実際のところ、欧州のソブリン危機の深刻度が増すにつれ、それは急速に世界景気に深い影を落としている。
よって、今回の日米欧中銀の協調行動は欧州を助けるのみならず、自らを救うという意味が大きい。日米の景気腰折れのリスクが強まっているなど、それぞれで事情は多少違ってくる。
■なぜ、米国はメルケル独首相に勲章を授与したのか?
米国の場合、現状では、オバマ大統領の任期が1期、この4年間だけで終わってしまう可能性がかなり高まっているため、欧州発のソブリン危機の連鎖は何としても止めたいことだろう。
米国の景気を回復させ、雇用環境を軌道に乗せていく必要があり、その意味では支援を惜しまないところだろうが、自国の財政削減案さえ議会でまとまらないような状況では、欧州に資金面で支援する余地はほとんどない。
だから、ドイツのメルケル首相が11月28日(月)にワシントンに到着するやいなや、オバマ大統領はわけもわからないまま、メルケル首相に大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)を授与したのだ。
本来、この大統領自由勲章は、アメリカ合衆国のために目覚ましい仕事をした人に贈る、日本の「国民栄誉賞」のようなものである。
その点で、ドイツの首相に授与されたということは、メルケル首相が米国、強いてはオバマ大統領に、これから「目覚ましい仕事」をしてくれるよう強要していると見ることができる。
要するに、渦中のドイツよりも米国のほうが危機感が強く、ドイツの譲歩なしでは欧州の財政問題を解決できないことを、米国が承知しているということだ。したがって、メルケル首相を懐柔する必要がある。
過去に、オバマ大統領もノーベル平和賞を受賞したことがあった。皮肉にも、このこともオバマ大統領を持ち上げて、核兵器を消滅させようといった大きな目標を成し遂げることを画策したものであった。
だが、オバマ大統領は内政・外交ともに口先だけで、「YES、We can」とのスローガンとは裏腹に、実際は何もできなかった。
今回も、オバマ大統領に対する平和賞の授与と同じように、メルケル首相への勲章の授与も、大きな効果は望めないだろう。
■ドイツの譲歩なしでは世の中は良くならない
ドイツはかたくなに、次の2点に対して反対している。1つ目は、ECB(欧州中央銀行)が最後の貸し手という役割を果たすことで、もう1つは「ユーロ共同債」の導入と債券の発行だ。
しかし、この2つの方法以外、つまり、ドイツが自国の利益を犠牲にする以外に、欧州のソブリン危機を根本的に解決できる道がないことは、ハッキリ言える。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
ドイツの立場が修正されないかぎり、世の中は良くならない。そればかりか、時間の推移とともに危機がますます破壊力を増し、最後はとんでもないクラッシュを招いてしまうだろう。
したがって、筆者は自身の無料メルマガで繰り返し「ネクスト・クラシュ」の可能性を指摘してきたし、来るべき深刻な景気後退への覚悟が必要だと強調してきた。
■短期スパンでは、ユーロ買いがさらに進む可能性も
ここまで悲観的になるのは、経済の問題だけではなく、政治問題の側面も大きいためだ。世界を見渡して、本当のリーダーシップを発揮することができる、真の意味での「政治家」は見当たらない。
各国ともに、現在の「指導者」は自国の利益と党略私利に執着する「政治屋」ばかりである。古き良き時代が過ぎ去っていくにつれ、英雄が誕生しなくなることを覚悟すべきなのかもしれない。
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