■米ドル/円の反騰理由は「円高ではなく米ドル安だった」こと
では、なぜ米ドル/円は大半の予想と違って、株の歴史的な暴落が進行中であるにも関わらず、円高が進まず、逆に先週(3月2日~)の終値前後の水準に戻ってきたのか。この問題はなかなか複雑で、また奥深いので、現時点で完全に答えられる人はいないと思うが、「独断と偏見」の私見を述べておきたい。
まず重要なのは、市場におけるロジックは、あらゆる局面において一貫してきたものではないということである。むしろ逆で、市況の変化に合わせて、ロジック自体も変わっていくのが常である。
したがって、本来見られるはずの円高の進行が続かなかった理由についても、段階を分けて考えてみたい。
週明け(3月9日)の「オイルショック」において、米ドル/円は一時101円台前半をトライ、翌日(10日)大きく切り返し、106円の節目手前に迫った。
このような値動きは、2月高値を起点とした大幅かつ一本調子な下落に対する調整といった位置付けがたやすくできるが、株式市場の状況と照らしてみればわかるように、説得力があまりないと思われる。根本的なところ、やはり、「円高ではなく米ドル安」であったというほかあるまい。
実際、3月9日(月)に米長期金利(米10年物国債利回り)は1日で50%以上という歴史的な下落幅と変動率を記録したから、米ドルの全面安も連動する形で問答無用な進行がみられ、ドルインデックスは94.61の安値まで突っ込んだわけだ。
(出所:Bloomberg)
米ドル/円の下落自体が「米ドル安・円高」の同時進行なのに、あえて「円高ではなく米ドル安」と言うのは、思考のロジックを明確化するメリットがあるからだ。
言ってみれば、ユーロ/米ドルが3月9日(月)において、一時1.15ドルの節目手前まで迫る急上昇が見られたように、米ドルが全面安となり、米ドル/円と米ドル全体の相関性が非常に高い時期において、円はあくまで受動的だった。ゆえに、米ドル/円の一時の下放れは、円高ではなく米ドル安が主な原因であった。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
そうでない場合、つまり、円高に主導される相場であれば、ユーロ/円はより激しい暴落を演じるはずであった。
しかし、執筆中の現時点では、ユーロ/円は月曜(9日)に記録した115.88円の安値より2円程度上にあり、9日(月)の安値も2019年9月安値とほぼ同じ水準を保っていた。
換言すれば、米ドル安が主体となる相場において、米ドル/円相場は米ドル全体の値動き次第だったので、このときの円高は「ホンモノ」ではなかった。
ゆえに、翌日(10日)からドルインデックスが切り返し、米ドル/円もリンクしたように切り返してきたから、1日で下放れの幅をほぼ帳消しにしたわけだ。
(出所:Bloomberg)
■米長期金利が切り返した理由は「下がりすぎ」だったから
その背景には、米長期金利の切り返しがあったというほかあるまいが、米長期金利が株安と連動しなくなった原因は、単純に言えば下がりすぎであったからだ。米長期金利は、2020年年初高値の1.946%から9日(月)安値の0.318%まで、実に83%以上の大暴落(つまり国債価格の大急騰)も演じてきたから、もうクライマックスに達したのではないかと疑われる。
(出所:Bloomberg)
したがって、目先を含め、米長期利回りの反騰、また、それとリンクした米ドル全体の反騰は、行きすぎた値動きへの反動とみれば、ほぼ間違いないだろう。
■米ドルの全面切り返しは「恐怖の米ドル買い」によるもの
一方、米ドルの全面切り返しは、これだけでは説明しきれない側面がある。実際、株式市場の総崩れと相まって、金(ゴールド)、原油からビットコインまで、あらゆる資産の総崩れが見られている現在において、「有事の米ドル買い」のみでなく、「恐怖の米ドル買い」が進行したのだと思う。
言い換えれば、米ドルこそ究極のリスク回避先なので、最初は米長期金利の急落と共に米ドルが売られたが、株の急落が進むうち、あらゆる資産がパニック的な売りに晒されるうち、リスクヘッジの米ドル買いが殺到したのも自然な成り行きと言える。市場の恐怖心理が収まらない限り、しばらく米ドル全面高の傾向は維持される公算だ。
いずれにせよ、米ドル/円に限って言えば、今週(3月9日~)の週足で105円の節目前後を維持できるかどうかがなお重要なポイントであり、また、それが確認できれば、市場の内部構造を示唆する重要なメッセージであることを受け止めるべきだと思う。
【参考記事】
●金融市場における恐怖のピークは過ぎた? ドル/円は下がっても週足終値105円前後まで(2020年3月6日、陳満咲杜)
(出所:Bloomberg)
このあたりの検証はまた次回、市況はいかに。
(執筆 13:20)
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