「WTI上がってる? じゃあカナダドル買おうか」なんて、為替市場とも密接に関係する原油価格。だけど、原油市場の情報って少ない。今後の見通しやポイント、キーマンを探ろうにも情報不足じゃラチがあかない。
そこでザイFX!が頼ったのは、 「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」でもおなじみ、コモディティの案内人・大橋ひろこさん。
大橋さんが「この人に聞けば間違いない!」と太鼓判を押してくれたのは、住友商事グローバルリサーチ株式会社の高井裕之さん!
■トレードもシェールオイルの開発も経験したプロ!
ひろこ 高井さんは住友商事で貴金属やエネルギーをトレーディングするだけでなく、石油開発の現場での経験も豊富。現在は住友商事のリサーチ機関の社長として調査・分析をなさっています。
高井 コモディティばかり36年間、やってきましたからね。
ひろこ WTI原油価格は2014年に100ドルまで上昇して、80~90ドルあたりが居心地のいい水準なのかなと思っていたら、今年(2016年)1月には30ドル割れ。
この数年、価格のブレが非常に大きくなっていますよね。昔はもっと落ち着いていたのに…。
(出所:CQG)
■BRICsの勃興が眠れる原油価格を目覚めさせた!
高井 原油価格は20ドルを挟んで上下10ドルほどのレンジで推移する時代が1980年代から長く続いていました。レンジを抜けてきたのは2003年あたり。中国で資源バブルが発生して以降です。
(出所:住友商事グローバルリサーチ作成)
ひろこ 同じ時期にはインドやブラジルなども台頭してきて、「BRICs(※)」という言葉が生まれましたよね。当時はジム・ロジャースがコモディティの旗振り役となり、原油価格は100ドルを超えていきました。
その後、1回弾けて再び上昇。100ドルからの下落過程では80ドルから90ドルあたりで下げ止まると思っていたら、底が抜けてしまった。新しい要因が出てきたのでしょうか?
(※「BRICs」とは今後、大きな経済成長が見込まれる新興国で、ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)の4カ国の頭文字をつなげた造語。最後の文字「s」を南アフリカとして、計5カ国を指す場合もある)
(出所:CQG)
高井 おっしゃるとおり。大橋さんや私だけでなく世界中の人が80ドルあたりで下げ止まるだろうと思っていました。なぜかといえば、“油”という商品には生産者のカルテルがあるからです。
ひろこ OPEC(石油輸出国機構)ですね。
原油価格の100ドルからの下落過程では、世界中の人が80ドル近辺で下げ止まるだろうと考えていたという高井さん。その背景には生産者のカルテルがあるというのだが…
■転機は2014年11月、OPECが価格調整機能を放棄!
高井 1960年に設立されたOPECは半世紀にわたって価格調整機能を果たしてきました。
原油価格が下がりすぎれば需給を引き締めるために減産して価格を持ち上げる、上がりすぎれば今度は増産して需給をゆるめる――そうやって原油価格を安定させてきたんです。
ところが、2014年11月、OPECは突然「や~めた!」とカルテルとしての機能を放棄してしまった。
半世紀にわたって価格調整機能を果たしてきたOPECだが、2014年11月に突然、カルテルとしての機能を放棄してしまったと語る高井さん。その理由とは?
ひろこ あのときのOPEC会合前、原油価格は下落していたため、「OPECは減産に踏み切るだろう」と思っていたのに、生産枠を維持した。
その結果、原油価格は底が抜けたように下落していきました。そうなることは目に見えていたのに、なぜOPECは減産しなかったのでしょう?
(出所:CQG)
■イギリスに煮え湯を飲まされたサウジアラビア
高井 歴史に答えがあります。OPECの中心であるサウジアラビアは1980年代にも同じ失敗を経験しているんです。
1970年代のオイルショック後、原油は30ドルあたりで高止まりしていました。そこへ突如、新たな産油国が登場したことが波乱要因となりました。新たな産油国とは、どこだかわかりますか?
