■FRB幹部の「早期利上げ」発言は単なる「口先介入」?
換言すれば、月曜朝(8月29日)に書いた文章どおりの結果になっている以上、すでに完成形になったわけで、これからの市況は別の視点で再点検しないといけない。
今晩(9月2日)の米雇用統計次第という側面はもちろん大きい。ただし、ここでまず指摘しておきたいのは、仮に今晩(9月2日)の数値が良かったとしても、米大統領選前の利上げ決定は、FRBにとって決して容易なものではなく、また9月FOMC(米連邦公開市場委員会)までの間にはいろんな指標が出るが、それらの整合性をとって判断していくと思われるからこそ、8月米雇用統計の影響力、巷に言われるほど大きくないかもしれない。
その上、ジャクソンホールにおけるイエレンさんの講演をよく吟味すればわかるように、「9月利上げ」といった示唆よりも「2016年年内利上げあり」といった暗示のほうが強かった。
2016年年内なら、9月より12月、すなわち米大統領選の結果が出てからのほうが得策で無難であろう。FRBの利上げ示唆は、これまで何回も繰り返されてきただけに、今回も過信すべきではなかろう。FRB幹部の早期利上げ発言自体、市場をコントロールする一種の「口先介入」と割り切るべきだ。
■目先の円安は、やや行きすぎ?
「米ドル高」より「円安」の方に注目しようといった論点は、前回のコラムで指摘したとおり。
【参考記事】
●ジャクソンホールでは、イエレン議長より黒田総裁に注目すべし! その理由は?(2016年8月26日、陳満咲杜)
では、その「円安」の方はどうだろうか。市場センチメントが再び円安に傾いてきた以上、目先の変動において、むしろ慎重に判断すべきかと思う。なぜなら、少なくとも目先の円安は、ややオーバーしているのではないかとみるからだ。
米ドル/円の104円の節目打診、英ポンド/円の138円節目打診やユーロ/円の116円節目手前までの上昇自体、自然の成り行きとはいえ、巷の思惑を大分織り込んだ結果でもある。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
その思惑とはほかならぬ、再度日銀が何かやるのではといった期待感に起因し、また、浜田宏一イェール大学名誉教授の発言が効いていた側面が大きいかと思う。
■7月の「ヘリマネ相場」が繰り返される?
安倍首相のブレーンとされる浜田教授が「アベノミクス失敗の可能性」ありと認め、「金融緩和を止めてはならない」と指摘、また「市場介入も外債購入も合法」と公に日銀に「注文」した。
これから政策総括する日銀が、安倍政権からの圧力で何か「特別」な政策を出すのではと、今度は市場関係者が再び思惑を膨らませ、円売りを急がせた。
いつも持論を繰り返しているだけのせいか、最近黒田日銀総裁の発言は、影響力が低下しているようにみえる。
ここで、しばらく登場していなかった浜田先生の話が効いているとすれば、それはほかならぬ、「日銀の独立性云々を、実は市場関係者の大半が信じていない」という皮肉でもある。肝心なのは、本当に日銀が言われるまま外債購入に走るだろうか、ということだ。
結論から言うと、日銀による外債購入は、この前の「ヘリマネ(ヘリコプターマネー」論と同じく、現時点では実現される可能性が極めて低く、巷の思惑が再度外れることになる公算が大きい。
【参考記事】
●ハイパーインフレもたらすヘリマネの恐怖。もしかしたら「悪い円安」がすでに進行中!?(2016年7月22日、陳満咲杜)
そうであれば、結局7月前半から半ばにかけて演じた市況、つまり財政出動への期待や「ヘリマネ」の思惑で米ドル/円がいったん大きく買われたが、その後材料の剥落でまた大きく売られていった市況と同様に、今回も先行した思惑のみでは米ドル/円をグングン押し上げるには至らず、期待や思惑の剥落で同じ市況を繰り返すのではないかと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
■思惑に依存する値動きは長続きしない
総合的にみると、米ドル/円における円高モメンタムがいったん切れたとはいえ、本格的な上昇トレンドに復帰するには時間がかかるだろう。しばらく波乱含みの展開を覚悟すべきだ。
思惑に依存する値動きは長続きしないから、目先の米ドル高・円安もいったん修正される可能性が大きい。市況はいかに。
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