■ 第3回の公開討論会でヒラリーさん有利が決定的に?
目もあわせず、罵倒しあう男と女――後味の悪い幕引きとなったのは10月中旬に開催された最後の米大統領選テレビ討論会だ。
【参考記事】
●お下劣トーク流出でトランプ陣営に悲壮感。クリントン勝利でもリスクオンとは限らない
●トランプいわく、大統領選は「八百長」でクリントンは「いじわるオンナ」らしい!?
相次ぐ女性蔑視発言やセクハラの噴出で窮地に立たされているトランプさんとヒラリーさんの戦い。
米大統領候補のドナルド・トランプ氏とヒラリー・クリントン氏。相次ぐ女性蔑視発言などでトランプ氏は窮地に立たされているが… (C)Steve Pope/Getty Images
下馬評どおりにヒラリーさんが当選するのか、あるいはトランプさんが大逆転への切り札となるジョーカーを隠し持っているのか。為替市場にはどんな影響を与えるのか。
そんなあれこれ、テレビ番組でもおなじみのアナリストであるソニーフィナンシャルホールディングスの尾河眞樹さんに聞きました!
■「モーサテ」でおなじみ、尾河さんの予想はヒラリー
「過去2回に続き、最後となる3回目のテレビ討論会でもヒラリーさん優勢の結果が出ています。
期日前投票も始まっており、ここからトランプさんがひっくり返すのはかなり難しい。ヒラリーさんが逃げ切る結果になるでしょう」
夏ごろにはトランプさんが猛烈に追い上げて接戦だったはずなのに、両候補の差はどこで拡がったのだろう。
(出所:FOX Newsの調査より)
■尾河さんを感心させたヒラリーの返し
「ヒラリーさんに人気があるわけではないんです。メール問題や健康問題、ヒラリーさんにも不安材料があります。
でも、それ以上にトランプさんがスキャンダルや失言で支持率を落としています。
今回の討論会でも、『あなたは選挙結果を受け入れるか?』と聞かれ、トランプさんは明言しなかった。その時、ヒラリーさんが『彼はアメリカの民主主義を見下している』と言ったのは、うまい返しでした」
ヒラリーさんに人気があるわけではないという尾河さん。でも、討論会でのヒラリーさんの返しはうまかったと感心したそうだ
最近では「今回の選挙はメディアぐるみで不正が行なわれている!」と難癖をつけ始めているトランプさんだが、この戦略、得策ではなかったようだ。
■選挙結果にイチャモンをつける可能性も
「アメリカ人にとって民主主義は価値の基盤。それを否定するようなことを言えば、多くの批判を受けます。
まずいと思ったのか、討論会直後、トランプ陣営は選挙結果を受け入れることを表明しましたが、一方で『不正があれば追求する権利がある』というようなことも言っています。
ヒラリーさん当選となっても、訴訟を起こしたりなんだりと、スッキリしない感じになる可能性はありますよね」
ヒラリーさんが当選しても、訴訟を起こしたりとすっきりしない感じになるのでは?尾河さんは指摘する
ヒラリーさん当選は既定路線となりつつあるが、よぎるのは6月の英国国民投票。あのときも直前の世論調査ではEU(欧州連合)残留が多数派だった。それなのに英国国民の選択はまさかのBrexit(英国のEU離脱)だったわけで……。
【参考記事】
●EU残留予想はモーサテ100%、ザイFX83%。驚きの英国国民投票・緊急アンケート結果
●英国はEU離脱により、国家崩壊の道へ!? ポンド下落はまだ不十分でさらなる暴落も
■不満を抱えた72%のアメリカ人が動けば、あるいは…
「トランプさんが当選するとすれば、『今、見えていないもの』が表面化するということでしょう。
『あなたはアメリカの現状に満足していますか?』との問いに対して『Yes』と回答したのはわずか28%。残りの72%は不満を抱えているということです。その票がどちらに流れるか、わかりません」
この72%の心をトランプさんがつかめれば、一気に形勢逆転となる。そこでカギとなるかもしれないのが「天候」だと尾河さん。
■投票日の天候が不順なら波乱のタネに
英国国民投票の当日、イギリスは大雨に見舞われた。EU残留派には「雨かぁ。家でネットでもしてよ」と棄権する人が多かったのに対し、EU離脱派は「今こそイギリスを変えるとき! 行くぜ!」と鉄の意志で投票所へ向かった人が多かったとされる。
「投票行動は天候に左右されやすいわけです。
今回の米大統領選では、トランプ支持者のほうが真剣。『今のアメリカを変えたい!』という強い思いのある熱狂的な支持者が多い。トランプ支持者は天候が悪くても投票に行くでしょう。
それに対して、ヒラリーさんの支持者が『トランプよりはヒラリーかな』といった消極的支持が多いため、天候次第では得票数に結びつかないかもしれない」
投票日は11月8日(火)。この日ばかりは地元だけでなく、アメリカの天気予報にも注意する必要がありそうだ。
■「民主党候補の3期連続」は異例
ヒラリーさん当選を否定するデータもある。
「過去、民主党が3期続けて大統領になったことは少ないんです。
レーガンさんは2期務め、後継もブッシュさんが当選したため、3期続けて共和党となりましたが、2期同じ政党が続くと3期目は変わることが多い。
今回はオバマ、オバマと続いたあとなので、前例からいえば、共和党の番となります」
■2人の政策、どんな違いが?
