■金高騰=米ドル安なら、ドルインデックスは70台以下のはず
しかし、視点を変えれば、このような言い方は大袈裟な側面も大きい。まず、ドルインデックスは3月高値からずいぶん落ちてきたが、2008年安値より3割程度高い水準にあり、金に対する米ドルの価値に凄まじい毀損があったと言うなら、円も含め、その他の外貨もすべてそうであったことは見逃せない。
換言すれば、米ドル建て金の高騰を、単に米ドル安の視点のみでは完全に捉えることはできない。
前回の本コラムでも取り上げたように、そもそも金の史上最高値更新が続いていた状況において、米ドル全体は急落してきたものの、2008年安値より3割も高い水準にあること自体が強気のサインとさえ解釈される。
【参考記事】
●今年は“キンチョウの夏”にならない!?米ドル/円104円割れのリスクは大きく後退(2020年8月14日、陳満咲杜)
金の高騰を単純に米ドル安と結論付けるロジックのままだったなら、今、ドルインデックスは92前後ではなく、2008年安値70.80を大きく割り込むレベルに陥っているはずだ。
(出所:TradingView)
そうなるどころか、ドルインデックスが3割も高い水準にあること自体、強気サインと見なされ、また、単に3月高値が高かったと言えるのではないだろうか。ちなみに、3月高値が高かったという視点は重要で、そこにはより深いロジックが潜んでいるから、また別途詳しく検証したい。
■中国人民元が米ドルに取って代わるなど笑止千万
もう1つ大事なのは、米ドル崩壊云々の論調の多くは、米ドルの基軸通貨地位の消滅論とリンクしているところが根本的に間違っているということだ。
その論調は、戦後為替市場の発展とともに、また、米ドル価値の低下とともにたびたび盛り上げられ、また、もてはやされてきたが、完全に外れてきた。
米ドルの基軸通貨の地位はいまだに安定している。また、米ドルに取って変わる通貨が見当たらないことは事実であり、これから相当長い期間において見つからないことを心得るべきだ。
ユーロが誕生してから、特にリーマンショック前後において、ユーロが米ドルに取って変わって基軸通貨になる論調も盛んだったが、見事に外れたことは記憶に新しい。そして、今度は中国人民元の番だとはやされ、日本でも一部のセンセイたちは中国人民元が台頭し、米ドルに取って変わることを予測しはじめ、また、それを根拠に米ドルのさらなる大幅下落を言い始めている。
中国出身の筆者に言わせれば、こういった見方は笑止千万だ。彼らは全く中国の本質を理解せず、また、国際金融の本質をわかっていないから、こういった机上の空論を展開するだけの話だ。
中国人民解放軍が、「国防軍ではなく中国共産党の党衛軍」であることと同じく、資本の自由移動が許されない中国人民元は、「中国の通貨であるよりも中国共産党の通貨」であることから、米ドルに取って変わって世界の基軸通貨になるなどというのは、軽はずみな戯言というほかあるまい。
要するに、金の高騰と共に、中国人民元が米ドルに取って変わって基軸通貨になるから、米ドルの長期下落が避けられないといった論調が受け入れられつつあるが、これはコロナショックで日米株が暴落し続けるといった視点以上に、的を外しているから、無視していいと断言できる。その上、このことは実は米ドル全体の底打ちが間近と思われる証拠でもあるかと思う。
対米ドルのロングポジションが過大に積み上げられてきたユーロの動向は最も要注意だ。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
市況はいかに。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)