン英首相の署名はなく、自分は延期を望んでいないということを強くアピールする別の書簡を、こちらは署名入りでEUに送ったという。
要するにジョンソン首相は、「議会が離脱協定案に合意してくれなかったから、決められた約束に従って離脱期限の延期を要請するけれど、自分は決して納得していないし、離脱期限の延長はしたくない!」と言っているのだ。
結局、EUと合意しても身内の議会に離脱を阻まれるという、メイ前首相と同じ道のりを、ジョンソン首相もたどっている。
■今後の展開はどうなる?
ここで10月18日(金)に公開した記事に掲載した、「今後のブレグジットの流れ」をまとめたものを以下に引用する。
【参考記事】
●英国の合意あるEU離脱はあり得る? 週明けはフラッシュクラッシュ級の動きも!?
※「英国の合意あるEU離脱はあり得る? 週明けはフラッシュクラッシュ級の動きも!?」より
ジョンソン首相の署名があるかないかに関わらず、英議会で成立した法律に基づいて離脱期限の延期申請がなされた以上、EUが離脱延期を正式に承認し、総選挙か国民投票の実施も想定される(2)のシナリオが、現段階で実現する可能性が高いと考えるのが普通だろう。
しかし、ジョンソン首相がEUへ署名入りで送った書簡には、英国は10月31日(木)に予定どおり離脱しなければならないとう主張があったとも伝わっており、これまでの発言からもジョンソン首相が離脱延期を望んでいないのは明らか。
英国営放送のBBCなどは、ジョンソン首相が議会承認を得るための関連法案を10月21日(月)にも提出する方針であることを伝えている。
10月31日(木)の離脱を諦めていないジョンソン首相は、議会承認を得るための関連法案を21日(月)にも提出する方針であることが伝わっている。ジョンソン首相の逆転満塁ホームランはあるのか? (C)Justin Sullivan/Getty Images
与党保守党の議席が議会の過半数に届かず、閣外協力している北アイルランドの地域政党DUP(民主統一党)の支持も得られにくい中ではあるが、10月19日(土)の離脱期限延期を目指す動議が僅差(賛成322・反対306票)だったことからも、ジョンソン首相の提出する関連法案が成立して、10月31日(木)に合意ある離脱となるシナリオも、なくなったと決めつけるわけにはいかなそうだ。
■ヘッドラインで乱高下する展開には警戒
英国経済の大混乱も予想される合意なき離脱はどのみち回避される――。
英ポンド相場はこうした見方を背景に、ここ数週間は安値から反発する動きが続いていた。
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英議会の状況を考えると、合意なき離脱となる可能性はかなり低下しているため、英ポンドが警戒していたフラッシュクラッシュ級の大暴落を引き起こすことを心配する必要性は、次第に薄らいでいると感じられる。
しかし、英議会の動向に振り回される相場展開は、まだしばらく続くことになりそうだ。関連情報のヘッドラインで英ポンドが乱高下する可能性には、引き続き警戒しておいたほうが良いだろう。
(ザイFX!編集部・堀之内智)
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