米債務上限問題とは?
「米債務上限問題」とは、米国(アメリカ)の連邦政府が国債を発行して調達する債務(借金)の金額(米連邦債務)が、定められた上限に近づいたり到達したりすることによって、米国の財政赤字の拡大や、財政問題そのものが懸念される問題のことをいいます。
米国では1917年に成立した関連法によって連邦政府の債務の上限(Debt-ceiling)が定められており、その上限を超えると新たに国債を発行して資金を調達することができなくなります。そのため、連邦債務が定められた金額の上限に達しそうになる、または達してしまった場合は、原則として議会で法案を成立させ、国債発行金額の上限を引き上げる必要が生じます。
2011年、2017年、直近では2023年にも、債務上限問題が話題になり、たびたび注目されています。しかし、米国では1960年以降、これまでに80回ほども連邦債務の上限引き上げ、凍結、改定などがおこなわれており、債務が上限に達するのは決して珍しいことではなく、定期的に起こる出来事ともいえます。
米国の連邦債務が上限に達するとどうなるのか?
米国の連邦債務が法定の上限に達すると、財源が枯渇して政府機関の一部が閉鎖され、政府職員にレイオフ(一時的な解雇)や自宅待機が命じられるほか、給与の振り込みが凍結されることがあります。その結果、国立公園、観光名所、博物館、図書館などの国が管理する施設の休園や、貿易手続きの遅れ、重要な訴訟の審理が延期される事態も過去にはありました。
このような連邦政府サービスの休止は、国民生活に影響の少ないところからおこなわれていきますが、仮にそのような状態が長く続くことになれば、じきに社会保障や国防などといった、国家の維持に重要な支出ができなくなる可能性が生じるばかりでなく、最終的には国債の利払いや償還が行えない「デフォルト(債務不履行)に陥ることにもつながります。
こういったことから、この問題は「米債務上限引き上げ問題」と呼ばれることもあります。
米債務上限問題が注目されるようになったのは、
2011年のS&Pによる米国債の格付け引き下げが原因か
近年になって、金融市場だけでなく、国際的にも米債務上限問題が話題になることが増えたのは、2011年にオバマ政権が債務上限の引き上げに関する法案を成立させた数日後に、大手格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、財政状況の悪化懸念を理由に米国の長期発行体格付けを最上級の「AAA(トリプルA)」から「AA+(ダブルAプラス)」へと、1段階引き下げたことが原因とも考えられます。
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このときは、債務上限の引き上げに関する法案が成立したあとに格付け会社が格下げしたことで、金融市場では米国株や米ドルが大きく下落したりする、「米国債ショック」とも呼ばれる混乱が生じました。
米国債(米国の国債)は、世界の安全資産の代表格ともいえる存在です。その米国債が最上級の格付けから滑り落ちてしまったことが、市場参加者の不安心理を増幅させる結果につながり、結果としてこの一件があって以降、米連邦債務が上限に近づくと、市場では米債務上限問題が今まで以上に意識されるようになったと考えられます。
また、2008年のリーマンショック後におこなわれた、財政・金融の大規模な緩和政策などで米連邦債務が大幅に膨れ上がった結果、米国の議会で財政の健全化を求める声が強くなり、米連邦債務の上限引き上げをめぐる与野党の意見がなかなかまとまらず、対立が長引いて必要な承認に時間がかかるようになったことも、近年、米債務上限問題への注目が高まっている理由のひとつといえるでしょう。
米国がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性は極めて低い!
債務上限問題で、トレーダーが気をつけるべきこととは?
直近では、2023年5月1日(月)に米国のイエレン財務長官が、早ければ1カ月後の6月1日(木)にも財務省の資金が枯渇してデフォルトに陥る可能性があるとの見通しを示して議会に対応を求めたことで、「米債務上限問題」が再び話題となっています。
米債務上限問題に警鐘を鳴らすイエレン米財務長官。写真はFRB議長時代のもの (C) Bloomberg/Getty Images
しかしながら、米連邦債務の上限については議会で法案を成立させて引き上げる方法だけでなく、一時的な上限の適用停止、一定期間は通常の国債発行を認める暫定延長、財務省による特例措置などの、さまざまな回避手段が存在します。
そのため、債務上限への到達が即座に米国のデフォルトを意味するわけではありません。また、米連邦債務が膨らむことによって、米国の財政状況そのものが懸念されたり警戒されたりする可能性は否定できないものの、議会が最終的に米国のデフォルトを選択する可能性は極めて低いことから、米債務上限問題そのものがマーケットに与える影響は、通常であれば一時的なものと考えられています。
もっとも過去の経験からも、金融市場ではこの「米債務上限問題」がいったんの決着をみるまで、関連するニュースヘッドラインなどを材料に、相場が荒っぽく動くことは十分に考えられます。トレーダーは、そのことを念頭に置いて取引に臨む必要があるでしょう。
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