■原油価格暴落がリスクオフの新たな材料に
3月9日(月)の東京市場において、米ドル/円は104円前後から一瞬のうちに101.50円前後まで急落しました。
(出所:TradingView)
新型コロナウイルスの感染が世界中に広まり、各国経済に悪影響を及ぼしていることは周知の事実ですが、サウジアラビアがロシアとの原油減産協議に失敗し、今後、むしろ増産する方向に動いたことで、原油価格が暴落したことがリスクオフの新たな材料とみなされました。
【参考記事】
●米ドル/円、95円が現実的なターゲットに!? 新型コロナに減産協議決裂…リスク満載!(3月9日、西原宏一&大橋ひろこ)
●大きな米ドル安の流れ継続。長期サポートを割り込んだ米ドル/円は100円をトライか!(3月10日、バカラ村)
(出所:Bloomberg)
■原油価格押し下げは米シェール企業潰しが目的
しかし、原油価格の下落は、米国の消費者には良いニュースです。日本も原油を大量に輸入していますから、原油価格が下がれば日本経済には間違いなく良いでしょう。
それでは、なぜ原油価格下落が米国経済にマイナス視され、株価下落、米ドル/円暴落のトリガーとなったのでしょうか?
それは、サウジアラビアの原油価格押し下げは、米シェール企業潰しが目的と見られたからです。
米国内でシェールオイルの生産が盛んになってきたのはここ数年です。
当初は産油コストが高かったのですが、産出技術が進み、40~50ドル台にまで産出コストが下がってきているとの話になっています。シェールオイルの増産の結果、米国は今や世界最大の産油国です。
【参考記事】
●住友商事・高井裕之氏に聞く原油相場(2) 原油価格は40ドル-60ドルのレンジ相場へ(2016年9月03日)
●もし、パウエルFRB議長解任なら株高に!? 2019年のテーマは米国経済失速でドル安(2018年12月24日、西原宏一&大橋ひろこ)
サウジアラビアやロシアなどが構成する「OPECプラス」(※)は、協調減産を行って原油価格維持に努めてきましたが、いくら減産しても米シェール企業が増産するので、原油価格はさっぱり上がりません。
もう、少々減産しても効かないとロシア側は思ったのでしょう。サウジアラビアとの協議で減産を拒否しました。
そこで怒ったサウジアラビアが採った戦略が、石油価格を意図的に押し下げることです。もう露骨にシェール企業を潰しに来ています。
(※編集部注:「OPECプラス」とは、OPEC(石油輸出国機構)にOPEC非加盟の主要産油国を加えた枠組みのこと)
■シェール企業に影響があるのは半年から1年後
ただ、一時的に原油価格を下げても、シェール企業の方も資金繰りさえ大丈夫だったら潰れません。
そうなると、目的達成のためには、低い原油価格をある程度長期間、半年なり1年程度維持する必要が出てきます。
(出所:Bloomberg)
シェール企業が経営困難に陥った時、どのようなインパクトが米経済に加わるのか。それは、その会社がどこから金を借りているかによります。
銀行から借りていれば、銀行が損失を被るので引当金を積み上げ始めます。社債(ジャンクボンド)であれば、社債の価格急落から、他の会社の借り入れコストも上昇し、経済に悪影響を及ぼし始めます。
大手米銀の企業向け与信のうち、5%がエネルギー企業と言われています。また、ハイイールド債やレバレッジ債のうち、5~10%がエネルギー企業と言われています。この程度の割合なので、普通のマーケットであれば、大したことはないのですが、今は新型コロナで脆弱なときなので、ちょっとしたことで、大きな反動となります。
大手銀行の与信が引き締まると、連鎖的に潰れる企業も出て来ます。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)も最近上昇してきています(※)。
シェール企業に影響があるとしても、すぐではなく、それは半年から1年後ぐらいの話でしょう。でも、そのときの経済を確実に冷やすと思われるので注意が必要です。
(※編集部注:「CDS」とはデリバティブ(金融派生商品)の一種で、企業や国の信用リスクを売買するもの。CDSが上昇しているということは、企業などの破綻リスクが高まっていると市場が見ていることを意味する)
■米経済にかかる「レバレッジ」とは?
米経済にはさまざまな形で「レバレッジ」がかかっています。
株価が高かったのも、「トランプ大統領は再選のために株価を維持したいはずだ」「何かあれば、FRB(米連邦準備制度理事会)を使って必ず利下げする。だから大丈夫だ」「2020年は企業業績が上向くことになっている。だから先回りして買っておこう」といったロジックです。
米企業の競争力もありますが、かなり楽観的な前提に立って、レバレッジをかけながらロングを積み上げてしまいました。
【参考記事】
●俺の手から血が吹き出るまで買う! 米国株の強さの理由はトランプの「信用」にあり!(2月5日、志摩力男)
●下品なツイートを浴びせるトランプ大統領が作り出す米国株バブルはいつ崩れる?(2月12日、志摩力男)
また、「レバレッジ」がかかっている例として、VIX先物のトレードがあります。
(出所:Bloomberg)
VIX指数は別名、恐怖指数と言われていますが、これはもともと米国株のオプションの値段(変動率)を指数化したものです。ですから売買できません。
ところが、これを売買したい需要があるので、オプションしかないマーケットから無理やり先物を作りました。
よって、価格急変動の際は、すごく脆弱です。VIX先物と逆に連動するETF(※)などの価値があっという間にゼロ近くになることがあるのは、もともとそういうものだからです。
(※編集部注:このようなETFには、NYSEアーカ取引所に上場されているSVXY(プロシェアーズ・ショートVIX短期ETF)などがある)
【参考記事】
●NYダウ、史上最大の暴落にVIX指数の影。ビットコインも真っ青。2日で96%下落って!?(2018年2月8日)
■目に見えないレバレッジやローンで大変なことになる!?
銀行はリーマン・ショック後に規制がかかり、リスクを積極的に取れなくなっていますが、その間隙を突いて、大手ファンドやヘッジファンドがプライベート・エクイティを使って与信事業をしています。
これがシェール企業などを始め、さまざまなネット企業などにローンを出しているので、何かあった場合はヘッジファンドが大きく損失を被る形になっていますが、それは表に出てこないようになっています。
新型コロナで少しマーケットが揺れましたが、レバレッジが見えない形でかかっていること、与信などが銀行を回避し、規制当局の目を逃れる形で伸びていることで、何かあった場合は大変なことになる可能性を秘めています。
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