株式市場では小型銘柄などなら、一人で相場を持ち上げちゃうような人もいる。でも個別銘柄に比べて規模があまりに巨大な為替市場では、ひとりの財力で相場を動かすなんて到底ムリ。
ところが財力ではなく、ペンの力で相場を動かす記者がいる。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)のFED(※)担当記者であるジョン・ヒルゼンラス記者だ。
米国の中央銀行にあたるFEDへの食い込みは世界屈指。誰もがナンバーワンの「FEDウォッチャー」と評するヒルゼンラス記者には過去、相場を動かした実績も多い。
(※編集部注:「FED」とは米国の「連邦準備制度理事会」のこと。日本では「FRB」と略されることが多く、ザイFX!でもそのように表現することが多いが、米国では「FED」と呼ばれているようだ。さらにややこしいことに、「FED」という言葉は「FRB」(連邦準備制度理事会)、「FOMC」(連邦公開市場委員会)、「FRB」(連邦準備銀行)を合わせた「連邦準備制度」を指すこともある。結局、ざっくり言えば、「FED」とは米国の中央銀行のこと。本記事ではタイトル以外は基本的に「FRB」ではなく、「FED」という言葉を使用する)
■ペンで相場を動かすこともあるFEDウォッチャー
たとえば、以下のチャートは2014年9月中旬の米ドル/円相場。このときはヒルゼンラス記者の書いた記事によって、30銭ほども相場が動いた。
ヒルゼンラス記者には、こういったことが過去に何度もある。中銀総裁など金融当局の要人発言で為替相場が動くことはあるが、メディアの特定の記者がこれだけ相場を動かすというのも珍しい。
(出所:CQG)
■ザイFX!連載陣もヒルゼンラス記者に大注目!
過去のザイFX!コラムを見ても、西原宏一さんに今井雅人さん、それに陳満咲杜さんもヒルゼンラス記者の記事を引用している。為替のプロならば、決して見逃さない記者、それがヒルゼンラス記者なのだ。
【参考記事】
●信用残高が過去最高水準に! 米国株の反落を警戒。豪ドルにマイナスの影響あり(2013年10月31日、西原宏一)
●米失業率低下の主因は何か? レンジブレイクのキッカケとなる2つの材料とは?(2014年1月23日、今井雅人)
●テーパリングと同時に何を行うかに注目! 13日の金曜日を前に調整売り出ているが…(今井雅人)
●ウォールストリートジャーナルへの市場の反応は過剰! ユーロプチバブル崩壊へ!(2013年7月26日、陳満咲杜)
そんな専門家の中でも、ブログや連載などでヒルゼンラス記者について数多く言及しているのがロンドン在住の元為替ディーラー・松崎美子さんだ。
「今、間違いなく世界で一番名前の売れているFEDウォッチャーはヒルゼンラス。
FEDも彼の影響力をよく知っているため、彼を通じてマーケットとコミュニケーションを図っている部分もある。彼の記事を読まずして、FEDの政策を占うことはできません。
しかもヒルゼンラスはイケメン。記者会見などで彼を見るのが楽しみでもあります(笑)」(松崎さん)
松崎さんによれば、かつてはグレッグ・イップという記者がFEDウォッチャーとして知られていたそう。でも、2008年に彼がウォール・ストリート・ジャーナルを去ってからは、ヒルゼンラス記者の黄金時代となっているようだ。
■ザイFX!がヒルゼンラス記者の日本講演に潜入!
