■米国で悪材料続出でも、米ドル安は限定的になっている
足元の為替市場では「米ドル安」が進んでおり、ドルインデックスは74.22前後まで下げ、ユーロ/米ドルは一時、節目の1.4500ドルを上抜けた。
先週のコラムでも指摘したが、マーケットは米ドルの地位そのものに対する疑問を深めている(「なぜ、リスクの高い『PIIGS』絡みの債券が人気化するのか? 中国が買うワケは?」を参照)。
最近の米国サイドの材料を見ていると、足元の「米ドル安」のスピードは必ずしも激しいとは言えず、むしろ、限定的な値動きにとどまっている印象が強い。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
最近、米国サイドから出てくる材料には悪いものが多い。米ドルは「四面楚歌」の状況に置かれている。
具体的には、以下のとおりである。
・楚歌その1…米上院における、米国債の債務上限引き上げ案の否決。
・楚歌その2…5月分のADP雇用統計が示す、米雇用環境の大幅悪化。
・楚歌その3…S&Pに続き、ムーディーズも米国のソブリン(国家に対する信用リスク)格付け見通しの下方修正を示唆。
・楚歌その4…FRB(米連邦準備制度理事会)が「QE3(量的緩和政策第3弾)」の発動に踏み切るというウワサ。
この「四面楚歌」のうち、「楚歌その4」は最も「殺傷力」がある。現実のものになれば、米ドルの大幅安は避けられない。
■「米ドル安」のスピードが穏やかなワケは?
しかし、足元で進行している「米ドル安」のスピードから考えれば、マーケットがこのウワサの信ぴょう性を、必ずしも確信しているとは言い切れない。
6月3日(金)の雇用統計をはじめ、今後発表される米国の各種経済指標を見てからFRBのスタンスを推測しようとしている市場関係者が多いのだと思う。
もっとも、米国の経済成長に占める内需の比率は大きく、そのために、雇用統計が米国の景気の行方を占う重要な役割を果たしていると言える。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国経済指標の推移)
だが、ADPの統計モデルは米国の労働省のものとは異なっており、経験上、両指標がカイ離するケースもこれまで多かった。
ゆえに、米国の雇用環境が本当に悪化しているという感触をつかめないうちは、様子見としていたい市場関係者は多いはずだ。これが、「米ドル安」のスピードが意外と穏やかなものとなっている原因であろう。
■ユーロとスイスフランは対米ドルで上昇しているが…
さて、ユーロサイドを見てみると、先送りされているとはいえ、ドイツの譲歩が予想される中で、ギリシャの財政問題がいったん解決しそうな兆しが見えてきている。
加えて、ECB(欧州中央銀行)の利上げ観測が再び高まっており、足元で進行しているユーロ/米ドルの切り返しは当然の成り行きだろう。
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