(「JPモルガン・佐々木融さんに聞く(6) スイス中銀の介入が成功と言うには早い」からつづく)
■円売り介入を終了すると円高が終わるという皮肉な現象
ところで、「円売りの為替介入では円安にはできない」という見解の佐々木さんだが、それと同時に「円売り介入を終了すると円高が終わるという皮肉な現象が過去に起こっている」ことを佐々木さんは指摘する。
1993~1995年がそうだし、2003~2004年がそうだというのだ。
(出所:財務省、JPモルガン・チェース銀行)
(出所:財務省、JPモルガン・チェース銀行)
上のチャートを見ると、確かに両方とも大規模な円売り介入をやめたあと、皮肉なことに相場が円安方向へ動いている。
今回は2010年9月以降、4回に渡る大規模介入が行われ、さらにそのあと、2011年11月初旬に覆面介入が行われていたことが明らかになっている。
佐々木さんが指摘するとおり、確かに2010年9月以降の介入では、一時的に円安になっても、大きな円高の流れを止めることはできなかった。
では果たして、2011年11月初旬の覆面介入が最後の介入となって、過去の事例のように、これから円安が進んでいくことになるのだろうか?
(出所:財務省、JPモルガン・チェース銀行)
またも皮肉な展開になれば、何だかおもしろいが(?)、佐々木さんはこれからの米ドル/円は円安が進むのではなく、まだ円高が進むという見立て。それについて詳しくは後述する。
では、ここからは、今年(2012年)年末までについて、佐々木さんの為替相場見通しを聞いてみよう。
■欧州問題が落ち着けばユーロ/米ドルは1.5ドルまで上昇か
まず、ユーロについてはどうだろうか?
「欧州問題が片づかないうちはユーロ/米ドルもユーロ/円も下がる余地があるでしょう。ただ、欧州問題が落ち着いたあと、ユーロは相当買われるのではないかと考えています。
というのは、今はユーロから逃げている人が相当いるので、ユーロ圏が普通の状態に戻ったときのユーロ買い戻し圧力がかなり強いと思っているからです。
先ほども申し上げたように、ユーロ圏では各国でバラバラな国債を発行しているのが問題なので、最後はドイツがユーロ共同債を受け入れることで解決するというシナリオを考えています(「JPモルガン・佐々木融さんに聞く(4) 日本が財政赤字問題で円安に至る3段階」参照)。
ユーロ圏の問題が解決したら、ユーロ/米ドルは1.5ドル程度まで上昇しても不思議ではないと思います」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
ユーロ/米ドルの1.5ドルというと、今よりもかなり高い水準。ユーロ問題が本格的に落ち着けば、相当なユーロ上昇がありそうというのが佐々木さんの見立てだ。
次に気になる米ドル/円はどうだろうか?
■米ドル/円は再び80円を割り込んでいく!
次に気になる米ドル/円はどうだろうか?
「欧州問題が落ち着いて、みんながリスクテイクを始めると、米ドルと円が両方弱くなるでしょう。
通常、リスクテイクの流れでは米ドルと円はそのように動くからです。ただ、その両者では米ドルのほうが弱くなる結果、米ドル/円は下がっていくと考えています。
2月に入ってからの米ドル/円の急激な上昇が、介入終了後の中長期的な米ドル/円上昇とみることもできないわけではありませんが、全体的なファンダメンタルズに変化がないことから、中長期的な米ドル/円の下落トレンドは変化していないでしょう」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
目下の米ドル/円は上昇基調にあるが、再び80円を割り込んでいくというのが佐々木さんの予想なのである。
■豪ドルは世界中の投資家の注目を集めつつある
佐々木さんのユーロ/米ドル、米ドル/円についての見通しは以上のとおりだが、その他の注目通貨として、佐々木さんは豪ドルを挙げる。
「リスクテイク嗜好が強くなる局面で強いのはやはり豪ドル。
コモディティ価格が上がってきているということで、豪州は貿易収支が改善しているんですね。豪州は貿易赤字国から黒字国になってきて、資産運用先として注目を集めています。
豪ドルに注目しているのは日本の個人投資家だけではないんです。外貨準備の運用先を含め、豪ドルは世界中の投資家の注目を集めつつあります。米ドルやユーロをずっと持っているのはイヤだという資金の受け皿になっているんですね。
豪ドル/米ドルは1.2ドルぐらいまで上がっていくのではないでしょうか」
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/米ドル 週足)
■日本では為替に関する感情論が多い
では、本シリーズ記事の最後に『弱い日本の強い円』の著者・佐々木融さんから読者へのメッセージをお伝えしよう。
「為替相場は経済、ビジネス、投資などさまざまな重要分野に関係していることなのに、現実に起こっていることに沿っていない解説が多いと思います。
為替相場がどうして動くのかについて、現実的な資本取引の流れなどに沿って理解を進めていく必要があると思います。
あと、私が1つ思うのは、日本では為替に関して感情論が多い気がします」
「米ドル/円が100円を割れそうなとき、95円を割れそうなとき、90円を割れそうなとき、『日銀/財務省はこのレベルを死守する』とか、『このレベルを割れると輸出企業は崩壊する』とかいう人が必ず出てくるんですよ。
相場は『こう動いたら、○○になっちゃうから、そうはならない』というふうには動きません。
これは個人投資家に限らず、事業会社もそうなんですが、『こう動いたら、○○になっちゃうから、それに対する対策はどうしたらよいだろう』と冷静に考えるべきだと思います」
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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