(「元プロップディーラーの2015年為替予想。米ドル/円は125円へ! 高金利通貨も注目」からつづく)
為替ディーラーのなかでも特殊な存在が
FXの世界でよく目にする「為替ディーラー」の肩書き。でも、為替ディーラーのなかにも「ディーラーの王様」あるいは「ディーラーのなかのディーラー」とも呼ぶべき職種がある。何気なく「あ~、為替を取引するプロね」なんて思ってしまうが、ディーラーにもいろんな種類があるのだ。
「ひと口に為替ディーラーといっても大きく分けて3種類があります。カスタマーディーラー、インターバンクディラー、プロップディーラーで、それぞれに役割が違うんです」
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そう話すのは、みずほ証券投資情報部のチーフFXストラテジスト、鈴木健吾さん。
現在はFXストラテジストという立場の鈴木さんだが、2011年までは為替ディーラーとして、インターバンク市場で活躍してきた。為替ディーラーの中でも、自分の裁量でトレードする「プロップディーラー」として、10年以上の経験を持つ。
前回はそんな鈴木さんに為替相場の見通しを聞いたが、今回は鈴木さんがプロップディーラーとして、どんなトレードをしてきたのか、そのトレード術について聞いてみた。
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為替レートを決めるのもディーラーの仕事
3種類の為替ディーラーの役割の違いを理解するために、まず、為替ディーラーの仕事について整理しておこう。
為替ディーラーというと、僕らと同じように「上がり下がりを予想して、取引して儲ける人」みたいなイメージがあるのでは。それも間違いじゃないんだけど、役割はそれだけじゃない。
「輸出入企業や年金機関、生命保険会社などの注文に応じて外貨を調達したり、外貨を円に交換したりする役割がありますし、『マーケットメイク』も大切な仕事です。注文があったときに為替レートを決める役割です」
FXで取引されるレートだって、銀行のディーラーが決めたものがもとになっている。刻々と変わる注文状況や他社のレートを見ながら、「今ならこれくらいだな」と即座に判断して決めていく。
24時間、為替を取引できるのは地球のどこかでマーケットメイクしてくれるディーラーがいるからだ。
輸出入企業や年金機関、生命保険会社などの注文に応じて、為替レートを決める役割を担う為替ディーラーもいる。
自分の判断で収益を追求する「プロップディーラー」
「売りポジションを大量に持っていたなら、それをさばきやすくするよう、レートを少しずらしたりすることがありますし、自分なりの相場観も入れながらレートは決めていきます。ただ、すべてのディーラーが顧客の注文を受けたり、マーケットメイクをしているわけではありません。
私がやっていたプロップディーラーは基本的にはどちらもやらない。ひたすら、自分の判断で為替を取引して稼ぐだけの仕事です」
戦略を組み立てて取引し、ひたすらに収益を追求するのがプロップディーラー。僕らがイメージするディーラーのイメージにいちばん近いが、プロップディーラーになれるのはほんの一握りの選ばれた人だけなのだ。
ここで、3種類の為替ディーラーの違いをまとめておくと、下表のとおり。
12億円のリスクを背負って取引する!
顧客の注文を持たずに利益だけを追求するプロップディーラーのスタンスって、個人投資家とやっていることは変わらない。ただし、違うのは規模だ。
「私の場合、とっていいリスクは基本的に『米ドル10本分まで』でした。さらにオプションのデルタなどを含めると、多いときは60本分ぐらいのポジションを持つこともありました」
1本は100万通貨。「米ドル10本」ってことは1000万ドル、2014年12月2日現在で、米ドル/円は118円台を中心に推移しているので、1ドル=118円で換算すると、11.8億円……!
注文するときに手が震えそうな額だけど、鈴木さんはどうやって取引してきたのか、聞いていこう。
為替ディーラーのなかでもエリートであるプロップディーラーだった鈴木さんだけど、「勝っているときは『世界はオレを中心に回っている!』と思うし、負けていたら『空が青いのもオレのせい……』と、とことんヘコむ」ところは個人投資家といっしょだ。
中長期ビューをもとに戦略を組み立てる
「プロップディーラーのやっていることは、専業トレーダーの人と変わりません。朝7時すぎに出社して、前日のニューヨーク市場や金利を確認、同僚と意見交換しながら、その日の戦略を組み立てて取引を始めます」
鈴木さんの取引スタイルは基本的にデイトレだ。
「まず取引する通貨ペアですが、ファンダメンタルズ分析をもとになるべくテーマや方向性が明確なものを探します。
今ならば金融政策の方向性の違いが明確な米ドル/円。その上で最初に意識するのは中長期のビュー(見通し)です。今は『2015年には1ドル125円に行くだろう』というビューがあります」
鈴木さんの中長期見通しは前回の記事を参考に。
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「ただ、それだけでは取引できないので手前に落としこんでいく。『中長期には円安が進むだろうが、米ドル/円は8月から11月で20円近く上がってきた。しばらくはもみ合って調整するだろう』と考えたとします。
そうしたら、その日の経済指標や要人の講演予定などを確認して、『指標で落ちたところを買って早めに決済しよう』などと取引のイメージを作るんです」
中長期的な見通しをもとに短期的な戦略へと落としこんでいくプロップディーラーの方法論、ぜひ取り入れてみよう。
ファンダメンタルズは取説、テクニカルは運転技術
「あとはテクニカル分析を使って売買のタイミングを測っていきます。ファンダメンタルズ分析は自動車の取扱説明書のようなもの。『この通貨ペアは上がるでしょう』と書いてあっても、それだけでは目的地には着けません。目的地へ向かうには、運転技術が必要。FXでそれに当たるのがテクニカル分析です」
ファンダメンタルズを自動車の取説、テクニカル分析を運転技術にたとえる鈴木さん。2つが揃って始めて目的地にたどりつけるという。
ファンダメンタルズもテクニカルもバランスよく配合していくことが大切だ。鈴木さんはどんなテクニカルを見ているのだろうか。
「ボリンジャーバンド、一目均衡表、移動平均線、パラボリック……。いろいろ見ていました。そのときどきで効果的なテクニカルは変わりますし、トレンドが出ているのか、もみ合いなのかによっても違う。ひとつの通貨ペアに対して足の長さも変えながら、どのテクニカルが効きやすいのか、探していくんです」
テクニカルの裏にビューを持て!