もうひとつの注目が2人の政策だ。
「有権者の注目度が高いのは雇用や経済、財政など。そこで国民にやさしい政策を打ち出しているのはトランプさんです。
減税やバラ撒き、積極的なインフラ投資と、国民にやさしい経済政策なのはトランプさん。ヒラリーさんが得意な環境やダイバーシティ(多様性)といった分野への関心は高くありません」
■トランプ当選の可能性は10%以下
本当なら共和党は「小さな政府」路線だし、民主党のほうがインフラ投資などに積極的な「大きな政府」路線というのが、これまでの色分け。
それが今回は逆転しているのだとも尾河さんは指摘する。
ヒラリーさんが当選すれば初めての女性大統領だし、トランプさんならアイゼンハワー以来の公職経験のない「アウトサイダー」の大統領となる。
「ただ、トランプさんの当選はテールリスクとなりつつあります。10%もないくらいでしょう」
■選挙結果の判明は9日朝か
6月の英国国民投票では日本時間の昼前に結果が判明した。今回の米大統領選はいつごろ結果がわかるのだろうか。
「前回、2012年の選挙では夕方より少し前にはオバマさん再選の速報が流れた記憶があります。
接戦になればもう少し時間がかかるかもしれないし、ヒラリーさんの圧勝なら出口調査の段階で速報が流れるかもしれません」
接戦になれば、選挙結果が出るまでにもう少し時間がかかるかもしれないし、ヒラリーさんの圧勝なら出口調査の段階で速報が流れるかもしれないというのが尾河さんの見方
投票は11月8日(火)。日本時間でいえば9日(水)の午前中が投票の締め切り時刻の目安となる。ただ、アメリカは広い。
前回の投票締め切り時刻を見ると、ニューヨークは朝11時(日本時間、以下同)だったのだが、ハワイ州は午後1時。アラスカ州のアリューシャン列島にいたっては午後3時と時間のズレが大きく、アメリカの広大さを感じる。
とはいえ、日本のお昼休みが始まるまでに大半の州で投票が締め切られる。11月9日(水)は午前中から出口調査などのニュース速報に気をつける必要がありそう。
■注目はフロリダ、オハイオの「スイング・ステート」
「注目の州はフロリダ、オハイオ。この2州は選挙人の数が多く、また民主党と共和党の支持が拮抗した『スイング・ステート』でもあります。
トランプさんとしては是が非でも抑えたい2州でしょう」
前回2012年選挙だと、オハイオ州の投票締切時刻が午前9時半、フロリダ州は午前10時だった。この2州の出口調査でトランプさんが勝っているようだと、相場に動きが出てくるかも。
(出所:野村證券作成資料より抜粋)
ちなみに、セントラル短資FXでは11月9日(水)午前7時半から9時まで特別セミナー「米大統領選2016 Special Live!」を、ヒロセ通商では午前11時から「アメリカ大統領選挙LIVE」の開催を発表している。
11月9日(水)、前回の投票締切時間などを参考にしてタイムテーブルを作成すると、下記のようになる。投票時間などは今年(2016年)、異なる可能性もあるので気をつけてほしい。
11月9日は水曜日。会社がある人も多いだろうが、気になる人はセントラル短資FXのセミナーを見てから出社するなんてこともできそう。あるいは思い切って有給休暇の申請を!
(本記事の取材は10月21日(金)に行っています。その後、10月28日(金)にFBIがヒラリー・クリントン候補のメール問題を再捜査すると発表し、それを受け、世論調査でのクリントン候補の支持率は若干低下しているようです(ザイFX!編集部))
(「ソニーFHDの尾河眞樹さんに聞く(2)トランプ当選ならドル/円は100円割れも…」へつづく)
(取材・文/ミドルマン・高城泰 撮影/小島真也(撮影は特記したものを除く))
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