6月3日(金)発表の米国雇用統計が重要であることは、当然である。その結果しだいで米国の景気状況がどうなっているかを探り、FRBの次の一手を推測したいと考えている市場関係者は多い。
言い換えれば、足元で強い切り返しのモメンタムを見せているユーロでさえ、根本的なところでは、米国の「QE3」の思惑に依存しているところが大きい。ECBの利上げの有無は二の次である。
したがって、「QE3」に関する思惑が、果たして本物かどうかが肝心なテーマとなってくる。
■米国の現状は日本のバブル崩壊後に似ている
米国人からすれば、「QE2」で6000億ドルもの巨額な資金を納税者に負担させたにもかかわらず、それ相応の効果が出ているか、疑問に思う人は多いのかもしれない。
「QE2」は計画どおりにこの6月で終了するが、バーナンキ議長が言うほど、米国経済を軌道に乗せることに寄与したと言えないことは確かだ。
経済指標に基づく計算では、仮にすべての新規雇用が「QE2」の効果で創出されたとしても、70万の新規雇用のコストは1件につき85万ドルであり、その効果は疑わしい。
その一方で、米国の不動産市況は再び深刻なほど悪化しており、日本のバブル崩壊後の状況を彷彿とさせる。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国経済指標の推移)
その半面、株式市場のほうは繁栄を極めている。リーマン・ショック以前のレベルを回復しただけでなく、「renren.com」や「LinkedIn」といった銘柄の新規上場が大成功を収めたことが象徴するように、ウォール街は「チャイナ」と「SNS」をキーワードに、巨大なバブルに沸いている。
ちなみに「renren.com」は中国最大のSNSだが、ツイッター同様に中国では「facebook」に接続できないため、「facebook」のパクリとも言われている。この「renren.com」の米国本土上場と大成功は何とも皮肉な事例だが、米国の資本市場の奥深さをうかがわせる好例であるとも言える。
■「QE3」が現実のものとなるにつれ、米ドル全面安は加速へ
酷な言い方をすれば、皮肉にも、「QE2」の恩恵を最も受けているのは先の危機を引き起した人々で、米国経済自体は言われているほど改善していない。
また、米ドルの価値と地位を犠牲にしてまで推し進められた金融緩和政策であるだけに、株価上昇が「米ドル安」の反映といった側面もあることを忘れてはならない。
実際、米ドル以外の通貨で計算すれば、米国株の上昇幅は大部分が帳消しになる。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:各国GDP成長率の推移)
米国の成長率は、昨年夏は2.6%を維持していたが、足元では1.8%しかない。だからこそ、バーナンキ議長は次の一手の明言を避けている。
不動産価格の下落に加え、雇用統計が確実に悪化してくれば、日本のデフレ研究の大家を自他ともに認めるバーナンキ議長が「QE3」に踏み切る可能性は、小さくはないだろう。
「QE2」が効かないから「QE3」を行うという発想が幼稚すぎると批判されても、米国経済の状況しだいでは、麻薬中毒者のごとく、麻薬の毒を知りつつも、FRBは麻薬の誘惑から抜け出せなくなるだろう。
これこそが、市場関係者が本当に危惧せざるを得ないところだと思う。
マーケットは現在のところ、米国の「QE3」の可能性に半信半疑になっている。だが、それが現実のものとなるにつれ、米ドルの全面安が一段と進む可能性は大きい。
すでに、ウォール街の市場関係者は「QE3」に備えており、彼らの思惑が的中する可能性が高いと見ている。
そのあたりのことは、また次回!
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)