ひとつのテクニカル、ひとつの足に固執しがちだけど、複数のテクニカル分析のなかから「今の相場で通用するのはどれだろう」と探すのも良さそうだ。
「テクニカル分析は確かに有効ですが、タイミングを測るものに過ぎません。ひとつに固執するのではなく、有効なものを探しながら、かつテクニカルの裏側にしっかりビューを持つことが大切です。
役割によっても使うテクニカル分析は変わりますよね。上昇、下落後の押し目や戻りがどこで終わるかと悩んだとき、目安となるのはフィボナッチ・リトレースメントですし、調整後のもみ合い相場ではパラボリックをよく使っていました」
フィボナッチは取り入れている人も多いだろうが、鈴木さんのようなプロップディーラーも使っていたのだから、やはり有効性は高いようだ。
一方、パラボリックはちょっとマイナーかも。でも使い方は簡単。パラボリックがローソク足の上から下に移動したら買いだし、下から上に移動したら売りだ。
「パラボリックはもみ合ったときの4時間足や2時間足でよく使っていました。ただ、もみ合いだからといって売りも買いもやるよりは、テクニカルの裏側にあるビューにしたがって、中長期的な方向性と一致した方向だけに取引するのがいいですよね。
今の米ドル/円であれば、中長期には円安だろうと予測していますから、もみ合いの天井で新規に売ることはなく、もみ合いの底で新規に買って天井で売って決済するだけ、といったようにです」
「バンドウォーク」は目をつぶってついていく!
もみ合いではパラボリックを見るとして、トレンド相場で有効なテクニカル分析は?
「ボリンジャーバンドですね。プラス2シグマやマイナス2シグマにローソク足がぶつかったとき、逆バリで使う人もいますが、トレンドが出ているときに使うほうが有効だろうと思っています。特に『バンドウォーク』の動きが始まったときは目をつぶってエントリーですね」
ボリンジャーバンドのバンドに沿って、ローソク足が動いていくのが「バンドウォーク」。トレンドが持続しているときに見られるチャートの形だ。
「バンドウォーク」には、ローソク足が±2シグマと絡み合って動いていったり、±2シグマと±1シグマの間を行ったり来たりしたり、±2シグマとセンターラインの間を行ったり来たりするといったようなパターンがある。
こういう動きを見つけたら、そのトレンドの方向へついて行くのが鈴木さんおすすめのトレード法の1つということだ。
市場は神。間違えたのは自分だ
豊富なディーリング経験を持っていて、個人投資家の気分をわかっている鈴木さんだからストラテジストとしても信頼できる。
「基本的に相場には逆らいません。『市場は神であり、間違えない。損をしたら、間違えた自分の責任』だと思っています。そこはディーリング経験のないアナリストとの大きな違いかもしれませんね。
アナリストは自分の言葉に責任を持たないといけないですが、ディーラーは言ったことを平気でひっくり返す。昨日まで強気だった人が今日には売っているなんて日常茶飯事です。『市場が間違えている、自分が正しいんだ』と言い張っても意味がないですから」
今はストラテジストとして情報発信する立場の鈴木さんだが、もしも自分の見通しが間違っていたと判断したときは、きちんとそれを謝って修正していくそうだ。
リーマン・ショック時に5~10分で1000万円儲けた!
最後に鈴木さんにプロップディーラー時代、一番儲かったトレードを聞いてみると、「リーマン・ショックのとき」という答えが返ってきた。
このときは米ドル/円やクロス円が大暴落して大変な相場になったが、相場には逆らわないという鈴木さんだから、やっていたのは当然「売り」。特にNZドル/円を売っていたという。
リーマン・ショック時には「5~10分で1000万円儲かるようなことがよくあった」という鈴木さん。少なからぬトレーダーが修羅場を味わい、文字どおりショックを受けていた裏側で、鈴木さんはきっちり大儲けしていたというわけだ。
そんな経験を持っているプロップディーラー出身の異色ストラテジスト・鈴木健吾さん。そのレポートはみずほ証券の口座保有者向けに提供されているが、ロイターの「外国為替フォーラム」でも月に1回程度、鈴木さんのコラムが掲載されている。見かける機会があったら、ぜひ参考にしてみよう。
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/和田佳久)
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