■神経質な相場自体が「天井」相場の特徴
米ドル/円は一気に119円の大台に接近。前回のコラムにて提示した上値ターゲットとの整合性から考えて、本日(11月21日)、一転して反落していることも納得できるかと思う。
【参考記事】
●ドル/円の上値メドは119.4円だが、円安が「解散クライマックス」となる可能性も…(2014年11月14日、陳満咲杜)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)
1998年の前例に基づき、そもそもこのあたりで、5年移動平均線からの最大乖離となるから、高値警戒感が強まるわけだ。
米ドル/円の急伸は、黒田日銀総裁の緩和政策継続示唆や政府の円安容認といった思惑を背景にしていたが、本日(11月21日)の下落は、麻生財務相による円安牽制に刺激されたところも大きい。こういった、思惑や高官発言に左右される神経質な相場自体、「天井」相場の特徴と言えよう。
■「前例がない」から円安が一段と進行するというのは疑問
ところで、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も含め、円安スピードが速すぎたかどうかについては、見方がわかれるところだ。
どちらかというと、「前例のない日銀緩和政策のもと、過去の相場に基づく計算が役に立たない。ゆえに、円安がオーバーしたからこそ、これから一段と売られる」という理屈が流行っているようだ。
いわゆる、円売り自体が円売りを呼ぶ「理屈が通じない」相場ということになるため、米ドル/円で130円とか140円という予測も現実的なターゲットとして語られている。
確かに、黒田総裁が推進している異次元緩和政策は前例がなく、またコントロールできないほど円が暴落する可能性も否定できない。
しかし、より長い視点をもって見ていけば、今、巷で言う「前例なし」という「殺し文句」も、実に繰り返し使われてきたことがわかる。
■1998年の円安は、アジア通貨危機に端を発した
前回のコラムで指摘したように、5年移動平均線ともっとも乖離した円安相場は、1998年であった。
【参考記事】
●ドル/円の上値メドは119.4円だが、円安が「解散クライマックス」となる可能性も…(2014年11月14日、陳満咲杜)
では、1998年の円安相場が、前例のある普通の相場だっただろうか。日本ではFXという金融商品が始まったばかりの頃だから、ちょっと思い出す方が少ないかもしれないので、さかのぼってみてみたい。
ネットでちょっと検索してみればわかるように、1997年7月、タイを中心にアジア通貨危機が発生し、アジア各国が急激な通貨売り攻撃(主に米国のヘッジファンドに)にさらされ、通貨暴落を余儀なくされた。
その結果、タイ、インドネシアと韓国がIMF管理下に入り、日本も融資の焦げ付きが多発し、円の急落をもたらした。
(出所:米国FXCM)
それだけではなく、アジア通貨危機が翌年(1998年)、ロシア通貨危機を引き起こし、これが1999年初頭のブラジル通貨危機につながったほどの大事件であった。
■1998年の円安時も、さらなる円安進行予想が大半だった
1998年の円売りは、こういった前例のないパニックのなかで進んでいたので、当時も多くの方が、今と同じ言い方をしていた。
すなわち、「前例のない状況だから、前例のない円安が進み、円の暴落もコントロールできなくなるだろう」といった具合だ。
実際、1997年6月安値111.25円から1998年8月高値147.63円まで36円超の円安となり、1年ちょっとの期間における円安のスピードは、今回(2011年戦後最安値75.56円から2014年11月20日高値118.97円まで3年ちょっとで43円の値幅)を超えるものだった。
この意味では、今回の円安は前例なしとは到底言えないと思う。
筆者は、当時すでにFX業界に身を置き、新人であったため、毎日内外の為替レポートを読みふけっていたが、印象深いのは、やはり当時内外とも、さらに一段の円安進行(160~170円とか)を予想する専門家が多く、また、コンセンサスにおいて圧倒的な存在だった。
しかし、その後の相場はどうなったかというと…
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