さて、そんなヒルゼンラス記者がウォッチ対象にしているFEDだが、昨年12月に利上げし、今年も4回程度の利上げが予定されていたはずが、年初から原油価格急落や中国経済の失速とリスクオフに見舞われている。
これじゃ年4回どころか、「利上げが継続できるのか?」、「いやいやマイナス金利の導入もあるんじゃ?」と風向きが急変。先を読むのが難しくなってきた。
まさに今こそ、ヒルゼンラス記者の出番なのだが、そんな中、当のヒルゼンラス記者本人が来日。
ウォール・ストリート・ジャーナルが主催したWSJ Proセントラル・バンキングイベント「ウォール・ストリート・ジャーナルが語る逆風に直面しているFRBと日銀の行方」と題されたイベントに登壇し、ディスカッションを行なった。
ヒルゼンラス記者(左)の聞き手として、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局長のピーター・ランダース氏(右)も登壇。ランダース氏はTBS「情報7days ニュースキャスター」でゲストコメンテーターを務めている
金融機関のアナリストなどを対象にしたこのイベントへザイFX!編集部も潜入することに成功! ヒルゼンラス記者の見通しを聞いてきた。
さらに、その内容を以前からイケメン、ヒルゼンラス記者をウォッチしてきたロンドン在住の松崎美子さんに後日聞いてもらい、感想を寄せてもらって、本記事は構成している。
■米国のマイナス金利導入はあるのか?
「聞かせてもらったヒルゼンラスの話は非常に興味深いところが多かったですね。私が気になっていたのはマイナス金利の導入でした。
というのは、ヒルゼンラスはこの2月に、FEDがマイナス金利を検討しているとする記事を配信しまして、これが事実だとすれば、利上げとは正反対の政策になります。なので、非常に驚いていました」(松崎さん)
マイナス金利導入は本当にあるのか。今回のイベントで、ヒルゼンラス記者はこう話していた。
「FEDがマイナス金利を2010年に検討したことがあったのは事実ですが、あくまでもマイナス金利は金融市場が混乱した時の措置。選択肢のひとつではあるが、実行の可能性はかなり低いでしょう。FEDの次の措置は利下げではなく、利上げです」(ヒルゼンラス記者)
元々2月12日(金)にウォール・ストリート・ジャーナル日本版で公開された「マイナス金利、FRBで『検討している』=イエレン議長」と題されたヒルゼンラス記者の記事(上に画像を掲載)もよく見てみると、記事本文の内容に比べ、記事タイトルが大げさなものになっていた感がある(記事タイトルは記者本人がつけていない可能性も十分ありそうだ)。
世界の金融市場をリーマン・ショック級の津波が襲わない限り、FEDのマイナス金利導入はなさそうだ。
■利上げの議論開始への3条件とは?
次に松崎さんが注目したのは利上げの時期。
「マイナス金利はあくまで緊急避難的な措置だとすれば、気になるのはFOMCが次にいつ利上げするのか、ということ。
次回のFOMCは3月ですが、ここで利上げできると思っている人は誰もいません」(松崎さん)
では今後のFOMC日程を見た上で、ヒルゼンラス記者の予想を聞いてみよう。
(出所:FRBのデータよりザイFX!編集部が作成)
「先物市場でも3月FOMCでの利上げ予想は12%しかありません。その次のFOMCは4月、そして6月ですが、注目しているのは経済指標のデータがどう出てくるかという点。
成長率が安定し、失業率が低水準にとどまり、インフレ、物価が上向いてきてと、3つの条件が揃えば、年央にも利上げの議論が始まるのではないでしょうか」(ヒルゼンラス記者)
■利上げしても3%台後半が精一杯
米利上げに関して、松崎さんが時期の次に注目したのは水準。前回、2004年からの利上げ局面では2006年までの2年間で1%から5.25%まで引き上げた。
「今回はそこまで高くならないでしょう。高くてもせいぜい3%台後半までで、連続的な利上げとはならないでしょう」(ヒルゼンラス記者)
前回の米国の利上げ局面では、日米の金利差が拡大、円キャリートレードが活発になったが、今回はそこまでの利上げはなさそうだ。
(出所:FRBのデータよりザイFX!編集部が作成)
(出所:FRB)
では日本の金融政策、1月に発表されたマイナス金利をFEDは…
(「FRBも驚かせたクロダのマイナス金利! 大物記者が語るイエレン議長の素顔とは?」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/ザイFX!編集部)
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