ひろこ イラン? ベネズエラ? どこだろう……。
高井 今年(2016年)、Brexit(英国のEU離脱)で話題となったイギリスです。北海油田が発見されたのは1970年代。その後、サッチャー政権が北海油田の本格的増産を始めたんです。
サウジアラビアは当初、大した影響はないだろうとナメていた。ところが、イギリスはあっという間に日量300万バレルを生産するまでに開発を進めた。
1970年代のオイルショック後、突如、登場した新たな産油国がどこか大橋さんに質問する高井さん。大橋さんはイラン? ベネズエラ? と原油埋蔵量の多い国を挙げるも、その答えは英国だった。
ひろこ 需給バランスが大きくゆるみますね。
高井 サウジアラビアはあわてました。毎日1000万バレル作っていたのを300万バレルに大減産したんです。ところが原油価格は戻らず、下がり続けた。結果、サウジアラビアは北海油田にシェアを奪われてしまった。
「なんてことだ!」とサウジアラビアは1985年を境に減産をやめて、もとの生産量に戻すと、需給バランスがさらにゆるんで原油価格は10ドル台まで暴落したんです。これが「第一次逆オイルショック」です。
(出所:住友商事グローバルリサーチ作成)
■シェール革命では同じ轍を踏むまいとするサウジアラビア
ひろこ 新参者を排除しようと減産したら、新参者にシェアを奪われてしまった。しかもシェアを取り返そうと増産に転じたら原油価格が暴落してしまった――。つい最近も聞いたような話ですよね。
近年の「シェール革命」でアメリカのシェールオイルが北海油田の代わりを果たした、ということでしょうか?
高井 まさに、そのとおりです。2014年11月のOPEC総会では、私を含め、みんながサウジアラビアは減産するだろうと踏んでいたのに、減産しなかった。
「なぜだ!?」と誰もが首をひねりましたが、第一次逆オイルショックを思い返せば納得です。
新たに台頭してきた北海油田にシェアを奪われた上、原油価格も暴落した記憶がサウジアラビアにはあったからです。「原油価格が暴落してもシェアを守る!」というサウジアラビアの強い意志の表明が、2014年11月のOPEC総会だったんです。
■リーマンショックで大暴落した原油価格
ひろこ しかし、今年(2016年)2月、原油価格は26ドルまで下がってしまいました。リーマンショックのときでさえ、安値は30ドル台前半でしたよね。
今年(2016年)の急落は想定以上だったのでは?と思います。
高井 リーマンショック前後、私はまだ現役でトレードしていました。原油価格が140ドルを超えてきたあたりで、ゴールドマンサックスが「1バレル=200ドルになる」とレポートを出したんです。
当時、ロイターのインタビューで私は「これはおかしい、下がるはずだ」と答えました。マーケットが非常に薄く、価格が跳んでいたからです。
価格がポンポンと跳ぶような動きは非常に危うい。上がるのも早いですが、下げも一気です。案の定、147ドルをつけてから暴落しました。
(出所:CQG)
■原油は現物、天底には限界がある
ひろこ 今回の下落局面でも、ゴールドマンサックスは20ドルになるとレポートを出していましたね。
高井 相場って、同じことの繰り返しなんです。上がってきたら「もっと上がる」とみんな言うし、下がってきたら「もっと下がるぞ」と言う。しかしながら原油は現物です。金融商品とは違って上限も下限もあるんですよ。
今回もやっぱり40ドル台まで戻りましたね。1バレル20ドル台じゃ原油開発は儲からないんですよ。
原油は現物なので、金融商品と違って上限も下限もあるという高井さん。1バレル20ドル台では原油開発は儲からないそうだ
相場が乱高下していると、極端な悲観・楽観が登場しがち。でも、原油って生活になくてはならないものだし、生産する人たちの生活だってかかっている。値動きにはやっぱり限界があるようだ。
とはいえ、今年(2016年)の値動きを見ても、原油価格は暴れ馬。どこに行くのかわからないし、いきなり走り出したりもする。
次回は、そんな原油価格を見る上で必要な指標やポイントを高井さんに教えてもらおう。
(「住友商事・高井裕之氏に聞く原油相場(2)原油価格は40ドル-60ドルのレンジ相場へ」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/和田佳久)
【ザイFX!編集部からのお知らせ】
本記事に登場した大橋ひろこさんが登場するザイFX!の連載企画が「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」。原油をはじめとしたコモディティ(商品)と為替について、大橋さんが元為替ディーラーの西原宏一さんと毎週、注目ポイントを話し合っています。
コモディティがテーマとなっている、こちらのコンテンツもぜひ、ご覧ください。
【参考コンテンツ】
●「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」
また、原油などのコモディティはCFDで取引することもできます。今回の高井さんと大橋さんの対談記事や、「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」を参考に、コモディティそのものをトレードしたい、でも、どの会社に口座を開けば良いのかわからないという人は、以下のコンテンツもぜひご覧ください。
【参考コンテンツ】
●NYダウや金にも直接投資できるCFD取引会社を徹底比較!
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